ボーイズ・トーク その2
「はぁ」
「……なるほど」
クロノは手を動かしたまま適当に返し、ウィルは苦笑気味だった。
「ウィルの話はいつも聞いてる……と思いきや、色々大きめのイベントだロ? 実際、姫さんや先輩殿と婚約して普段はどうしてるのかとか、どんなムフフな生活を送ってるのカ。わりと気になるゼ?」
「うーん……そう言われるとちょっと照れますね」
「でもそれは僕も気になりますね」
初めてクロノの手が止まった。
軽く息を吐き、首や肩をほぐしてからにっこりと笑う。
「どうぞ教えてください。掲示板はオフにしてあるので」
「…………まぁいいですけど。クロノくんや景さんもお願いしますよ?」
「僕ので良ければ」
「あのメイドさんとのオネショタトークはもうなんかそういう薄い本だよなァ」
しばらくの間、男同士だけのわりと下世話な話が繰り広げられた。
婚約してから御影は意外にも普段は、むしろ控えめだが、凄い時は凄いとか。
トリウィアはその持ち前の好奇心を新たな方向に発揮しているとか。
そういう話。
クロノの方も流石というべきか流石だった。
豊満な胸部を持つ自らが生み出した完璧なメイドとのかなりレベルの高い日々をモノクルを輝かせて語ってくれた。
長い話ではなかったけれど、様々な意味で濃厚だった。
女性陣には聞かせられないけれど。
二人の話の後、疑問を上げたのは景だった。
「ウィルは姫様と先輩と婚約したわけだけどよォ」
「はい、そうですね」
「鳥ちゃんはどうなン? 俺、概ね鳥ちゃん推しなんだよナ」
「あ、それは僕も気になっていました」
「あぁ……そうですね」
同じようなことを、少し困ったように首を傾げながらウィルは答えた。
「そもそもの話なんですけど、あの学園って基本は在学中の結婚は禁止なんですよね」
「あぁ、そんな話ありましたね。生徒に貴族や王族が多いから当然といえば当然ですけれど」
「ンでも、婚約までならセーフなんだロ?」
「そうですね。ただ……」
ウィルは首を傾げた。
困ったように。
「御影とトリィと婚約したからついでにフォンとも……っていうのはちょっと」
「あぁ……そりゃそうですね」
「はっ、そりゃ確かにその誘い方は最低だナ」
クロノは苦笑し、景は口端を曲げて笑う。
「そもそもフォンはこう……やっぱり奴隷っていう立場をどうも気に入っているというか……それに関しては自己主張激しめですし。どうにかしたいとは思ってるんですが」
「必要なのはタイミングってワケ」
「えぇ。遠いけど確かなのは卒業です」
「はァン。そりゃ楽しみだ」
「景さんはどうなんです? 聞いてばかりですけど」
「あァ……そうさなぁ」
彼は鼻を掻いてから、ヘラリと笑う。
「終わった話と終わってない話と終わってほしいけど終わってない話、どれガいい?」
「…………じゃあ最後ので」
「俺のことをずっと殺したがってる女がいてなァ。それこそ≪ネオン・キラー≫ってそいつも呼ばれてたけど」
わりと最悪な女の話の切り出し方だった。
「でもこいつは俺のことが好きで、昔俺が助けたンだ。あいつは俺を正義のヒーローに、自分をヒロインと思ったけど、残念俺はヒーローじゃなかっタ。だからあいつはヒーローだと思ってる俺がヒーローじゃないのにキレてて、滅茶苦茶冷たいンだよな。仕事でたまに一緒になるし、休日もたまたま遭遇するけレど、いっつも人を殺せそうな視線で俺を見てくるんだゼ?」
へらへらと。
わりととんでもないことを言った。
ウィルは頬を引きつらせ、クロノは呆れたように半目を向けた。
「景さんって」
「おウ」
「わりと性格終わってたりします? 猫被ってるんですか?」
「酷いぜ。ウィルたちには誠実に向き合ってるつもりダ。だって、勝手に期待されて勝手に失望されても困るだロ?」
「それを全部解っててそんなこと言うから性格悪いって言ってるんですよ」
「はっ、ぐうの音も出ねぇナぁ」
「それは……なんとかならいんですか?」
「さァ」
ウィルの口ぶりは恐る恐る、という感じだった。
だが景は軽い動きで首を振った。
「俺としては終わってほしいからナァ。俺ァ、結構性格が悪いし、悪くないと生きていけない碌でもないのが俺のアースダ。あいつァ、ある意味まっとうな女の子って感じだから、俺と関わらない方があいつの為だヨ」
「…………うぅん。ですか」
「理不尽って思ったりするカ?」
「どっちも、少しだけ。お互い様って感じですね」
「ハッ」
自嘲気味に白髪の青年は笑った。
痛い所を付かれたという風に。
「全くダ。どうしようもねェんだこれが。ウィルはこういう変な女関係作らないことをおすすめするゼ」
終わってほしいと思いながら。
終わってくれないと彼は嘲笑う。
その誰かなのか、或いは自分に対してなのか。
「……覚えておきます」
「ウィルさんには心配ないと思いますけどね」
というか、とクロノは息を吐く。
「一人だけちょっと突っ込みづらい話で煙に巻こうとしてます?」
「おっと、バレたカ?」
「えぇ。良い性格してることも」
「俺は二人よりもオニイチャンだからな」
「転生者の年齢なんて当てにならないでしょうに」
苦笑して、再び彼は砥石を滑らせ始めた。
景は肩を竦め、作業台に置いたままだった植物を物色し始める。
そんな二人をウィルは眺めて、少し考えて呟いた。
「ボーイズトークってこんな感じなんですね。ディートさんやアレス君とはちょっと違いました」
「そりゃあそウだ」
「その二人みたいな全自動おもしろトークは無理ですよ」
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