第25話 99%の死刑宣告

「今すぐこの子達から離れて下さい」


 ドスの効いた声。


 俺は蛍ちゃんと春ちゃんから即座に離れる。


「ママ違うの、この人は悪い人じゃない」


 蛍ちゃんの弁明。


 だが、聞く耳を持たない。


「服は……着崩れてないわね。よかったわ、胸を触られただけで済んで」


「ママ聞いて」


 娘たちを慈しむ母親の表情。


 おそらく俺より少し上ぐらいの女性。


 蛍ちゃん譲りの貧乳だが、身長は160ぐらいあり、蛍ちゃんより大きい。


 セミロングの黒髪が大人の色気を醸し出していた。


 そんな大人の女性が、俺に敵意を剥き出しながら、丁寧な言葉遣いで、俺に言った。


「そこのあなた」


「……はい」


「チャンスをあげます。自分の携帯電話で、警察に自首しなさい」


「!?」


「これはあなたの為ですのよ。

 あなたが自分の罪を認め悔いるのなら、これ以上追及はしません」


 俺は……


 俺はどうすれば……


「野良犬のように逃げるのであれば、警察に通報せざるを得ません。

 そしてもし、獣のように娘達に襲いかかるのであれば、人殺しもやむえません」


「ヒィ!! 違います!! 決してそんなことは致しません!!」


「……ならば罪をお認めに?」


 俺は悩んだ。


 いや、もう現実的には自分で自首する他ない。


 無駄な悪あがきしても、怖がらせるだけだった。


 でも、それでも。


 嫌だと思った。


 俺は決して間違ったことをしていない。


 本気の恋愛だった。


 純粋に蛍ちゃんに恋をして、清廉な気持ちで愛情を伝えた。


 これがその末路でいいのか?


 認めたくない気持ちでいっぱいだった。


「と……智美<ともみ>さん!」


 声を出したのは、春ちゃんだ。


 智美というのは、蛍ちゃんのママの名前だろう。


「蛍の話聞いてあげて下さい!」


「……」


「この人、育滝さんっていう方なんですけど、決して悪い人じゃないんですよ!」


「でもあなたと蛍に襲い掛かってたわ」


「じ、事故! あれは事故! あたしがこいつを押したせいでああなったんです! あたしのせいなんです!」


 徐々にだが、智美さんは冷静さを取り戻しているように見えた。


「お願い、聞いてママ」


「蛍……」


「育滝さんは、わたしの恋人なの」


「そんな……こんなおっさんと付き合ってるっていうことなの……?」


 おっさん呼ばわりはショックだが、事実である。


「それでも付き合ってるの! 一ヶ月も前から!」


「成り立つわけないでしょ?? どう見ても歳の差がありすぎるわ!」


「関係ない!! ママのばか!!」


 段々と喧嘩になっていく。


「育滝さんは本当に優しくて面白くて、大好きな人なんです!

 学校がつらくてもね、一緒に居てくれたの!

 育滝さん以上の男の人なんていないです!」


「蛍……」


 感情が揺さぶられるほどに、熱い愛のメッセージだった。


「……育滝さん……恋人ねぇ……」


 さっきとは別のベクトルで、殺意が向けられる。


 さっきまでが強姦魔で、今は卑劣漢といった違いに過ぎないが。


「は、はいぃ!」


「蛍とは、どういう付き合い方をされてますの……?」


「……ええと」


「はぐとか? キスとか? ……それともそれ以上ですか?」


 俺を試しているようだった。


「娘をどう手篭めにしたのです? さ あ、白 状 し な さ い……」


 最後の審判だった。


 99%の死刑宣告。


 本当のことを言ってみる? いや信じてもらえない。


 嘘を言ってみる? 容赦なく切り捨てられるだろう。


 俺は


 俺は、俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は………


――あるじゃないか


――俺と蛍ちゃんを結んでくれた


――思い出の証拠が


「――これを」


 ポケットから、あるものを取り出した。


「……これは?」


「読んでみて下さい」


 一冊のメモ帳だった。


「俺と蛍ちゃんの、日々のやり取りが書いてあります」


「……」


 ペラり、ペラり、と智美さんはページをめくっていく


「確かに、蛍の筆跡……」


 一言呟いた後は、静かに黙読していた。


 たったの数分が何十時間にも感じた。


「……」


「……」


「……」


 俺と蛍ちゃん、春ちゃんが固唾を飲んで見守る。


 そしてしばらくすると、智美さんはパタン、とメモ帳を閉じた。


 静かに目を瞑る智美さん。


「……読ませていただきました」


 そして、瞼を開け、俺の方を見た。


 優しく、暖かな眼差しだ。


「育滝さん」


「は、はい!」


「完全に認めたわけではありません。

 けれど、娘と誠実に付き合う限り、わたくしから何も言うことはありません」


「……」


 聞き違い? いいや違う。


 俺は蛍ちゃんを見る。


 蛍ちゃんも俺を見た。


 俺も蛍ちゃんも、湧き上がる感情を抑えられない。


「やったあああああああ!!!」


「よかった! よかったよぉ!」


 二人で強く、抱きしめ合うのだった。



―――

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