第8話 エッチな話

 日曜飛ばして、今日は月曜日。


 デートから丸一日蛍ちゃんに会えず寂しい思いをした。


 そして——


「おはようございます」


 蛍ちゃんが電車に乗ってくる。


「おはよう」


 俺も笑顔で挨拶する。


 幸せな気持ちだ。


【今日も元気だね】


【はい、今日も元気です】


【昨日はどんな風に過ごしたの?】


【パパとママとで、レストランに行きました】


 蛍ちゃんの家族のことを想像する。


 こんな娘がいたなら、もうすべてが幸せに違いない。


【いいねぇ、仲良し家族ってかんじだね】


【そうですね。パパもママも好きですし】


 素直でいいねぇ、と思う。


【育滝さんの家族はどうなんですか?】


 逆に質問されてしまった。


 自分のことを打ち明けるのは恥ずかしいが、まあ別段隠すようなことでもない。


 両親や兄妹のことを打ち明ける。


【そんな感じなんですね】


 なるほど、といった様子だ。


【とはいえ、今は一人暮らしだから気楽だね】


【気楽ですか?】


【あれしろ、これしろ、って言われないからね】


「……」


 蛍ちゃんは静かに、考えるしぐさをする。


【親から干渉されない生活って、どんな感じか想像できないです

 やっぱり開放的だったりするんですか?

 寂しいとかならないんですか?】


 蛍ちゃんは今は13歳、多感なお年頃である。


 これは一人の大人として答えなければいけないようだ。


【寂しいというのは確かにあるよ。

 けれど親から巣立つことによって、人は大人になるんだよ】


「へぇ」


 我ながらいい答えを言ったと思う。


 多分。


【とはいえ、寂しいだけが一人暮らしじゃないよ! 何しても自由だからね

 例えば——】


 俺は書くのを中断する。


 【例えば】なんて勢いで書いたのは、まずかった。


「……?」


 蛍ちゃんは、例えば何するんですか? なんて表情をしている。


 正直、一人ですることなんて、(自分の場合は)大抵人には言えないようなエッチ方面な話にしかならない。


 とはいえ他に思い浮かばないのだから仕方ない。


 意を決して書いた。


【例えば、大人の行為をすることかな】


 蛍ちゃんの頬がほんのり火照る。


【大人の行為って、どんなことするんですか?】


「……」


 中学生相手に伝わるような、ニュアンスで書く。


【セクシーな本を読んで妄想して、みたいな】


【なるほど、そんな感じなんですね!】


 蛍ちゃんの安堵が伝わる。


【もっと激しいことしてるんだって考えちゃいました】


 お、もしかしてこれはエッチな話が出来るんじゃないか?


 怖がらせないように、軽い気持ちアピールしながら質問する。


【例えばどんな想像だったの?】


 しどろもどろしながら、蛍ちゃんは正直に書く。


【大人向けの小説で書いてあるような、男の人と女の人が抱き合ったり、肌に噛みついたりする場面です】


 噛みつくかぁ……攻めた描写がある小説だなぁ


【蛍ちゃん、試しに俺に噛みついてみるかい?】


「ええっ……」


 怖がらせないつもりだったが、さすがにドン引きされたようだ。


【ごめん、冗談】


【びっくりしちゃいました】


 多少はエッチなことに興味あるとはいえ、まだまだ子供だ。


【男の人が考えてることについて、勉強になりました】


【どういたしまして】


 そして蛍ちゃんは駅に降りて行ったのだった。


***


(成り行きとは言え、蛍ちゃんのエッチへの関心度を上げてしまうだなんて、ちょっぴり罪悪感だ)


 一人電車の中で反省会をする。


 仕方ないとはいえ、蛍ちゃんに嘘をついてしまった。


 大人がセクシーな本を読んで、妄想だけするなんてありえない。


 本当はもっとすごいことしてるのが、真実だ。


 そう——例えば、等身大ラブドールとか、エロゲとか、AMSRとかで、行為に耽る。


 蛍ちゃんどころか、家族にも見せようがない、俺のパラダイス。


 それが俺にとっての——


 大人の行為だった——!


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