シュークェ――人獣混交―― その1
何故こんなことに……?
そんなことを思いながらシュークェは自らの翼で魔族を殴り飛ばした。
王国西部の大通り。
サンドワームや龍のような大物はいなくても大量に湧いてくる様々な魔族から中心部へと逃げる人々が逃亡の河を作っている。
十人近くが並べるような広い通り。
そこを駆ける民衆たちと、彼ら彼女を守る衛兵や騎士団。
そういった人々へと襲い掛かる大小様々な魔族。
シュークェは数は少ないが無視はできない鳥型魔族の迎撃を主に行っていた。
鳥人族は戦闘に適したものは少なく、地上からの対空攻撃を行う魔法使いもいるにはいるのだが、
「ほわたっ!」
シュークェが飛び回って炎翼で消す方が速かった。
半裸の鳥人族が放った炎は魔族三体を燃やし、近くの二体に燃え移る。
そしてその炎が、魔族の体を伝い包み込み燃やし尽くした。
少し前、≪竜の都≫でナントカミスとかいう糸遣いに苦しめられた故に編み出した対拘束用の仙術だ。
本来は張り巡らされた糸の類を燃やす為だが、案外使い勝手がよく飛び散った火の粉がそのまま小型魔族程度なら倒せるのでありがたい。
しかしなんという名前だったろうか。
ナントカミス。
人種の女に対して、ミスというのは敬称だった気もする。
つまり、
「ナントカ……?」
地上、二階建ての屋根から犬型の中型魔族が飛びかかって来たので首ではなく、体ごと傾けて回避を行う。
翼を空に引っ掛けた、空中での静止と移動だ。
頭が上、足が下だったのが、翼を中心に位置を入れ替える。
「ガアアアーー!」
全長三メートルほどの犬型の牙が迫る寸前で回避を成功し、足の先に腹があった。
故に翼に炎を宿し、
「ぬぇい!」
捻りを加えながら超至近距離での噴射加速を乗せ、両足螺旋蹴りで魔族をぶち抜いた。
炎の残滓を残しながらすぐに体勢を元に戻し、
「おぉ……!」
「すげぇぞあの鳥人族……!」
「かっこいいわ……!」
走りながら逃げている人々の歓声を背に受けた。
「…………ほほっ!」
口端が歪み、声が漏れた。
走り抜けている民衆が、こちらに賞賛の声を上げてくれている。
聞こえて来た声の中、女人の声があったので振り替えて見下ろせば、
「くそ、あいつできるとは思ったけどあそこまでだったのか……!」
「街コンじゃ碌に女子と会話できてなかったのによ……!」
「なんだよあの翼……! ワシも欲しいんだけど!」
「お前ドワーフ族だろそれでいいのか!?」
鎧姿のむさくるしい衛兵たちだった。
「貴様らぁー! 何故このシュークェがお前たちの声援なぞ受けねばならん!?」
「どっちかっていうとディスってるよ!」
「なんだとぉ……!」
キレている間にも彼らは街の中央に駆けて行った。
仕方ないので真後ろから飛んできた鳥型魔族を翼で殴り燃やしておく。
シュークェが何故今人間の都で、人間を守って戦っているのか。
その理由は、
「おのれ、このシュークェの婚活はどうなってしまったのだ……!」
そう、即ち番探しである。
年明けの一件で兼ねてより『女と全然縁が無いけど自分には許嫁いるから何の問題もなかろ~~』というシュークェの目論見は崩れ落ち、許嫁だと思っていたフォンは目の前でウィル・ストレイトといちゃついてたのでかなり空しくなった。
一度鳥人族に帰って長であり祖父であるリウに相談したら、
『お前みたいなのと番いになる鳥人族おらんじゃろ』
などと遠回しに色々言われてから最終的に直球でそう言われたので諦めざるを得なかった。
なので王都である。
様々な人種が溢れ、出会いもある。
特に、この日他の国の長も来ているとのことで街はちょっとしたお祭り状態。
それに伴って街の人区画を利用したお見合いのようなものが行われていた。
ようなものというのは別に番いを見つけるというよりも、それよりもうちょっとライトな関係、結婚を前提にしたりしなかったりする恋人を見つける行いらしい。いくつかの飲食店を貸し切って自由に出入りしたりローテーションを組んだりと趣向に凝っているとか流石人種繁殖にかけては色々豊かすぎるではないか。
態々書店で『これでモテる! 異種族間恋愛の秘訣! 天津皇国次期女皇インタビュー付き!』とかいう本を買ってみたが文字が読めず素の自分で行ったらなんか会話が成立しなかった。
「どこにいるのだ我が運命の女よ……!」
思わず慟哭が上がり、
「キアアアアアア!」
空から大型の猛禽型魔族が突っ込んできた。
「やかましい、叫ぶな……!」
翼に炎を宿し、
「―――君も、大概アルよ」
右肩から声を聴いた。
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