電車の中でJCをナンパしたら、毎日が電車デートになりました

シャナルア

第1話 運命の出会い

 毎日会社へ行くために、電車に乗る。


 老若男女、たくさんの人が、一つの空間をともにする。


 俺はそこで女性観察を行う。


(かわいい)


 女の子を探しては、観察する。


 スマホしたり、本を読んだり、勉強したり。


 そんな女の子をまじまじと見る。


(かわいい)


 男であるなら、一度くらいこう思ったことはないだろうか?


――電車のかわい子ちゃんと、仲良くなりたいって


 俺は電車に乗る度に、そう思ってやまない。


(あ)


 視線を飛ばしていた女の子は、駅に降りた。


 車両の中には、おっさんだけが残る。


(あんな最高に好みな子を、見ることしかできないなんて……くそ、こんな狭い中でナンパなんてできたもんじゃない)


 女の子を怖がらせるのは俺の趣味じゃないし、痴漢なんて論外オブ論外。


 ゲームや妄想で十分だ。


 電車に乗るたびに、俺は女の子を見ては高揚し、いなくなっては落ち込んだ。


 それがいつもの日々だった。


――しかし


「あ――」


 そんな日々は、昨日が最後だったらしい。


 今日から俺の人生を変える少女が、車両に乗り込んだ。


 黒髪おさげで、くりくりとした瞳は小動物みたいで、小柄な少女。


 そして紺色の学生服は、ワンピースの形をしていて、天使のような清楚さを醸していた。


(初めて見る制服だがこの校章……これは間違いない。聖奇跡<セイントハート>学園の生徒じゃないか)


 超絶名門、庶民お断りのお嬢様学校である。


 そこの女子生徒は高級送迎車での送り迎えがほとんどなので、まず見かけることがない。


(やばいやばいやばいやばい――)


 心臓がばくんばくんと、高鳴る。


 ここまでの一目惚れは初めてだ。


 美しいという言葉がこれほど似合う少女はいない。


 見た目の可愛さ、仕草に、成長途中の体。


 自分の良心を破壊してでも、この少女を俺は欲した。


(だめだ、やばい、犯罪者になっちまう。でも逃したくない、たったの一度きりなんていやだ!!)


 神様に心から願った。


 この子を俺にくれ、と。


(あ、あ、あ、あ、あ、あ、あっ)


 動揺で頭がぐるぐるしているとき、少女と目が合った。


「……」


 しかし、1秒後には目線を逸らされてしまう。


 しかし、そのたったの一秒が、俺に偉大なる勇気を与えてくれた。


(間違いない。この子は俺の運命の女性だ)


(失敗してもいい、犯罪者になってもいい。今、このチャンスだけは見逃せない)


 そして決意と同時に、神様が俺に最高のひらめきを与えてくれた。


(これなら行ける――!)


 俺は、揺れる電車の中、ゆっくりと少女に歩み寄る。


「?」


 またこちらに振り向く少女は、不思議そうに俺を見た。


 俺はメモ帳とペンを取り出し、一文書いたあと、少女に見せた。


【美しい】


 少女はキョトンとする。


 俺は言葉足らずだったと気づき、主語を書き加えた。


【君は美しい】


「……ぁ、ぇえ……!?」


 少女は小さな声で驚く。


 若干頬が染まっていた。


【少しだけお話できますか?】


「……ぃゃ……その……」


 少女は何かを言おうとする。


 俺は静かに聞く。


「……」


 が、少女は結局黙ってしまう。


 当たり前だ。


 ここは電車の中、大声で話さないのはマナーだ。


 特に礼儀作法に厳しい学校の生徒ならなおさらである。


 俺は話題を変えるために、さらにメモ書きをする。


【好きな動物っている?】


「ぇ……」


【俺は猫、あとゾウさん】


「……」


 少女は興味深そうに、メモ書きと俺の顔を交互に見る。


【ニャ― パオーン】


 俺は鳴き声と一緒に、猫と象のイラストを書いた。


 簡単なイラストだが、我ながら下手にかけた。


「……ふふ」


 初めて彼女は笑った。


 目がでかすぎる猫と、足が5本ある象は、彼女にウケたようだ。


「……」


 俺と彼女は静かに目を合わせる。


 どうやらほんの少し打ち解けた空気感のようだ。


 俺はこれだけは聞いておきたいと考え、文を書く。


【明日もこの電車に乗りますか?】


 目的地まで残り時間は少ない。


 明日、同じように会えなかったら、もう二度と出会わないだろう。


「……」


 少女は、すぐに返事しなかった。


 俺は彼女のその様子に、ひどく落胆した気持ちになる。


(こんなおっさんと、この子とじゃあ釣り合うわけ無いか) 


 当たり前の事実だ。


 一期一会が関の山で、しがないサラリーマンの幸運の限界だ。


 でも、彼女はこんな俺に真摯に向き合ってくれた。


 話し相手になってくれた。


 感謝してもしきれない。


 その気持を紙に書き、伝えた。


【ありがとう】


「……ぇ」


【とても楽しい時間だった】


 もう十分、俺の気持ちは満たされていた。


 この思い出があれば、これからも俺は前を向いて生きられる。


 潔く少女の前から去ろうと、背を向けた瞬間――


 ぎゅぅ、とメモ帳を持つ俺の左手を、少女は握っていた。


「……え」


「ちょっとまって、ください……」


 俺の手から、ペンとメモ帳を取る。


「借りますね……」


 小さな声で話しかけてくる。


 天使の声だった。


【突然のことで驚いてしまいました】


【私は同じ時間、同じ電車に乗ります】


 え――


 これってもしかして――


【また、話し相手になってくれますか?】


 彼女の書いた可愛らしい筆跡。


 俺は返されたメモ帳を見て、感動していた。


「あ、話し相手なのかな……これって……? 間違えちゃったかな……」


 少女はまた俺からメモとペンを受け取り、書き加える。


【文通相手になってくれますか?】


 俺は、コクリコクリと、何度もうなずいた。


 初ナンパは、クリティカル超絶大成功だった。




***

ハートフルラブストーリーを始めました!

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