オーバー・スピリット その1
ウィルたちがポータルを潜った先は広い部屋だった。
雑多な部屋だ。
学校の教室ほどに広く、中央に大きな作業台があり、様々な布、鉱物や植物、生き物の素材らしきものが並んだ棚に所狭しと並んでいる。
作業台に手を付き、待ち構えていたのは青い髪とモノクルが印象的な美少年。薄く浮かべた笑みと瞳には幼いながらも確かな知性を宿していた。
彼の後ろに控えるのポニーテールにした金髪と豊満な体つきの侍女。少年に付き従うのが当然であるかのように、そこが定位置であると言わんばかりに佇んでいる。
クロノ・ラザフォードとアルカ。
彼は自分の前に並んだ4人を見て、にっこりと笑う。
「ようこそ、僕の工房へ。そして――――アース412へ」
●
「…………いや、その前に。巴さん、そんな感じでした?」
「はい? なんでありますか、クロノさん」
ウィル、アルマ、景、巴を出迎えたクロノとアルカ。
三つのポータルから現れた来訪者は、しかしみな巴に視線が集まっていた。
以前、ウィルのアース111で見た彼女は如何にもキャリアウーマンといったビジネススーツ姿だった。
「あぁ、これは昔の軍服引っ張り出してきたのでありますな」
そして今は、まるで違う軍服だった。
茶の髪は無造作に近い雰囲気で首後ろで纏められ腰まで伸び、スーツではなく暗いトーンの迷彩服。上着の前は止めず、その胸は丈の短いタンクトップに包まれて大きく突き出していた。腰回りや胸のホルスターには武骨な拳銃が何丁か収まっていた。
デカい、と全員が思った。
御影ほどではないが、それに近い頂きである。
元々短めのタンクトップはその双丘のせいで胸元までしかなく、うっすらと割れた腹筋が晒されていた。
「アンタ、とんでもないものを隠し持ってたんだなァ」
「セクハラでありますか景さん」
「いやぁ、純粋な感想だよ。なぁウィル」
「え? まぁ……ちょっとびっくりはしましたね」
「完全装備と言われていたでありますからな。銃や弾丸も、そっちのかばんに」
肩に担いでいるのは大きなスポーツバッグだ。
それを見つつクロノが質問する。
「クリスマスの時は素手でしたよね?」
「えぇ。仕事中に呼び出されたので」
「素手でも十分だと思ったからだよ。急いでいたのはあるけれどね。上着、前閉じないのかい?」
「息苦しいんでありますよなぁ」
「ふぅん」
「天才ちゃん! ウィルはきっとちっぱいも好きだゼ!」
「セクハラでありますよ! アルマさんモーニングスターであります!」
「まぁ君のその乳は目線行くの仕方ないよ」
「……アルマさん、わりと男子の目線に寛容でありますなぁ」
「あはは……」
「ちなみにウィルも否定しないのナ」
「えぇ、まぁ」
「ヒュー!」
景は白髪を揺らしながらウィルと肩を組み口笛を吹いた。
そんな会話をしつつ、5人が作業台を囲む。
アルカがそれぞれにお茶を用意しつつ、
「それでは……そうですね、僕の命を狙っている相手についてなんですが、危険な傭兵団で、かなりの手練れです。この世界でも上澄みの方ですね。ただ、どの程度、どう上澄みなのかという話になるとこの世界の魔法についてからという話になります。僕の世界は魔法というよりも精霊術というべきでしょう」
クロノは指を立てた。
「万物には精霊が存在し、いわゆる魔法と呼ばれるものは全てが精霊によって行使されており、人間は精霊から力を貰う形で魔法を使います。以前掲示板でも話しましたが、僕たちは儀式や詠唱、或いは何かしらの物体を供物として精霊に捧げる形で、精霊の力を借りるわけですね」
「もの……武器とかですか?」
「そうですね。それもありますし、日用品でもいいですよ。ペンとか本とか、思い入れがあれば」
「ふゥん。じゃあクロノの場合は?」
「私でございます」
「あン? ……あー……そいやそうカ。言ってたなァ」
「えぇ。アルカの体は僕が作った自動人形を供物として、元素の大精霊がそのまま体にしたものですね。いつか掲示板で少し話しましたが、僕が一から設計してすべて作ったので精霊の触媒としては良いものです」
「謙遜を。この世界において最高と言わざるを得ません」
「ふふっ、ありがとう」
クロノの背後、アルカは主を賞賛し、彼はそれを笑みと共に受け入れた。
上品な、年齢を感じさせないほほ笑みだ。
クロノを含め、此処にいる誰もが実年齢と肉体年齢がかみ合っていないのだが。
「大精霊と言っていますが、精霊にも階級があるのでありますか?」
「はい。
「アルマさん! どういう意味でありますか?」
「……」
アルマは軽く肩を竦める。
「アース・ゼロで言うなら、スペイン語でワインの等級」
「へぇ、僕も知らなかったですね」
「はぁン」
「なるほどでありますなぁ」
「気を悪くしないで欲しいね」
「いいえ、むしろ光栄でしょう――――酒は人類になくてはならないのですから」
「…………物は言い様だね」
「確かにそうでありますな……!」
「あァ!!」
巴と景が二人で親指を立て、アルマが半目を向ける。
「黙りなよ飲んだくれ二人。景は酔えないだろうに」
「気分だ気分」
「その比喩だと僕はお酒飲めないけどね、アルカ」
「人に好き嫌いがある様に、精霊にも好き嫌いはあります。ご主人様は第一級ですのでどれだけ嫌われても愛しているのでご安心ください」
「無敵かこのメイド……ギデオン、俺にも何か言ってくレ」
『
「…………」
「うける。掲示板でも草沢山生えてるよ」
「くそがよ……!」
「えぇと……元気出しましょう!」
「!! あァ!!!」
「こいつ……」
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