新島巴 -祝砲ー その1
傭兵団≪信念無き指≫には、文字通り信念というものがなかった。
いるのは≪精霊殺し≫を筆頭とした居場所のないゴロツキたち。
それも高度に訓練されたゴロツキだ。だからそれは傭兵であるし、同時に暗殺者でもある。
全員が精霊術師協会に未登録の裏社会の精霊使いだ。
世界にはもう長いこと戦争は起きていない。
でも争いがないわけではない。
人がいる限り必ず損得が生まれ、社会を形成すれば利権が生まれ、傭兵に仕事が生まれる。
クロノ・ラザフォードへの依頼はそうして生まれた、らしい。
仕事の内容をこの傭兵団は問わない。
金を貰って、相手を教えてもらい、準備をして、殺す。
それだけだ。
殺しの相手は問わない。
信念なんてないのだから。
構成員の増減は激しいがクロノ・ラザフォードの暗殺依頼に動員されたのは12人。
暗殺対象であるクロノ・ラザフォードが元素の
依頼主、或いは依頼主たちは相当彼を恨んでいるらしい。
だが、それもどうでもいいことだ。
指に信念は要らない。
暴力を、力を振り回す相手があればいい。
だから深夜、ラザフォード邸に12人は侵入した。
暗殺対象であるクロノとその大精霊は勿論、関係者も全員皆殺しにするために。
そして――――
●
1003:自動人形職人
チキチキ! 人の屋敷に侵入して来た暗殺者集団の撃退方法!
1004:サイバーヤクザい師
俺が職人ニキが持ってた植物類から麻痺ガスを精製シて~~~
1005:冒険者公務員
それを屋敷の侵入するであろう場所に私がブービートラップにしてドカーンであります!!!
1006:2年主席転生者
はえーすっごい
1007:名無しの>1天推し
一網打尽で草
1008:名無しの>1天推し
3人残ったか
1009:名無しの>1天推し
精霊術で守ったんかな?
1010:脳髄
派手になりそうだけど、職人ニキの屋敷大丈夫か?
1011:1年主席天才
向こうさんが屋敷に踏み入れた瞬間に空間ズラした結界入ったから平気
1012:名無しの>1天推し
さす天!
1013:名無しの>1天推し
さす天!
1014:自動人形職人
ありがとうございます! いやほんとマジでありがとうございます!!
●
傭兵として、暗殺者としての訓練で培った対毒体質だからだ。
効果の弱い毒を体に取り込み、少しづつ効果を強くして慣らしていく。そうして様々な毒に対する抗体を身に着けていくのだ。
精霊術とは関係ない技術。
精霊と寄り添い合うこの社会では軽視しがちだが、有用な、裏社会ではそこそこあるもの。
暴力と殺意において、精霊だけに頼る必要はない。
3人が3人とも同じような恰好をしていた。
動きやすそうな、けれど艶消しが施された黒い革と布の鎧。
顔も布とフードで目元以外ほとんど隠されている様は、やはり傭兵というよりも暗殺者に近い。
というよりも、今回の任務が暗殺だから暗殺に適した格好をしているだけだ。
必要があれば礼服だろうとドレスやスーツだろうと物乞いの恰好だってする。
暴力を振るえるならなんでもいい―――そういうことだ。
違いは武器。
≪精霊殺し≫は少し短い直剣を両手に一振りづつ。
もう二人は槍と弓。
≪精霊殺し≫は女だからシルエットの違いはある。
対して、待ち構えていた3人はまるで統一感がなかった。
女と青年と少年だ。
1人は上下一体になった緑の上着にと黒い下着のようなインナー。胸がかなり大きい。大きな胸に巻き付いたベルトがあり、片手にはなにやら鉄の塊を握っていた。
1人は見たこともない材質に細い管のようなものが全身に巻き付いた黒いフード付きのコート。顔を覆うマスクから零れる髪は脱色したように白い。手には何かの部品同士が組み合わさったような剣らしきもの。
1人は東方の修行僧のような道着に片肩に短く赤いマントを羽織っている。
無手だった。
「――――」
誰も何も言わなかった。
ただ、≪精霊殺し≫を始め傭兵たちが武器を構え音もなく動き出した。
待ち構えた中で、一番最初に動いたのは―――女だった。
すっと軽く右足のつま先を上げる。
「――――≪
軽い動きで落として。
「!?」
3人の暗殺者が、地面に叩きつけられた。
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