オーバー・スピリット その2
「えーい。クロノ、話の続きを」
「はい。
「各段階でどれくらいの差があるのでありますか?」
「5から10倍、と言われていますね。例えば
「結構あるなァ。どのくらいの数ダ? 世界に数人とかカ?」
「いえ。このアースには大国と呼べる国が六つありますが、それぞれ10人前後はいます。小国にも数人。精霊術師教会に登録されている
「当然、モグリもいル」
「察しが良いですね」
「俺の世界、モグリばっかだからなぁ」
「それが今回、クロノさんを狙っている相手でありますか?」
「えぇ。教会に属さない裏社会の
精霊殺し。
しんっ、とその場が静まった。
反応は様々だ。
ウィルは顔に真剣味を増し、巴は肩を竦め、景は口端を微かに歪めた。
アルマは何も変わらなかった。
「つまり、僕らには意味をなさないというわけだね。特に、巴と景には」
「そりゃそうダ。精霊なんて使わねーし。俺なんか全身ケミカルだゼ」
「嫌な宣言でありますな」
「僕はどうなんでしょう、アルマさん」
「うん、そこが問題だ。クロノ、頼んでいたものを。ウィル、剣を作業台に」
「え、はい」
「準備しています」
言われた通りにウィルは持参した父の長剣を作業台に置く。
黒い鞘、柄にこげ茶色の革が巻かれたごく普通の長剣だ。
「お父さんのものなんですよね」
「えぇ。家を出る時にもらいました。父が昔使っていたものらしく、特別なものではないらしいんですが……」
「それでもよく手入れされている。うん、良いですね」
頷きながらクロノが取り出したのは掌サイズの水晶のような立方体だった。
「呼石、門霊石。精霊との契約に用いられるものです」
「そこに精霊が入ってるのカ?」
「いいえ、これは門です」
「我々精霊は、普段精霊界という別の次元にいます。別にこちらの世界に来る必要はないのですが、精霊はその石を文字通り門として通ってくるわけです。その石を使った人間が精霊を呼び、それに応えて契約するのです」
「こちらに来る必要がないのに、どうしてでありますか?」
「我々は」
アルカはまっすぐに背筋を伸ばしたまま、目線だけをクロノに向けた。
「人が好きなのですよ」
「はぁ……笑いどころでありますか?」
「ふふっ、さぁどうでしょう? ウィルさん、これ石を剣において、指を触れて呪文を唱えれば精霊が応えてくれます」
「えぇと……」
ウィルは少し首を傾け、アルマとクロノを交互に見た。
「いいんです? 精霊殺しとかいう人が相手なんですよね?」
「理由は二つある」
アルマは細い指を立てた。
それぞれの視線が彼女に集まる。
「まずはウィルの特権について。君の≪万象掌握≫の神髄は、世界との適応だ」
35系統からなる魔法世界のアース111では35系統を保有しているように。
その世界にとって最も適応した才能を得るのがウィルの転生特権。
森羅万象の法則に掛かる鍵を開け、世界そのものを書き換えられる。
「君はアース111で生まれて全系統保有者になったわけだが、別のアースに来たらどうなるかの確認だね」
「僕の世界に来たら特権が変化するかもということですね」
「そう。ナギサの時は僕が手伝って世界改変をしたから確かめられなかった。もう一つは、それによって魔法がどうなるか。……ウィル、≪
「解りました」
ウィルが右拳を握った。
光の線が彼の腕の周りに環状魔法陣を結ぼうとし―――結ぶことなく崩れた。
「!?」
「あぁ、やっぱりそうなるか」
目を向くウィルに対し、アルマは小さく息を吐いた。
「あー? ウィルの魔法、こんなンじゃなかったよな?」
「でありますな。もっときれいでしたけど」
「≪
「……すみません」
「ごめん、言っておくべきだったかな」
「いえ。これはアルマさんから最初に貰ったものだったので、少し驚いただけです」
「んんっ」
苦笑しながら彼は首を傾げ、アルマは困ったように顎を上げた。
周りを見る。
4人ともそっぽを向いていた。
けれど、目線だけはしっかり見ている。
アルマはこんなはずじゃあなかったなと思いながら、落ち込んでいる彼に言葉を向けた。
「ウィル」
「はい」
「……その術式は君の成長と共に変化するように作られている。実際に君は君の考えで新しい力を生み出したし、いつか僕の術式としてではなく君自身が全ての鍵になれるだろう」
言葉を選びながら彼女は紡いだ。
優しい言葉で甘やかすわけではなく、ただ事実を示す。
そこに込められたのは期待と未来だ。
「それに」
彼女は微笑む。
「僕は君がそう気にしてくれるのは嬉しいけれど、君が落ち込むのはちょっと悲しいかな。そして君はいつも驚かせてくれるし、これからもそうだ。そうだろう?」
「……はい! 頑張ります!」
「うん。君は頑張れるやつだ」
彼女は笑っている。
ウィルという少年は背中を押せば前に進めると知っているからだ。
少し感傷的すぎるかもしれないが、そのささやかな感傷はそれだけ自分が与えた術式を大事にしてくれるのことであり、それがアルマは嬉しかった。
なんて、言うまでもないけれど。
周りを見れば、ニヤニヤとした笑みが4つ。
最早慣れたものなので話を進めた。
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