第10話 アニメじゃない
【この前おすすめされてた本、読み終わりました】
蛍ちゃんはうずうずしながら俺に報告する。
【どうだった?】
図書館に行ったとき、俺はある作品を蛍ちゃんに教えた。
『魔法少女ルナリアン』である。
【とっても面白かったです!!】
心の底から喜んでる様子だ。
よほど気に入ったのだろう。
【切ないのに、ドラマチックで心が熱くなるような気持ちになりました!
主人公の月子ちゃんが本当に可愛かったです!】
全くの同意見だ。
【特に、最初は敵だったニューツバイが、死ぬ間際に友達になるシーンはもうボロボロ泣いちゃいました!】
蛍ちゃんが熱く語りかけるたびに、鮮明に作品の記憶が呼び覚まされる。
【俺もこのシーンを読んだとき、教室の中なのにボロ泣きしたよ】
【そうなんですね! 気持ちわかります!】
こうしてオタクトークしあう俺と蛍ちゃん。
【とても面白かったので、続きがとても気になります】
【図書館に行くのが待ち遠しいね】
【はい!】
俺はふと思うことがあったので、質問した。
【そういえば、アニメって興味ある?】
【アニメは小学生の頃は見てましたけど、今ではあんまり見ないです】
【なら、『魔法少女ルナリアン』のアニメって興味あるかな?】
蛍ちゃんが、ぴくん、と反応する。
【あるんですか?】
【ある。全シリーズのBD買ったから】
蛍ちゃんの目がキラキラ輝く。
【貸してあげるよ?】
【いいんですか!?】
無邪気に喜ぶ蛍ちゃん。
俺もなんだかほっこりする。
【ありがとうございます。
こんな私に色々してくださるなんて、正直どうお返しすればいいのか】
謙遜する蛍ちゃん。
正直、お返しなんていらないほどに、貰いまくっていた。
これが人を好きになるということらしい。
俺は正直な気持ちを書いた。
【俺は蛍ちゃんのことが好きだから、これからも一緒に過ごしたい】
「え——」
驚くのも無理はない。
正直な気持ちを伝えたはずが、いつの間にか告白文になっていた。
逆に俺の方が、自分でびっくりしてたかもしれない。
【それって、愛してるってことですか?】
この先、後戻りできないかもしれない。
それでも伝えるのか——
【愛してる】
「————————」
自分の想いに嘘なんてつけないし、ごまかせない。
多分、受け入れてもらえないだろうけど。
ああ、でも心臓がバクバク言ってやがる。
今からでも取り消したいが、それじゃかっこ悪すぎて馬鹿みたいだ。
長い硬直の中、蛍ちゃんは返事を書いた。
【私は育滝さんのことが好きです。けど、愛してるのかどうかは分かりません。
それは恋人同士、なのでしょうか?】
本人もあまり言語化できないようだ。
俺が察するほかないだろう。
つまり——愛そのものが分かんないってことだろう。
俺は正直な感情を、蛍ちゃんに伝える。
【俺は蛍ちゃんのこと、宇宙で一番かわいいって思ってる。
しぐさが可愛いし、俺のことを受け入れてくれるし、一緒にいると気持ちが熱くなる。
——君は美しい】
「……え」
【蛍ちゃん、俺のことをどう思ってる?】
蛍ちゃんは考える。
【子供っぽくて、変な人で、エッチなこと考えてて——】
俺、どうやらダメ人間っぽい。
【けど、ちょっぴりワイルドで、優しくて、面白い——かわいい人だなって】
「——あ」
自分で何かに気づいた様子だ。
【愛するって難しく考えすぎてたみたいです。
本当はこんな簡単で、単純な想いだったんだ——】
そして、最後に俺に笑顔で、そして俺以外の誰にも聞こえない小さな声で——
「恋人同士で、いいですか——?」
俺は
「——うん。もちろん」
そう返す。
蛍ちゃんは、「ふふ、なんだか変な気持ちですね」と感想を言った後、
「もう時間です」
そういって、駅を降りた。
小さく俺に、手を振って——
俺も手を振り返すと、彼女も笑顔になる。
完全に駅を置き去りにした、一人電車の中、自分の頬をつねる。
もちろん痛い。
「アニメじゃない」
本当のことだと、今やっと気づいた。
—————
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