アルマ&マキナー1人ではなく――


『■■■■■■■■―――――!』


『この長細蜥蜴がぁあああああ!!』


「……ポータルを抜けた先、大怪獣バトルが広がっていた」


 王都の空。

 見慣れたと言っていいのか分からない白光の転移門をくぐったと思ったら、巨大な溶岩と氷の巨人と暴風を纏う蛇龍が激闘を繰り広げていた。


「悪いね、マキナ……って随分な恰好だな」


 あきれ気味に声を掛けて来たのは魔法陣に立つアルマだった。

 無人の街の天上に全球型の魔法陣を展開している。


「アレスにかなりやられた。良い状況とは言えない」


「分かってる。―――だけど、ウィルが着いた」


 そう言う彼女の横顔に迷いは無かった。

 あるのは全幅の信頼と、自らのやるべきことに対する使命感。


「なら、大丈夫だ。彼を信じよう」


「―――」


 いつか砂漠の城壁で見た彼女ではない。

 或いは、クリスマスの時に浮かれてウィルを助けに来た彼女でもなかった。

 彼の様に真っすぐに、目前の怪獣対決を見据えていた。

 

「……分かった。俺を呼んだ理由は?」


「この雨だ。成分分析、できるだろう? かなり強力な酸性雨だ」


「ふむ」


 確かに分析すればアルマの言う通り。

 人間は勿論、マキナのナノマシンの肉体も溶けるほどに強力な酸度だ。

 あの蛇龍の出現と共に彼女が姿を消し、この空間で戦っていたのも納得できる。

 

『■■■■……!』


『えぇい、鬱陶しい……!』


 巨人の体にまとわりつく蛇龍はマキナをして、空前絶後だ。

 だが、


「お前でも倒せないのか?」


「倒す、というか消滅させるのは簡単だけどね」


 嘆息しながら、アルマは答える。


「あれはヘラに暴走させられてるだけで、れっきとしたこのアース111の神性だ。あの規模の相手しつつ、実空間に影響を出さないようにするのは色々厳しいんだよね。この後も色々やることがあるし」


「……興味本位で聞くが、手段を択ばずに倒すならどうするんだ?」


「んー……一番後先考えないならブラックホールでも作るよ」


「馬鹿の考えたSFみたいなことを……」


「僕もやりたくない。昔≪D・E≫に崩壊された世界をそれごとブラックホールで消滅させたら後始末滅茶苦茶大変だったんだよね」


「そう……」


 話のスケールがデカすぎる。


「それ以外の手っ取り早く済ます方法は余波が大きいし、そうでない場合は手間がかかり過ぎる。ただでさえこの規模と強度の空間形成をしてるからね」


「なるほど……それで俺か」


 先ほどのアレスに追い詰められた時。

 視界に直接アルマからのメッセージが届いたのだ。

 『手を借りたい』。

 そして『ウィルが行った』という二つ。


「そうだ。あれを見てくれ……というか、嫌でも目に入るだろうけど、ル・トの方を特に」


「俺はあの巨人を使い魔よろしく使ってるのが気になるが……まぁいいだろう」


 言われた通りに視線を向ける。

 溶岩と氷塊で形成された魔人に刃のような鱗を持つ蛇龍が絡みつく。

 それ自体は拮抗し、どちらが強いというわけではないが、


「――――なるほど。この酸性雨か」


 ル・トを構成する岩塊が酸性雨のせいで溶けて脆くなり、結果破壊されている。

 どういう原理かは計測しきれないが、ル・トの体も再生するらしくそれだけで敗北にはならないが押されている。

 アルマも、現在打てる手としてはその劣勢を覆せないから自分を呼んだということだろう。

 それは理解した。

 が、それはそれとして。


「どうしろと? いくら俺の≪デウス・エクス・ヴィータ≫でもあのサイズに対応できる形態はないぞ? アレスとの戦いで、ストックしてるナノマシンも九割消し飛んだ。今はこの真っ二つ死体もどきかプリティ脳髄モードだけなんだが」


「プリティかあの姿。まぁいいけど――――はい」


 アルマが指を鳴らす。

 一件変化は無かった。

 変化があったのはマキナの持つ位相空間だ。


「……アルマ?」


「これなら十分だろう?」


「これだけのナノマシンをどうやって……お父さん、悪いことは許しませんよ!」


「誰がお父さんだ!」


 いつも通りのやり取りをしつつ。

 アルマの魔法より補充されたナノマシンは膨大の一言。

 常備している分の十数倍はある。


「別にこれくらいは訳ない。さっき複製して、少し細工しておいた。設計は任せるが、とにかくル・トの体表を君のナノマシンで覆ってくれ。勿論可能な限り強度と対酸性を強くしてね。その上で僕が魔法で強化コーティングするから、それでちょっとル・トと協力してテュポーン殴り倒してくれ」


「最後のちょっとが全然ちょっとじゃなくないか……!?」


 さっきのブラックホールのスケールのまま、わりととんでもないこと言われた。

 いやまぁ惑星管理していた脳髄も大概だが。


『ぬおおおお!! 我の腕返さんかああああああ!!』


 言ってる間にもル・トの右腕がもげて宙を舞う。

 妙にゆっくりと街並みに落下しているように見えるのはその巨大さ故だろう。

 それでもル・トに堪えた様子は無いあたり頂上の生物というのが伺える。


「……コアでもあるのか?」


「あぁ。胸部のコアが壊れなければ体の方はいくらでも崩壊して問題。そのコアも必要に応じて体内で移動可能だから、ある意味君と似たような存在かもね」


「………………ふむ」


 少し考え、


「設計は任せる、と言ったな?」


「まぁ、体表さえ覆ってくれればいいけど……」


「なるほど」


「………………おい」


 アルマの半目が突き刺さる。

 

「何考えてる? あんまり遊んでいる暇はないんだぞ?」


「ふっ」


 にやりとマキナは笑みを浮かべ、残っている片手で親指を立てた。


「俺にいい考えがある!」







『――――ル・ト! 増援を送る!』


『ぬぅっ! やっとか! 期待させたのだから相当ではないと許さんぞ……!』


 テュポーンに右足を砕かれながら、ル・トは脳内に響く声に応えた。

 己が蛇龍に存在強度として劣っているわけではない。

 それは断じてない。

 だが今のテュポーンは魂を狂わされ、己の身を顧みずに溶ける暴風雨をまき散らしている。

 自分の体はいくらでも再生するとはいえ、千日手に近い状況だ。

 故に魔術師が助っ人を呼んだらしいが、


「よう、魔人殿。俺が助っ人の脳髄だ」


『……!?』


 いつの間にか目に当たる所の前に、妙なが浮かんでいた。

 ル・トには遠い記憶だが、人間の頭部の中身のようにも見えるし、妙に可愛らしくなっている。

 何故か絵で描いたような目が二つついていて、


『貴様―――どうやって喋っている!?』


「お前が言うのかそれは」


 失礼な。


「だが応えてやろう――――脳髄パワーだ」


『なにぃ……!? 人間の脳髄とやらはそんな力を……!』


 やはり人間という種族はどうかしている。

 勝手に神と崇めたら、自分たちとは全く違う形の神々と交わるわ、神からその身を引きずり下ろすわでやることなすこと滅茶苦茶だ。

 

「そうだ。脳髄パワーを見せてやろう。――――行くぞっ!」


『んんんんん!?』


 そして。

 ル・トは思った。

 人間はどうかしてる。







 ル・トの体がテュポーンの体当たりによって破砕する。

 膨大な衝撃はル・トの胴体で炸裂し、


「――――散!」


 マキナの声と共に、その通りになった。

 

『■■■■―――?』


 溶岩と氷河の体が部位ごとに分かれていく。

 既に飛んでいた右腕右足とは別に左腕、左足、頭部、さらには胴体も縦に分かれながら吹き飛び、


「ナノマテリアル展開! オールパッケージング!」


 全ての部位の表面がスパークと共に波打った。

 一瞬だ。

 各部位が位相空間より転送されたナノマシンに覆われ、


「装甲形成!!」


 高熱と低音の岩の塊という都合上、凹凸だらけだった表面が整えられる。

 ほぼ完全な立方体となり、


「アルマ! 魔導ラミネートを!」


「…………はぁ」


「否!! そこは魔導ラミネート刻印! だろう!」


「まどうらみねーとこくいんー」


 ありえないほどの棒読みの魔法使いが印を組む。

 ナノマシンの表皮の上に、さらに複雑な幾何学模様により装甲強度が重ね掛け。

 そして。


「全パート、ブースター展開……!」


 各構造体の底面にナノマシンによる加速器が形成される。

 巨大な質量が空を駆け抜けた。


『■■■■……!?』


 テュポーンの長い蛇体を縫う様に飛び、それは天上へと。

 先にもげていた右足右腕も同じような加工がされて後に続いた。

 一つ一つはただの巨大な塊に過ぎない。

 だがそれらは集い、列を成す。


「合体フォーメーション―――――!」


 合一する。

 先ほど分裂した時とは逆再生。

 両腕、両足、左右胴体部、頭部。

 それぞれがあるべき位置に接続しようとすれば、ナノマシンによる即勢形成でジョイント部分が出現。

 、という重低音と共に合体。

 その轟音は連続し、瞬く間に人の形を得た。

 続いて脳の皺を模したような幾何学模様が走る頭部に簡易的ながら口、鼻も形作られ、目がある部位にV字型の王冠が出現。

 それは上にズレ、その下からアイパーツが露わになった。

 光が灯る。

 右は燃えるような赤。

 左は凍てつくような青。

 二色は全身に広がり、体の正中線から全身をその二色に分割していく。


『超脳髄氷炎魔人――――!』


 マキナが叫んだ。

 ル・トも叫ばないと完成しないと言われたので一緒に声を揃えた。

 着色と同時に、胸部の赤青入り混じったコアパーツ。全身には関節部や肩に棘状のクリアパーツが左右のカラーパートに合わせて出現。

 

『―――――脳髄キング!!』

 

 接合時の衝撃を背後に放出したことにより起きた大爆発を背にし、巨人は己の名を叫んだ。

 それは右半身に灼熱を。

 それは左半身に氷結を。

 科学の極致と魔法の極致を纏う。

 相反する矛盾をその身に体現した二色の巨人。

 それこそが超脳髄氷炎魔人・脳髄キングである。







《id:r3694》3694:《color:#008000》1年主席天才/color

なんかマキナがル・トと合体して巨大ロボになったから写真送るわ

《id:r3694e》 

《id:r3695》3695:《color:#008000》Everyone《/color》

何やってんのぉ!?!?!?!

《id:r3695e》 







「くくく……一度はやってみたかったんだよな、合体ロボ……!」


 脳髄キングの胸部コア内コックピット。

 全球型の空間は周囲の光景を三百六十度投影し、その中央に搭乗席が浮かんでいる。

 両手で握るレバーには幾つのボタンがついており、それで様々な操作が可能。周囲には空中投影型のディスプレイが様々な数値を表示もしている。

 大半は雰囲気づくりなのだが。

 機体操作の九割はマキナの脳内で行われているのが実際の所。


『おい脳髄! 本当にこれで大丈夫なのだろうな!』


 操縦レバーの中央にはデフォルメされた可愛らしいル・トが投影されている。

 声もちょっと高くなっている。

 これも飾りだ。


「ふっ……俺を信じるがいい、相棒!」


『待て! さっき会ったばかりだろう!?』


「行くぞッッーーライトバーニング! ロケットパァーンチ!」








 空に残っていたアルマは、巨大なロボットが駆動するのを見た。

 右肘のクリスタルパーツから炎を逆噴射させ加速を生んだ拳をテュポーンへと叩き込む。

 轟音、激震。


『■■■■――――!?』


 殴り飛ばされたテュポーンが大きく吹き飛び、無人の街にめり込む。


『待てぇーい!』


 無駄に拡散されているマキナの声が響き渡りながら、大きな足音と共に蛇龍を追っていく。

 酸の雨は変わらず降り注いでいるが、魔法と科学の二重装甲は物ともしていない。

 それはそれとして。


「…………なんだかなぁ」

 

 思わず目を伏せながら天を仰ぐ。

 ちょっと思っていたのと違った。


「ナノマシンとかいくらでも見たけど、ここまで自由になるのは初めて見たな……うぅむ……」


 腕を組み、


「…………素直に認めるの、ちょっと癪なんだよな」


『フハハ! 素直になってパパを褒めるといいぞぉ!』


「パパ言うな」


 通話魔法越しでも大分鬱陶しい。

 ル・トには悪いことをしたかもしれない。


『中々面白いなぁ脳髄よ! もっとなんかできること無いのか!?』


『あぁ! 必殺技は胸からビームが出る!』


『ガハハ! なんだそれはぁ!! やるぞやるぞぉ!』


「……」


 どうやら好相性だった。


「…………マキナ、ここは頼むよ。装甲に展開した魔術式にはテュポーンの封印術式も仕込んでおいた。ビームでもロケットパンチでもなんでいいからそれ起動して叩き込んでおいてくれ」


『―――それは良いが』


 一転、声は静かになり、


『あえて聞くぞ、大丈夫なのか?』


「……ふっ」


 苦笑する。

 ただの問いかけには、多くの感情が込められていた。

 それをアルマは知っている。

 多分、ウィルや他の掲示板勢も知らない一面。

 

「君、本当に心配症だねぇ」


『―――』


「安心したまえ」


 指を振るう。

 背後に転移門を開かれた。

 それ飛び込みながら、アルマは笑った。

 かつてただ一人になって機械の星を動かしていた男に。


「僕も君も、もう一人で戦っているわけじゃないんだ」








「―――――なるほど」


 転移先は広い空間だった。

 室内だ。

 古い石造りの長方形のホールのような場所。

 天井を支えている柱が等間隔に並んでおり、その先に人影が並んでいた。


「―――来た、か」


 ブラックスーツに白衣姿にピンク混じりの紫髪の少女。


「おぉ! 来たな! こうも上手くいくとは流石はマム」


 短い茶髪に白シャツを腕まくりした大柄の青年。


「……」


 顔に傷を持つ、明るい茶髪の少女。彼女も当然のようにブラックスーツ。


「……ん?」


 三人目はどこか見覚えがある気がした。

 

「ふむ……まぁいいか。それで、君たちはあれか。≪ディー・コンセンテス≫の残りか」


「あぁ! 残りと言われるのは心外だがそうだ! デメテルだ、覚えておくといい≪天才ゲニウス≫!」


「ヒヒッ……ヘスティア、だ」


「―――アテネ」


「なるほど」


 予想で来ていた名前だった。

 そこに驚きはない。

 彼女たちが待ち構えていたことも。

 気になるのは、


「この空間……封鎖されているのか」


「如何にも!」


 デメテルが快活に応答する。


「お前の使う≪アカシックライト≫を封じる為の魔法が掛けられている! その理屈は……俺は知らん! ヘスティア!」


「ヒヒッ……他次元への、接続を切っている、から。お前はマルチバースから、力を引き出せない」


「なるほどね」


 クリスマスの時、ゴーティアがアルマの侵入を防ごうとしていた時に使っていたのと似たようなものだろう。

 実際、それは有効だ。

 アルマは膨大な魔力をマルチバースから引き出すことにより、あらゆる魔法の行使が可能だが、その次元への繋がりを絶たれればアカシックライトは使えない。

 それを見越して、この三人はアルマを待ち構えていたのだろう。


「今の僕なら、勝てると思っているわけだ」


「否」


 鋭い声は、アテネから。

 腰に佩いた長剣の柄に手を置きながら、静かに言う。


「勝てるとは思っていない。だが―――時間稼ぎはできる。そういう算段だ」


「へぇ」


 笑ってしまう。

 悪くない心がけだ。

 ≪アカシックライト≫を封じたのも悪くない。

 ル・トの前に置き去りにしただけではダメだったという反省もあるだろう。

 だが。


「――――まだ甘いな」


 悪くはないが。

 良くもない。

 ≪アカシックライト≫はアルマにとって力の大元の一つではあるけれど。

 それ以外の手札が無いわけではないのだ。


「来るといい。遊んでやるとは言わない。――――僕も本気で、叩きのめしてやる」




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