第3話 感謝
蛍ちゃんに会うのは3回目。
踊るような心持だった。
「おはよう」
「おはようございます」
蛍ちゃんも俺に慣れたのか、自然とあいさつを返す。
【今日はよく眠れた?】
【はい。しっかり10時に寝れました!】
それはよかった。
こうして俺は昨日から準備してきた話題を質問しようとしたその時だった。
「急停車します。急停車します」
「え、きゃっ!」
急に電車が揺れた。
俺は危険を察知し、とっさの判断で蛍ちゃんを抱きしめる。
揺れている間、俺は蛍ちゃんを守るように支えた。
そして揺れは5秒程度で収まった。
電車は止まっていた。
「ふぅ、揺れは止まったようだ……ん?」
警戒を解いた俺は、今の状況にようやく気付く。
小さくて華奢な女体を、今俺は抱きしめていた。
「……あ……ぁの……」
蛍ちゃんのかすかな吐息が首筋に当たる。
そして、推定70程度の小さなお胸の感触がある。
正直、もう手を放したくはなかった。
が、蛍ちゃんが怪我してないかどうかは確認する必要があった。
「大丈夫だった?」
「は……はい」
「よかった」
「…………あの」
「なんだい?」
「そろそろ……放して……」
「わわ! そうだったそうだった!」
ちょっとわざとらしく、おどけながら手を放す。
相手の限界を見極めるのも大事なのだ。
「……どうも……すみません」
彼女は顔をうつむかせながら、俺に感謝する。
顔を赤くして、照れているのがバレバレだった。
「いえいえ、お安い御用ですよ」
「発射します」
その時また電車は走り出した。
「さてと……あれ?」
俺はいつも通り、蛍ちゃんと文通しようとしたところで、メモ帳が手に無いことに気づく。
下を見ると、メモ帳が落ちていた。
拾わないとと思い、しゃがんで手を伸ばす。
「「あ——」」
手と手が触れ合う感触がある。
なんと蛍ちゃんも、俺と同じようにしゃがんで拾おうとしてくれたのだ。
「~~~~!」
蛍ちゃんは、ばっ、とすかさずメモ帳を取り、つかつかと文字を書いて俺に手渡した。
【迷惑かけてばかりですみませんでした!】
顔を真っ赤にして、そんなことを俺に伝えてくれた。
一瞬言葉を選んだ俺は、こう返した。
【もっと迷惑かけてくれ】
え? という顔をする蛍ちゃん。
【俺だって迷惑かけることもあります。というかこちらこそ迷惑かけてすみませんでした!】
逆謝罪する俺。
「いえ、だって、あのときは、仕方なかったじゃないですか」
抱きしめられた時のことを言っているようだ。
俺はちょっと面白い気分になって、笑顔になる。
それを見て、蛍ちゃんも少しだけ笑顔を取り戻す。
【お互い謝りあってる】
俺の書いた言葉を見て、蛍ちゃんも書き加える。
【確かにそうですね】
そろそろ駅に到着の時間だった。
彼女は別れ際にこう言った。
「ありがとうございます」
とびきり綺麗な、朗らかな顔だった。
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