第21話 近づく距離

「おはようございます。育滝さん」


 蛍ちゃんは、俺のもとにとことこ近づいてくる。


 いつもよりとても距離が近いと感じた。


 恋人の距離感である。


「おはよう。蛍ちゃん」


 内心、ドキドキしながら答える。


 すると、蛍ちゃんはメモ書きに文字を書き入れた。


【昨日はありがとうございました】


【どういたしまして】


【おかげで勉強が捗りました。今日の中間テストはとてもいい感じになりそうです】


 なるほどそういう時期なのか。


【いつもはもっと頑張らなきゃ、って自分を追い込んでいたんです。

 けれど、今までよりとてもリラックスしてるような感じなんです】


 笑顔を向けて伝えてくれた。


【育滝さんといると、いつもよりもずっとずっと楽しいと思っています】


 なんだか吹っ切れてると感じるくらい、生き生きしていた。


【そこまで言ってくれるなんて、とても嬉しいよ】


【どういたしまして】


 人は恋をすると変わるらしいが、ここまでなのかと感心する。


【中間試験終わったら、また遊びに行くかい】


【はい!】


 ふふ、と笑う蛍ちゃん。


【それとですね――

 実は中間試験のあと、文化祭があるんです】


 文化祭――


 つまり、聖奇跡<セイントハート>学園の文化祭である。


【学内の親族、もしくは特別な招待状が無いと入れないと言われてる聖奇跡祭のこと……?】


【そうです。わたしが申請すれば、育滝さんに招待状を渡せるはずです】


 とろんとした目で、俺を見る。


【一緒にどうですか?】


 俺は二つ返事で快諾するのだった。

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