第18話 彼女は自制を強いる
ある日の放課後。
図書館でも勉強中に、三角が呟いた。
「テスト、近づいてきたわね」
「……そうだな」
「……テストの点数がアップしたら、この勉強会は終了するのよね?」
「……そういうことに、なるかな」
ややテンポの悪いやり取りだった。
二回、深呼吸してから尋ねる。
「……テストが終わった後も、こうやって、教えてもらってもいいか?」
数秒、三角の動きが止まった。
「……いつまでも、私から勉強を教えてもらえると思ったら大間違いよ。自学自習できない人間の面倒を見続けられるほど、私は暇じゃないの」
非の打ち所がない正論だ。
「それと、勉強の道具みたいに扱われるのは、極めて不愉快よ」
「……ごめん」
三角の目を見て謝る。彼女は不自然に目を逸らした。
「自ら学ぶ姿勢さえあれば、貴方の成績はまだまだ伸びるわ。……私がいなくても」
「……」
ふと思う。
ひょっとしたら、三角は僕のことを思って、あえて距離を置こうとしているのかもしれない。
仮にそうだったとしても、絶対に言わないだろうけど。
……そうだったら、嬉しいな。
三角が苦笑を浮かべた。
「私と貴方が会話したとて、何も生まれないわ。生産性ゼロ。時間の無駄よ」
「お前と話してるの、僕は嫌いじゃない。……っていうか、好きだ」
頑張って付け足した僕を、誰か褒めてくれ。
残念ながら、三角は顔を赤らめるだけで、褒めてくれない。
「……あ、貴方、変よ」
「かもな」
変な奴の近くにいたから、伝染したのかもな。
◇
勉強会、終了後。
図書館を出たタイミングで、三角に訊いてみた。
「テストが終わった日の翌日、暇か?」
彼女は、首を傾げて訊き返す。
「今の所、特に予定は無いわね。何か用?」
「
「
「お前の行きたい所、連れてくよ」
誘いに、ほんのり頬を染める三角。
「……それって、要するに、デートに誘っているということよね?」
「……要すると、そうなるかもな」
返答に、三角は視線を泳がせた。
「……そ、そう。ありがとう」
「……1万円以上必要な所は、要相談で」
「締まらないわね……」
あからさまにガッカリするな。
無責任な発言すると、お前が文句言いそうだから、怖いんだよ。
◇
四月末。テストが終わった。
ぶっちゃけ、手応えしかない。ほぼ完璧だった。
ケアレスミスが無かったら、全教科100点かも。
……こういう時ほど、結果って期待を大きく下回るよね。あるある。
そして、三角に御礼する日を迎えた。
一応、昨日の夜にシミュレーションは済ませた。
ぶっちゃけ、手応えはない。
どういうルートを辿っても、どこかで必ず三角が不機嫌になる。
気分はバタフライ・エフェクトだ。
三角邸の門前で待つこと数分。三角凛が現れた。
パステルピンクのニットに、黒のスキニージーンズという服装だ。シルエットのコントラストによって、常人離れしているスタイルの良さが、いつも以上に強調されている。
そんな三角が、ぎこちなく挨拶した。
「……お、おはよう」
「……お、おう」
釣られて、返事もぎこちなくなってしまう。
静寂を嫌い、さほど意味のない質問を差し挟んだ。
「原付、本当に使っていいのか?」
「えぇ。姉さんの許可は貰っているわ」
その言葉に安堵する。
前回と違って、今日はちゃんと一日保険に入った。これで事故を起こしても大丈夫。
いや、起こさないけどね。安全運転するけどね。三角も乗せるし。
人知れず使命感に燃えていると、三角が言った。
「早く出発しましょう。貴方が来たことを、姉さんに勘付かれると、面倒だから」
「了解」
原付を引っ張り出し、座席へ腰を下ろす。
そして、三角が後部座席に座り、
不安を覚えて注意する。
「頼むから、しっかり掴まってろよ。ビックリしても、急に離すなよ?」
「そっちこそ、妙な気を起こしたら、絞め落とすわよ」
「運転中に絞め落としたら、お前も死ぬぞ」
「じゃあ停車中に絞め落とすわ。赤信号に注意しなさい。二つの意味で」
「怖っ……」
怯える僕。追い討ちをかけるように、三角が腕に力を込めた。
必然的に、僕を強く抱きしめる形となる。
勿論、そこに他意は無いんだけど。
彼女は不服そうに吐き捨てた。
「……せ、せいぜい、
「……努力する」
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