ミソロジー その1
2964:2年主席転生者
「余は何百年か置きに番いを得て、子を産む。カルメンの父は……600年ほど前だったかな」
「お爺様、男も女も関係ないですしのぅ」
「左様。余にとって肉体の性別は曖昧なものだ。気に入った人の子がおれば、それに合わせた性別に変え交わるだけである。20年前はそれがダンテだったという話だな。フラれたが」
……………………くぅ!!
2965:名無しの>1天推し
あぁ、>1が!
2966:名無しの>1天推し
なんか見たことがない反応を!
2967:ノーズイマン
このドラゴン……未来に生きてるな……
2968:2年主席転生者
「長く生きていればそういうこともある。少々余談ではあるが、こうしてダンテとベアトリスの子に出会えたことは私も嬉しい」
………………ぬぅ!
2969:名無しの>1天推し
うーんこの
2970:名無しの>1天推し
アレス君が凄い目で見てるよ
2971:自動人形職人
まぁ……そりゃ……
2972:名無しの>1天推し
俺らもびっくりだよ
2973:ノーズイマン
長く生きてると……そっか……そういうこともあるよね……そう……ふぅん……
2974:1年主席天才
なんだよ
2975:ノーズイマン
いや……やっぱ長命種ってそういう……
2976:1年主席天才
………………言っておくが
2977:1年主席天才
僕はウィルが初めてだよ
2978:名無しの脳髄自動暗殺童貞サイバーステゴロ公務覇者>1天推し
やったあああああああああああああああああああああああああ!!!
2979:2年主席転生者
………………!!
●
「それでは話をしようか」
何故かしかめっ面をしながら頬を染めたアルマと毅然さと正しい座る姿勢を取り戻したウィルを見ながら御影はエウリディーチェの言葉を聞いた。
多分、掲示板で何かやり取りをしているのだろう。
彼女は目を伏せたまま、柔らかく微笑み、
「余にとっては遠い過去であり」
そして、
「――――其方らにとっては神話の物語を」
●
神話、と聞いて御影は自身の皇国に伝わるものを思い起こす。
皇国におけるそれは≪神鬼道≫と呼ばれ、太古に大いなる鬼神が大海を自らの鉾でかき混ぜ大地を生み、その時に生まれた泡から多くの命が生まれたという。
鬼神による創世神話だ。
或いは、皇国の三大聖域に封印されたという三大神獣。
蛇と狐と狗。
現在においてそれぞれの聖域に眠っているとされているが、しかし本当にそうなのかは御影でも知らない。
ただ聖なる場所であり、禁じられた場所であるが故に立ち入ってはならぬという御伽噺があるだけだ。
御伽噺。
けれど今、御伽噺であり、神話の張本人が目の前にいるのだ。
「遠い、遠い昔の話だ。何万年も前のこと。まだ人の子らが文明らしき文明を生まれる前」
静かに、ゆっくりと龍は語り始める。
「あの世を、正確に言語化するのは難しい。今とは随分と違う。かつて、この世界において意味があり、概念があり、観念があり―――しかし、言葉がなかった」
「……?」
意味や概念、観念があり、しかし言葉がない。
頭の中で繰り返したが意味が分からない。
周りを見回すが、皆同じ様子だった。
「―――あぁ」
ただ、アルマだけではその時点で全てを悟ったように息を吐いた。
「ふふ」
エウリディーチェは笑い、
「神話の時代、余のような力ある生き物はひどく曖昧であった。自己認識が薄い、とでも言うのか。余らは生きているが生きてはいない。そこにいるがそこにはいない。ただ、それぞれが持つ意味を持って世界の影響を与える……そういうものだ」
意味が分からん。
だが、トリウィアが軽く右手を上げた。
いつものブラウスに白衣とは違い、白いタートルネックのセーターに藍色の男性用のシンプルなジャケット姿の彼女は慎重に口を開く。
寒くはないのかと思ったが、見た目重視らしい。
「…………物理的ではなく、霊的・概念的な存在だったということでしょうか? 確かに、言語化が難しいですが。連合の自然を神とし、信仰するもののような……?」
「ふむ。そう言って構わないだろうトリウィア。それでこそ、だな」
「……?」
誉め言葉の意味をトリウィアは良く分からなかったらしい。
御影からすれば話自体が良く分からなかった。
霊・概念的。
それを察したのだろう、口をはさんだのがアルマだった。
「難しく考えなくていい。それぞれ固有の系統を保有する強大な存在、くらいでいいかな。半分ほど現象……うーん、一日の半分くらいぼんやりしてる、みたいなところだ」
「そのような表現でいいんですか、スぺイシアさん」
「いいや、アレス。流石は魔術師殿だ、的確だな。確かにぼんやりだ。ふふふ」
アレスは納得してなかったが、エウリディーチェに言われては納得せざるを得なかったらしい。
例によって何とも言えない顔をしている。
いいのかぁと御影は思った。
まぁいいだろうとも。
「ふむ」
お茶を飲む。
寒い所だと聞いていたので今彼女は冬装束だ。
赤の冬用着物と黒の袴。それに外套として王国で購入した同じく黒い厚手のケープを羽織っている。
それを見せたアルマが『大正浪漫……』と呟いていたがやはり良く分からなかった。
そんなことを思い出しながらもエウリディーチェの話は続く。
「とかく、余らはぼんやりしていた。無論、現代にも在る生き物の祖先らは今と左程変わらない営みを送っているものもいた。そのような世が何万年も続いた。或いはそれは調和の保たれた世界であったであろう。生まれ、生き、死ぬ。ただそれだけだった。だが――――変化があった」
それは。
「――――人が、生まれたのである」
●
トリウィアは静かに興奮していた。
神話。
それはトリウィアにしても、確かめようがないほど過去の時代だ。
彼女として神話と言えばなんだろうか。
七主教の創世神話。
創造神が七つの眷属神を生み世界が広がったというものだろうか。
或いは帝国の最北の山脈。
極寒にして最果ての氷の大地に眠るとされる巨人だろうか。
今となっては確かめようがない。
それを今、トリウィアは聞こうとしている。
「いつの間にか……そう、いつの間にか人というものは生まれていた。と言ってもやはり今とは違う。現代のような高度な魔法もないし石や木を振り回しておったな。だが―――かつてより変わらぬものがある」
それは。
「――――言葉。それがこの世の在り方を大きく変えた」
言葉。
強調された単語に、トリウィアは納得と戸惑いを得る。
なぜならそれはあって当然のものだからだ。
言葉があり、文字がなければ知識は蓄積も伝達もされない。
日々読む本から得る知識もそうだし、口伝で伝わる魔法構築、個人が生み出した技法、直近だとウィルにこっそり御影と纏めている『夜の生活で何をしたら喜ぶのか』ノートだ。これは時が来ればフォンやアルマにも渡すつもりなので言葉がないと意味がない。
だからそれは納得であり、そして今更言われるまでもないはずだという戸惑い。
顔に出ていたのだろうか、そんな彼女にエウリディーチェは声をかける。
「不思議か、トリウィア?」
「……はい。エウリディーチェ様のような方が多くいるのなら、我々人の言葉がそこまで影響を受けるとは、私には到底思えません」
「――――くっ」
「……?」
返事は奇妙なものだった。
これまでのにっこり、という笑みではない。
引きつる様な、何かを思い出すかのような苦笑だ。
「いや悪いな。……くくっ、人間とは全く相も変わらずだな。我らを見上げ、そして見下げておる」
「そ、そんなつもりは……!」
「いや、悪い。これは余の言い方が悪かったな。忘れてくれ。……話を続けよう。人が生まれた、言葉が生まれ、全てが変わった」
果汁入りワインを少し飲み、話は続く。
「人が言葉を生み、余らのようなものらに接触するまでは何千年かあった。その間に人は文明を発展させ、社会を生んだ。やはり今よりも未熟ではあったが純粋ではあった。そんな彼らは、やがて余らの下を訪れ、語り掛け、そしてこう呼んだ」
それは。
「――――神、とな。それゆえに、我らは神となったのだ」
そしてトリウィアは今度こそ困惑に染まった。
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