第31話 お化け屋敷

「ここはいろんなお店があるね」


 俺がいう。


「……そうだね」


 低めの声で返される。


 蛍ちゃんは男の恰好で、イケボっぽく言う。


 見た目はもう美少年だ。


「じゃあ、あの店なんてどうだい?」


「あの店は——」


 俺はお化け屋敷を指さした。


「いやいや、育滝さん。怖いところじゃないですか」


 いつもの声になる。


「嫌なのかい?」


「悪くはないですけど、結構このお化け屋敷怖くて……」


「試してみてもいいかい?」


「まぁいいですけど……怖くても知りませんから」


 そして俺と蛍ちゃんは、お金を払って中に入った。


***


 中は想像以上に怖い雰囲気だった。


「うらめしや~」


「ぎゃ!」


 俺の驚く声だ。


 俺は蛍ちゃんの背中に隠れる。


「助けて蛍ちゃん……めっちゃ怖い……!」


「こういうのって普通逆じゃありませんか!?」


「すみません! 割とだめだった!」


 いや、もう土下座してでも守ってもらいたいぐらい怖かった。


「そ~こ~の~ひ~と~」


 女性の幽霊が蛍ちゃんにとりつく。


「ひゃん!」


「ちょ~イケメン~

 わ~た~し~と、つ~き~あって~!」


「急に変なこと言わないでください!」


「付”き”合”え”ぇ!!!!!」


「ひゃあああ!!」


 急なビビらせに、俺も蛍ちゃんも驚く。


 お互い抱きしめ合いながら、恐怖した。


***


 出口に出るとき、俺は蛍ちゃんを抱きしめていた。


 蛍ちゃんも俺と抱きしめていた。


「怖かったね蛍ちゃん……」


「うぅもう心臓が飛び出るかと思いました……」


 互いが互いを守ってもらおうとした結果、自然と抱きしめ合っていた。


 そんな俺と蛍ちゃんを見て、「男同士だわ!」「ホモの人かしら?」と好奇な目で見られていた。


「……」


「……」


 恥ずかしいと言えば恥ずかしい。


 しかし、何とも言えない奇妙さがあった。


「あはは……」


「ふふ……面白いですね、育滝さん」


 そんなひと時を過ごしたのだった。

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