ウィー・ウィル・ロック・ユー その1
王国高級街の一角に張られた結界の中。
その境界ギリギリのある建物の屋根の上。
「
「蛸か……懐かしいな。茶で茹でてやると柔らかくなって美味いんだよな。生で刺身にしても良いが」
「え? あんな生物食べるの? しかも生で? ほんとに正気?」
アルマ、御影、フォンの3人は並んで遠く、ウィルとトリウィアの戦いを眺めながら喋っていた。
3人とも制服ではなく、それぞれの戦闘装束であり、御影を背後に突き刺した大戦斧もあり、戦闘自体はいつでも可能な装備ではあるが、会話からはその様子はなかった。
「ん」
ふと、アルマが振り向く。
視線の先にいたのは、
「………………お前たちは、何をしている?」
「おや、マキナ」
「おっ。この前の舞台振りか。簡単な挨拶しかしてなかったが」
「どもー。……ってうわ、何そのシャツ」
「脳髄Tだ。着るか?」
「え、やだ」
「残念。それはそうと、改めて婚約おめでとうございます」
「おぉ、これはどうもどうも」
「あとアルマ! 屋根の下に足を投げ出すんじゃあない! はしたないわよ! パパさん許しませんわ!」
「誰がパパだ! あとなんかもうパパなのかママなのか分からんことになってるぞ!」
お決まりのやりとりをこなし、御影とフォンからそうだったのか……という顔をされ、アルマはしっかりと訂正することを決めて。
マキナ、遠くウィル達に視線を向ける。
「こうしている、ということはだ。加勢する気はないと?」
「そうだね」
アルマは小さく顎を上げながら同じように視線を向けた。
訝しむようなマキナに反応したのはフォンだ。
「ほら、やっぱ助けに行った方がいいんじゃないかなー。そりゃ主たちが負けるとは思わないけど、ここで見てるだけってのもなんだかなーって感じだよ?」
「そう言うな、フォン」
その豊満な胸の下で腕を組み、支えつつ御影が笑う。
「無粋だろう、それは。今回の一件、先輩殿が裏から手を回していたんだ。なら、最後までやってやらせてやればいい」
「そんなもん?」
「うむ。それに、私なら」
琥珀の目が細められる。
その先は、揃いの恰好で並び立つウィルとトリウィア。
「あれに横やりを入れられるのはごめん被る」
「御影の私だったらはほんとに御影だけなんだよね……」
「わはは! こいつ、言うようになったな!」
「うわちょ、頭を胸で挟むなぁー!」
「………………アルマ?」
「御影の言う通りだ」
彼女は肩を竦めてからマキナに言われた通りに立ち上がり、
「色々バックアップはしたが、トリウィアの想定の最悪がトントン拍子に進んでいる。ここまでこれば彼女にやらせればいいさ」
「だが、D・E関連だ。アルマが手を出さなくていいのか」
「ふむ」
アルマは一度息を吐き苦笑した。
「必要ならいくらでもするし、いつでも手を出せる様に今だってしているが――――アレ、要らないでしょ」
●
秋雨が明けた空、晴天の下に二人と一人は対峙する。
「揃ったところでェッッ―――!」
八腕が蠢く。
伸縮さえ自在なその腕は振り下ろされ、瓦を砕きながら握りこんだ。
瓦礫は手の中で即座にキューブに変貌し、再構成されて新たな形を生む。
二本づつ、四対の腕がそれぞれが握りこんだのは、
「ガトリングを教えてあげる……!」
この世界では未だ設計すら生まれていない六本の銃身を携えた小型機関銃。
秒関数千発の鉄火の暴力が四つ。
人が受ければ痛みすら感じる間もなくバラバラになるだろう。
即座に引き金が引かれる。
蠢く触腕は全て強靭な筋線維であり、反動は軟体的な体が吸収し、一秒後に訪れる暴虐の結果を待ち望む。
そしてそれは実行された。
銃撃の雨はわずか数秒、宿の屋根どころか最上階を爆砕させ、粉塵を舞わせる。
転生者であるウィルはそれを知っているだろう。
だが、アース111の人間であるトリウィアはそれを知らない。
この世界の火器原則を大いに上回る故に、対処をしきれないということは明白だ。
「――――?」
だがその破壊の中には。
人から流れるはずの赤い血は全くなかった。
破壊と暴虐はしかし建物を砕くに終わり、
「―――大したものですね。その技術は」
「!?」
声は、背後から。
振り返り、
「がっ―――――!?」
顔面と胸部。
トリウィアの蹴りとウィルの掌底が叩き込まれた。
体が浮き、一瞬吹き飛び、
「逃がしませんよ」
彼女の胴体にいつの間にか変形していた刃鞭が巻き付き、引き込まれた。
本来、体に纏う粘液が刃や拘束を無視するはずだが、直前のウィルの掌底による衝撃がそれを吹き飛ばしていた。実際、顔面への蹴りも吹き飛びはしたがダメージはなかった。
「―――ハァ!」
だからこそ、引き戻された顔面にぶち込まれた、待ち構えていたかのように繰り出されるウィルの足刀の威力は十全に通った。
「ぶべっ……!?」
上がる汚い声。
「女性を足蹴にするのは気が引けるんですが―――」
「――――貴女のせいで実に面倒なことをさせられたので仕方ないでしょう」
頭から屋根床にめり込み、その声がどちらのものなのか聞き取れなかった。
ただその瞬間、彼女の頭を占めていたことは一つ。
「よくも、私の顔をおォォォ――――!」
吠え、めり込んだままに触腕を屋根に叩きつける。
そして、高級宿全てを丸ごとキューブに変換した。
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