第23話 蛍ちゃんの部屋で

「あの、すごく歩きにくいんだけど……」


 俺は真っ暗闇の中、両手を引かれて歩いていた。


「その目隠しとっちゃ駄目だから。あんたに住所バレしたら、変なことしそうだからね」


 春ちゃんは、駅に着いた俺を目隠しさせて歩かせているのだ。


「すみません、育滝さん。

 わたしは気にしないって伝えたのですけど……」


「うんにゃ。こいつがいつ正体を現すか分からないし、蛍の身に何か起きたらたまんないからね」


「そんなことするとは思えないんですけど……」


「蛍、怪しくない奴ほど、事件の犯人だったりするのよ」


 まあ、ミステリー小説だったら正しい。


「さて、着いたわよ」


「育滝さん。目隠しとりますね」


 視界が開ける。


 目の前には春ちゃん。


 そして奥には大きくて新築の一軒家がある。


「おぉ、これが蛍ちゃんのおうちか」


「はい、そうです」


「過ごしやすそうな広い家だね」


「家族3人だと少し広いですね」


 そういう話をしながら、玄関を開けて中に入る。


「お邪魔します」


 内装も新品で綺麗だった。


「2階がわたしの部屋です。

 洗面台で手を洗ったら上がってください」


 俺、春ちゃんは洗面台に向かう。


 そして中に入る。


 当然きれいな洗面台だが、部屋の中に浴槽のドアがある。


「ん?」


 そして、洗濯物入れの中には、女性ものの下着がちらりと見えた。


 これって、蛍ちゃんのものが入って——


「はいはい、あんたはさっさと手を洗う。

 変なの見るんじゃないよ、エッチ」


「す、すまん」


 そんなこんなで、手を洗い終え、二階に上がるのだった。


***


「おお」


 入った瞬間、声がでる。


「すごいシンプルだ」


 大きい本棚が特徴的だった。


 しかしそれ以外は、机に、ベッド、可愛らしいカーテンといったシンプルな内装だった。


「はい、結構片づけたんですよ」


「俺が来るから?」


「いいえ。中学校に入る前に、勉強に必要なさそうなものを押し入れに入れたんです」


 さすがは優等生である。


「ぷいきゅあグッズも押し入れの中なの?」


「はい……あの、勝手にあけないでください」


 春ちゃんは真っ先に押し入れを開けて中を見ていた。


「あ、見つけた! 懐かしいわぁこれ」


 ぷいきゅあの変身コンパクトが出てくる。


 可愛い。


「ちゃんと後で片づけてくださいね……」


「するって、するって——お、これはランドセルだね」


 春ちゃんは、赤いランドセルを取り出した。


 俺は内心、興味深々だ。


「もうあんたも中学生かぁ……早いねぇ」


「あはは、そうだねぇ……はぁ……」


 蛍ちゃんはため息を吐きながら言った。


「小学生に戻りたい……」


 わりと深刻な悩みだ。


「学校さえ……学校さえ間違わなければ……うぅ」


「……」


「……」


 少し気まずい雰囲気。


 空気を変えるため、俺は茶々を入れてみる。


「そうだ、ランドセルつけてみてよ。

 小学生に戻った気分になるかも」


「そんなのあまり関係ないですよ……」


 そういいつつ、ランドセルをつける蛍ちゃん。


 ノリがいいのか、流されやすいのか……


「かわいい」


 蛍ちゃんを見てつい、感想が口に出る。


 私服姿に、ランドセル。


 どう見ても女子小学生だ。


「めっちゃ似合ってるよ、蛍! もう小学生そのものじゃん」


「んもう、からかわないでください! そんな年齢じゃないです!」


 いじられて怒る蛍ちゃんは、可愛かった。


 俺と話す時とは、まるで別の姿である。


「おほん、二人とも、わたしの話を聞いてください」


 すると、蛍ちゃんは改まって俺と春ちゃんに話しかけた。


「育滝さんをわたしの部屋に呼んだのは理由があります」


「理由?」


「それは——」


 俺と春ちゃんを見て、こういった。


「勉強で疲れている春ちゃんに、育滝さんのマッサージを味わって欲しいのです」


「「へ——」」


 俺と春ちゃんは、その提案に、とても驚いた。


「いいですよね? 育滝さん?」


 上目づかいで、俺におねだりする蛍ちゃんは、正直可愛すぎてたまらなかった。

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