第26話 連絡先交換

「お茶でもいかがですか?」


「……いいえ、お構いなく……」


「まぁまぁそういわず。娘の彼氏として、あなたとお話したいですわ」


 そうして俺は座敷に座らされる。


 俺と蛍ちゃん、春ちゃん。


 そして、智美さん。


 色々あった後なので、正直緊張が残ってた。


「リラックスされてください。

 大丈夫、主人はまだまだお仕事中ですので」


「休日出勤は大変ですね」


「ええ。仕事が立て込んでるようで……ねぇ育滝さん」


「はい」


「わたくしの見立てですと、あなたと蛍の関係が主人にバレたら、とぉぉ~~~~てもメンドクサイことになると思います」


 そりゃそうだ。


「ですので、わたくしもなるべく黙っていますが、あなたも見つからないように努力してください」


「……はい。全力を尽くして秘密にします」


「蛍もよ」


「は、はい……! ママ」


 健気な返事をする蛍ちゃん。


「いい子ね。で、春ちゃんは……」


「もちろん、秘密にさせていただきます」


「おほほ、本当にごめんなさいね。本当は日坂家に関係ないあなたを巻き込んでしまって」


「いいえぇ! すべての元凶はこの男と蛍なんですから。

 智美さんは全く関係ないです」


 俺と蛍ちゃんは視線を逸らす。


 中学生の娘と、中年のおっさんの恋愛。


 下手すれば家庭崩壊レベルの爆弾である。


 ……なんだか大変申し訳なくなる。


「苦労を掛けて本当にすみません」


「おほほ、いいのよ。

 恋愛を邪魔する権利なんて、本当は誰にもないのだから」


「ママ……」


 心に響く言葉だった。


「お母さま。ありがとうございます」


 俺は頭を下げた。


「誰がお母さまですって?? 調子に乗られても困りますが??」


「はいごめんなさい」


 マジレスされへこむのだった。


***


「さて、もう時間ですわね」


 時計を見て言う。


「ではそろそろ」


「お待ちを」


 智美さんに呼び止められる。


「連絡先を交換してください」


「あ、はい」


「ラインは使えますか?」


 もちろん。


 俺はスマホを取り出し、連絡先を交換する。


「これでかんりょ——」


「……むぅ」


 隣で膨れてるのは、蛍ちゃんだ。


「ママ……わたしまだ、育滝さんとライン交換してない……」


 それを見た春ちゃんと智美さんは驚く。


「うぇ!? まだ連絡先交換しとらんかったの?」


「——あら、やだ……この子ったらわたくしに焼きもちを——おほほ」


 俺は、自分の過ちに気づく。


 本来なら俺が真っ先に連絡先を交換しなければならない相手は蛍ちゃんだったのに。


 いや、親バレする前だったら、証拠を残さない為に連絡先を交換しないのが正解だった。


 でも、ママ公認になれば、その制約は緩和される。


 俺は即座に蛍ちゃんに謝った。


「申し訳ない。俺が気を利かせればよかったのに」


「育滝さん……」


「俺と、ライン友達になってくれるかい?」


「……はい!」


 蛍ちゃんと友達登録する。


「これでいつでも一緒だね、あはは」


「ふふふ」


 俺と蛍ちゃんは微笑み合う。


「ねぇ育滝さん」


「なんだい?」


「その……いつでも……連絡していいですか……?」


「うん、もちろん」


 ぱぁと笑顔になる蛍ちゃん。


「ありがとうございます! これでいつでもお話しできますね!」


 天使のような笑顔を返してくれるのだった。

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