第4話 オアシス

「おはよう」


「おはようございます」


 メモ帳を取り出す。


【髪型変えた?】


【はい! 少しオシャレしてみました】


 いつもはおさげで結んでいたのが、今日は三つ編みになっていた。


【とってもかわいい!】


【ありがとうございます!】


【さらに真面目な印象にみえますね】


 少し考えた様子で蛍ちゃんは書いた。


【そんなに真面目なつもりはないんですけどね

 いつも通りに過ごしているだけだと思います】


【学校ではどんな感じなの?】


【普通に授業受けて、時間があるときは図書室で勉強して、放課後は宿題しています】


 めちゃくそ真面目やんけ。


【友達とはどんなことするの?】


 蛍ちゃんは、ちょっと苦い顔になる。


 俺は察してしまう。


【話、聞くよ?】


 そう伝えると、蛍ちゃんは長文で書き連ねた。


【あんまり同級生とは話しません。

 私とは、住んでる世界が違い過ぎて、正直苦手です。

 特待生として、学費免除で聖奇跡<セイントハート>に入ったのですが、ちょっと失敗でした。

 パパもママも、女子だけの学校が安心だって言うし、将来の為だっていうのを真に受け過ぎました。

 そもそも友達の定義について悩んでいます。

 仲良しの振りをすれば友達なんですか?

 庶民扱いに慣れるのが友達なんですか?

 そもそも友達なんて居てもいなくても私我慢できますし

 なにより】


 なにより、で書くのを止めた蛍ちゃん。


 顔を赤くし、目をつぶる。


 俺はそんな彼女をしばらく見つめると、彼女は小さな弱弱しい文字で書きだした。


【あなたがいるから】


「…………おれがいるから」


 言葉にして、ようやく認識する。


 どうやら俺は、蛍ちゃんにとってのオアシスのようらしい。


【忘れてください!】


 恥ずかしさの限界か、蛍ちゃんは急いで最後に書き足して、駅へと降りて行った。


 彼女が居なくなった車両の中で、俺は彼女の気持ちを想像する。


 独りぼっちの学校生活かぁ……。


 俺も似た経験をしたが、蛍ちゃんも同じだったのか……。


「よし、俺が絶対に蛍ちゃんを幸せにする」


 そう覚悟を決めるのだった。

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