第7話 図書館へ(後編)

 図書館に入った俺と蛍ちゃん。


 中に入れば、大きな声で会話できない。


「……」


 蛍ちゃんは、俺の手をくい、くい、と引く。


 ついてきて、とアピールしていた。


 ついていくと、そこは文庫のコーナーだった。


「おぉ」


 つい、声が出てしまったのは、文庫のジャンルに対してである。


 偉人の伝記だったり、『その時歴史が動いた』系の分かりやすい歴史考察本だったりが並んでいた。


 俺はメモ書きに書き記す。


【歴史系が好きなの?】


【そうですね。最近は伝記ばかり読んでいます

 ナイチンゲールとか、ナポレオンとか】


【いいねぇ】


 俺も子供のころは、漫画でこういった話を読んだものだ。


 蛍ちゃんは数冊選び終わると、メモに書き始めた。


【育滝さんは何を選ぶんですか? よければ案内しますよ】


 俺は一瞬悩んだ。


 俺は選ぶ本といえば、ずばりライトノベルだ。


 が、かっこつけて真面目本にした方がいいのかどうかだが——


【ライトノベル】


 俺は素直に一言書いた。


 それを見た蛍ちゃんは、俺の手を引っ張り、エスコートしてくれた。


【ここです】


 これまでアニメ化した作品や、小学生・中学生・高校生・大学生時代に読んだ懐かしの名作がずらりとならぶ。


 やっぱりこれだよこれ!


【楽しそうですね】


【好きな本が並んでるだけでもテンション上がるからね!】


【その気持ち、分かります】


「ふふっ……」


 楽しそうな俺をみて、蛍ちゃんも笑っていた。


 ついつい俺も笑顔になる。


【さて、何にしようかな】


 俺はざっと本棚を見ていく。


 すると、一つのシリーズに気が付いた。


 魔法少女ルナリアン


 かぐや姫の遠い子孫である月子が、月からの侵略宇宙人ニュームーンと戦うべく、魔法少女になる話だ。


 いわゆるオタク向け魔法少女作品であり、アニメ化は3期まで行われた、ライトノベルの人気シリーズである。


 俺は最終巻まで読んでいたのだが、なんと、俺が読んだことのない短編集があるではないか。


(うわ、完全に把握してなかった!)


 すぐに手に取ると、表紙の月子の可愛さに大興奮してしまう。


 かわいい。


【この作品が好きなんですか?】


 俺はうっとりしていたのをすぐにやめ、色々言い訳を考える。


【この子、可愛いですね】


 なんと蛍ちゃんは、興味を持ってくれていた。


 なんだかうれしくなり、興奮気味に書き連ねた。


【本当に可愛いんだ! 月子って名前の主人公なんだけど、健気で、儚くて、でも強い意志の持ち主なんだ!

 例えば命がけで人々を守るんだけど、敵と同じ種族だからって理由で、人間から差別されてしまうんだ。

 でも、くじけずに戦い抜くところとか、本当に良いんだ!】


「あ……」


 しまった、と思った。


 ドン引きされるか、と思った。


 がしかし——


【ちょっと興味が出てきました】


 蛍ちゃんはそういって、魔法少女ルナリアンの1巻を手に取った。


【時間をとって、ゆっくり読みますね】


 そういって、蛍ちゃんはにこりと笑った。


***


 図書カードを作り終えた俺は魔法少女ルナリアン短編集を借りた。


「返却期限は来週です」


 そういわれて、レシートとともに本を受け取る。


「待たせたね」


「いいえ、大丈夫です」


 二人で外に出ると、日差しがさしてくる。


「すみません、ちょっと喉が渇いたのでお茶飲みますね……あれ?」


 蛍ちゃんはぶんぶんと水筒を上下に振る。


「あ……ああ……」


「どうしたの?」


「水筒にお茶いれるの、忘れてました……」


 悲しそうにする蛍ちゃん。


 俺は鞄からお茶を取り出した。


「まだ口付けてないから飲んでいいよ」


「へ……そ、そんな」


 遠慮しようとする蛍ちゃんだったが、俺は手渡した。


「……ありがとうございます」


 そして、こく、こく、とペットボトルのお茶を飲み始める。


「ふぅ、生き返りました……はい」


 そして残りが半分以上ほど残ったペットボトルを、俺に返した。


「じゃあ、俺も喉乾いたし、飲むか」


「へ……」


 俺は、蛍ちゃんが口付けたペットボトルに、口をつけ、勢いよくかつ味わうように飲む。


 甘酸っぱいような、とろけるような甘い味がする。


 間接キスの味だ。


 これはJCとの、合法的キスである。


「ふぅ、おいしかった」


 飲み終わった後、蛍ちゃんの様子を見る。


 絶妙に顔を赤らめていた。


「……その、育滝さんってワイルドですね」


「どうして?」


「だって間接キス……いいえ、何でもないです!」


 恥ずかしいのをごまかそうとする蛍ちゃん。


 とってもかわいい。


「今日はもうお別れかな」


「はい、家に昼ご飯がありますので」


 蛍ちゃんは俺にお礼する。


「今日はありがとうございました。とっても楽しかったです」


「俺も楽しかった!」


「……」


「……」


 本来なら、『じゃあまたね』でお別れするところだが、そういうわけにはいかない。


 次の約束が必要だ。


 言うんだ俺!


 来週、またデートしようって!


「蛍ちゃ——」


「来週、また同じ時間でいいですか?」


 なんと、蛍ちゃんの方が、先に誘ってくれた。


「その、一緒に本を借りたから、ほら——返却期限が同じ日なんです」


「あ——」


 確かにそうだ。


 俺も蛍ちゃんも、今日借りたのだから、来週の同じ日までに返さなくてはいけない。


 つまり——


「よかったら、これからも毎週、図書館に一緒に行きませんか?」


「——もちろん、行く。絶対に行く! これからも毎週、一緒に遊ぼう」


「ふふ、楽しみですね!」


 毎週、今日のような幸せを味わえることに、俺は猛烈に喜んだのだった。

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