ナイス・トゥ・ミーツ・ドラゴン その1


「…………ほど。どうやら余のせいで迷惑をかけたようだ」


「いいや。押しかけたのはこちらだからね。むしろ申し訳ない」


「気にしないで欲しい、魔術師殿。客人は歓迎したいと余は常々思っている。このような僻地故、中々ないことではあるが。それもそなたのような偉大な方にまみえるとは。長く生きたが、己よりも巨大な存在を見るのは久しぶりだ」


 話し声が聞こえてきてウィルは目を覚ましたことを自覚した。


「――――ぅんん?」


 目を見開けばが揺れている。

 広大な空間にウィルは仰向けで倒れていた。

 天井は鍾乳洞かなにかなのか多くのつらら石が伸びており、表面に苔らしきものがびっしりと生え発光していた。少し薄暗い気もするが問題になるほどでもない。 

 

「―――はっ、く」


 息を吐き、頭と胸の奥に不快感と微かな痛み。

 乗り物酔いの感覚に近いものがこびりついている。

 呼吸を繰り返しながら、記憶を辿る。

 

 そう、確か。

 宣言通り、アルマの転移で≪龍の都≫に行こうとした。

 あの後、急いで荷物を纏めた。学校が再開するまで一週間あり、数日分の用意や冬服の準備をした。

 カルメン曰く≪龍の都≫は1年の半分は暑く、4分の1は暖かく、もう4分の1は厳しい冬。そして今はその厳しい冬の時期だという。

 そのあたりは手早く熟した。

 

 向かうのはパール以外の生徒会面子だ。

 彼女も同行したがったが、流石に始業直前に生徒会が1人もいないのはよろしくない。誰かは残らないといけなかったので、彼女から自ら名乗り出た。

 カルメンがウィルたちの旅の案内をするなら、自分はみんなを待つというのが自分のできることだと笑っていた。

 尚この場合、生徒会面子というのはアレスも含めて、だ。

 彼を軽い気持ちで誘ってみたら、存外乗り気だった。

 ≪龍の都≫というのはそれくらい、この世界では伝説的である場所なんだなと、ウィルは思った。


 それで―――そう、アルマの魔法陣で転移を行った。

 いつもの別空間に直結する空間の門ではない。

 長距離かつ他人の記憶を媒介にしている故に、集まったウィルたちの足元に広がった魔法陣が光り、転移が行われて、


「ウィル、目を覚ましたかい?」


「…………アルマさん。えぇと……ここは?」


 朦朧としている間に、いつの間にかこちらに来ていたアルマに助けられながら体を起こす。

 制服に赤いコートの彼女が背中をさすってくれる。

 その優しさを感じながら周りを見回した。


「………………神殿、ですか?」


 広大な空間にあるのは石造りの神殿だった。

 太い柱に囲まれた広場があり、その中央に同じく石の円卓がある。

 そこに見知らぬ女性が座っていた。

 視線をずらせば、


「みんな……!」


「大丈夫、ちょっと酔って気を失っただけだ。いくつか想定外があって……一先ずみんなを起こしてくれるかい?」


「……分かりました」


 頭を振りつつ立ち上がり、服の埃を払う。

 冬用の私服、ズボンやシャツの上に着ていたのは上着はほとんどダウンジャケットに近いもの。魔物からとれる表皮を素材としその中に羽毛を詰めた防寒具。

 その羽毛はフォンから抜けた羽根を加工したものであり、温かい。

 誕生日にフォンから貰った上着で、1年半分の抜け羽根を集めて贈ってくれた大事なものだ。

 そのフォンは近くに倒れていた。

 御影やトリウィアたちも広場に倒れている。

 みんな寝起きのような様子で起こされ、それからそれぞれ最後に目を覚ましたカルメンとシュークェは、揃って同じところに目を向けた。


「おーん?」


「むっ……」


 視線の先。

 石の円卓に座る女性。

 藍色の髪を高い位置で結び、伏せた目でウィルたちを見ていた。

 身に着けているのは古い形の皮鎧だった。

 魔法による防護に加えて服飾文化も発達し、部分的にアースゼロに近いこのアース111でも珍しい古典的な、動きを阻害せず体の各部位を守る武骨なレザーアーマー。

 円卓にやはり古い長剣を立てかけている。


 不思議な雰囲気の女性だと、ウィルは思った。

 同時に僅かな既視感。

 若い女性だ。二十代半ばかそれくらいだ。

 眼は閉じられているが造形は整っており、右の目元の泣き黒子が目に留まる。

 身長はトリウィアと同じくらいだろうか。

 ただ、そう。

 彼女は、


「……アルマさん?」


 ウィルにとって最愛の人に雰囲気が似ている。

 そんなことを思っていたら動きがあった。


「おー、お久じゃー」


「―――再びお目に掛かれて光栄です」


 カルメンが女性に向かって手を振り、シュークェは膝をついた。

 そして言った。


「―――!」



「うむ。久しいな、二人とも」


 静かに女性――――エウリディーチェは目を伏せたままに頷いた。







「え、えぇと……貴女が、エウリディーチェ様……でいいんですよね」


 アルマは彼女に問いかけるウィルの様子に内心苦笑した。

 円卓の奥にエウリディーチェが座り、対面を他の8人で半円状に囲む形だ。

 それぞれの前には眠気覚ましにアルマが出したそれぞれの好みに合わせたお茶やコーヒーが。

 エウリディーチェも果物の果汁を混ぜたワインのグラスを片手にしつつ答えた。


「いかにも。余が龍人の祖にして長、エウリディーチェである」


 なにせ、静かに頷く彼女はどう見ても人間のそれだ。

 カルメンのように角や鱗があるわけでもない。

 一見、ただの女性にしか見えないだろう。

 

 だが、アルマには分かる。

 ≪天宮龍≫エウリディーチェ。

 なるほど―――

 彼女をして思わず目を見張るほどの存在強度を持つ。

 だが、初見のウィルたちは困惑の色の方が強いだろう。


「……えぇと。お爺様と聞いていたのでてっきり男性かと……」


「うん? 何を言うてるかウィル。お爺様はどう見てもお爺様じゃろ」


「いや、どう見ても女性ですが?」


「はぁ? そりゃどう見ても女じゃろ、今のお爺様」


「……」


 ウィルは黙り、アレスから呻き声が上がった。

 

「こほん……カルメンさん。親類の方がいる前で言うのもなんですが、何も知らない我々と既に知っている貴女とでは認識の差異があります」


 トリウィアは眼鏡を抑えながらカルメンを制止、しかしその眼はエウリディーチェに向けられ、輝いている。

 未知の欲求が止まらないのだろう。

 無理もない。


「質問をよろしいでしょうか、エウリディーチェ様」


「許そう」


 尊大な物言いだが、しかし彼女はにっこりとほほ笑んだ。


「貴方はカルメンさんの祖父と伺いました。ですが、貴方は女性に見えますが……」


「時間の流れは余にとっても残酷であり無慈悲だ」


「……」


 問いに対する答えにトリウィアも、他のみんなも面を食らったが、エウリディーチェは流暢に言葉を紡いだ。


「余は悠久の時を生きている。故に多くを知りながら、多くを忘却した。それは万物に対する妙薬であり、同時に猛毒でもある。それは余にとって最愛を記憶から摩耗してしまうほどだ。幾星霜の月日が流れ、新たなる愛を得ることもあるが、原初の喪失は受け入れがたい。故に余は我が愛を忘却に流さぬよう、こうして名を借り、己が身で姿かたちを体現しているのだ」


「………………」


「…………ふむ? 少し分かりにくかったかな」


「そうだね。簡単に言うと」

 

 アルマは首を傾げエウリディーチェから言葉を引継ぎ、


「彼女はかつて愛した女性を忘れないように、その名前と姿を借りているということだ。そうだろう?」


「左様。流石であるな、魔術師殿」


「どうも」



 


2799:ノーズイマン

つまり過去嫁姿のTSってこと!?

やべーじゃん、ただでさえ天才ちゃんはTS(笑)なのにキャラ被ってるって!!


2800:名無しの>1天推し

マジで黙れ


【『ノーズイマン』さんがスレッドから強制退出されました】 


2801:名無しの自動暗殺童貞サイバーステゴロ公務覇者>1天推し

そんなことできるの!?!?!


【『ノーズイマン』さんがスレッドに入室しました】


2802:ノーズイマン

滅茶苦茶びっくりしたぞ!!!!!!!


 

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