第2話 自己紹介

 昨日と同じ電車の同じ車両に乗って、会社に向かった。


 昨日のことが夢でなければ、またあの少女と出会えるはずだ。


 そして——


「あ……」


 言葉の通り、また会うことができた。


「ぉ、おはようございます」


 少女は照れくさそうに、周りに迷惑をかけない小さな声で、挨拶してくれた。


「おはよう」


 俺も挨拶を返す。


 そして俺はメモ書きとペンを取り出した。


【また会えてうれしいよ】


 少女は俺のメモ書きを受け取ると、あらかじめ用意してたのか、ポケットからペンを取り出した。


【私こそ会えてうれしいです】


 少女は俺を見て微笑んでいた。


【俺は会えるのが楽しみで、早起きしたよ】


【どれぐらいですか?】


【午前4時前】


 ええ! と驚く少女。


【私は逆に寝坊しそうでした】


【宿題?】


【それもだけど、楽しみ過ぎて寝付けませんでした】


 俺は朗らかな笑顔になる。


 こうしてるだけで、幸せな気持ちだった。


 けど、これは始まったばかり。


【そういえば自己紹介してなかったよね。

 育滝波彦<いくたきなみひこ>。どこにでもいるサラリーマンだよ】


【育滝さんは働いているのですね。では今は何歳ですか?】


【アラサー】


 少女は、えっと驚く。


【もっと若いかと思ってました】


【童顔だってよく言われる! 大学生みたいだって!】


【どっちも大人じゃないですか】


【そういう君は何歳?】


【13歳になります】


 こうして年齢の差を意識すると、俺もなかなかすごいことやってるよな。


 ……まあ、手を出さなければ犯罪じゃないしな!


【名前を聞いてもいいかな?】


【日坂蛍<ひさかほたる>です】


【蛍ちゃんかぁ、いい名前だ】


【ありがとうございます!】


【蛍ちゃんは、蛍のように輝いて見えるよ】


【え~と、何を書いてるのかよく分からないです】


【君が美しいってことだよ】


 蛍ちゃんが顔を赤くしてうつむく。


 そして、その直後に駅員の声が聞こえた。


『○○駅到着です。お降りの方は~』


 蛍ちゃんが下りる駅だった。


「…………」


 蛍ちゃんはしばらく顔を俯いていた。


 そして——


【変なことを書かないで下さい——照れちゃいます】


 そのあと、蛍ちゃんは別れ際にこういった。


「……また、明日」


 彼女の言葉に、俺は出来る限りの笑顔で答えた。


「また明日」

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