第29話 いじめ()の理由
「いらっしゃいませ、お客さ……育滝さん!?」
「やあ、来たよ」
驚く蛍ちゃん。
ウエイトレス姿である。
短めのスカートにフリルが付いたエプロン。
とても可愛らしい格好だった。
「早く来たんですね」
「うん、どうせなら喫茶店の様子も見たかったからね」
「はぁ……」
何気なく元気がない。
「ええと、邪魔だったかな」
「いいえそんなことはありません! 中にお入りください!」
そして案内される。
内装は豪華絢爛だった。
「逆に喫茶店っぽくないね」
「ですよね……はいメニュー表になります」
メニューに目を通す。
飲み物はダージリンに、ジャスミン、コーヒー、ミネラルウォーター。
食べ物は、サンドイッチだけだった。
普通の喫茶店に比べてもシンプルだった。
質重視だろうか?
「ダージリンとサンドイッチで」
「かしこまりました!」
蛍ちゃんは厨房に入っていく。
「あれ……」
すぐには戻ってこなかった。
注文内容を伝えるだけのはずなのに。
「おい、あんた。あの子とお知り合いかい?」
すると突然話しかけられた。
蛍ちゃんと同じウエイトレス姿の女子である。
「ということはさ、あんた庶民だろ?」
「そうだけど、君は?」
「あたいは美々杏<びびあん>さ」
とても勝気そうな女子だ。
それだけならまだいい。
けれど、態度があまりにも露骨だった。
(蛍ちゃんをいじめてるのはこいつか?)
「おいおい、そんな熱い目であたいを見んなよ。てれっだろ?」
「……喫茶店のスケジュール、蛍ちゃんだけ厳しいって聞いたけど」
にやりと、ゲスイ笑みを浮かべる。
「そりゃあ、接客も調理も片づけも蛍の仕事だからな」
「君らは何もしないのか?」
「あたい達は見てるのが仕事だからね」
俺の怒りゲージが高まってくる。
が、冷静に自分を抑えつつ質問する。
「……そんなことしていいと思ってるのかい?」
「もっちろん。
——だって、アイツの自業自得だもん」
「自業自得……?」
どういうことだ?
「喫茶店がいいなんて言ったのはアイツだよ。
——あたい達の意見を無視して、強引に自分の案をねじ込みやがったのさ」
「なん……だと……」
それじゃあまるで、蛍ちゃんが悪いみたいじゃないか。
「もう案が決まりかけていたんだ。皆があたいの案を選んだってのにさ……全くふざけた真面目ちゃんだよ。
アイツにいじめられてんのさ! あたい達が! ……ねぇ知り合いならさ、あんたもアイツにガツンと言ってやんなよ! なぁ?」
「なぁ……? ……ですか?」
俺の声じゃない。
厨房にいたはずの蛍ちゃんが、美々杏の後ろに立っていた。
「び」
「び」
「あ」
「ん」
「ひぃ!! ビビらせんな!! 怖いだろ!!」
「なにが……【なぁ?】 なのですか……??」
「あったり前だよ!! 民主主義に反したアンタが悪いじゃんかよぉ!!!」
「……へぇそうですか??? 民主主義ですか??? 馬鹿言わないでください!!!」
言い争いがエスカレーションする。
俺は察して仲裁した。
「二人ともストップ!! 喧嘩は無し!!」
「……」
「……」
正直、怒り狂う蛍ちゃんを見るのは初めてで、俺もビビっていた。
冷や汗が止まんない。
「第三者の俺を加えて、冷静に議論しよう。いいですか?」
「……はい、育滝さんが言うなら」
「ああ、きっちり勝ち負け決めようぜ!」(負けフラグ)
こういうことをするのは初めてだが、仕方ない。
「それじゃあ、蛍ちゃんの言い分を聞こうか」
「はん、聞いても無駄だぜ。
どうせ自分勝手で自己中心な言い訳だよ。全くこれだから庶民は!」(第2の負けフラグ)
「美々杏さん……蛍ちゃんが話すからちょっと静かに……」
「ま、どうせあたしの勝ちに決まってるし、鼻ほじりながら聞いてやるさ! ハハッ!」(凄まじい負けフラグ)
そして一拍置いた後、蛍ちゃんは語りだした。
「わたしが喫茶店を提案する前、どんな案が通ろうとしていたか……育滝さんはご存知ですか?」
「……いいや知らない」
「——フリチン背泳ぎ大会です」
…………………………………………?
「もう一度言いますよ。【フリチン背泳ぎ大会】です」
……???????????????????????????????????????????????????????????????????????????
「そうともさ!! あたいが提案したのは、フリチン背泳ぎ大会!!
ジャニーズを始めとしたイケメンアイドルを沢山呼んで、全裸で背泳ぎしてもらうのさ!!!!
——これこそが最高のエンターテインメントなんでぇいいいい!!!!!」
「蛍ちゃんの勝ち」
「何でぇええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!!??????????????」
これが金持ちかぁ……
金持ち怖いなぁ……
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