イノセント・アンド・チャーム その2


4542:2年主席

 

「難しく、単純な問いだ。帝国貴族である私と王国で生まれ育った君とでは婚姻、結婚、恋愛、それにおいて大きな隔たりがある。それの理解はあるか?」

 

「……えぇ、知識としては」

 

「であれば、そういうものだと思ってもらうしかないな。俺も、彼女もそういう国で生きて来た。卑下するつもりもないが重ねた年月が王国とは違う。俺にも、自由恋愛というのは理解できないのだ」

 

 

4543:名無しの>1天推し

うぅむ……

 

4544:1年主席天才

このあたりは仕方ないね

そういうもんだ。

 

経験上、悩んでも無理に理解しようとしても良いことはない

 

4545:ステゴロお嬢様

天才さんが言うと重みがありますわね

 

4546:名無しの>1天推し

確かに……

 

4547:名無しの>1天推し

自分のアースの国とか地域とかでも分らん時あるしな

 

4548:名無しの>1天推し

せやなぁ

 

4549:2年主席

 

「我々にとって他人を愛するということは結婚し、夫婦になってからとなる。結婚するかどうかは家や親が決めることで意思はない」

 

「……結婚して、先輩を愛せると?」

 

「努力はしよう。人格に問題があるわけでもなし。それに、実に良い尻をしている」

 

「………………まぁ、はい」

 

 

4550:復帰軍人人妻

>1!!!!!!

そこはセクハラ発言に怒るところでありますよ!!!!

 

4551:ステゴロお嬢様

女性の権利団体が今日日黙っていませんわ!!!!

私のアースそんなのないですけど

 

4552:アイドル無双覇者

男子ってばサイテーにゃ!!!

 

4553:1年主席天才

まぁあの尻は仕方ないね

 

4554:名無しの>1天推し

女性陣……!

 

4555:名無しの>1天推し

って天才ちゃんだけ受け入れてて草

 

4556:名無しの>1天推し

急に男子目線で語らないでびっくりするだろ

 

4557:NO髄

唐突に蘇るTS設定

 

4558:1年主席天才

蘇るとか設定とか言うな

 

4559:名無しの>1天推し

実際良いお尻してるな

 

4560:名無しの>1天推し

脚もいい

 

4561:2年主席

 

「――――楽しそうな会話をしていますね」

 

えっ

 

 

4562:1年主席天才

おや

 

 

 

 

 

 

 

「くすくす。意外なお二人、というべきでしょうか」

 

 囁くような、鈴が鳴る様な声。

 声量は大きくないのに、なぜか耳によく届く。

 

「……!?」

 

 ウィルの戸惑いは二つ。

 一つはその服装。

 それはアースゼロでいうセーラー服のようでもあった。足首まで伸びるロングスカートと黒のセーラー服にシスターらしいフードを合わせたような独特の恰好。

 フードから零れる髪は夜明けの光に蜂蜜を溶かしたような黄金。

 瞳は海のような深い青。

 胸には七主教のシンボルである七芒星のペンダント。

 全身の露出は一切なく、身長もアルマよりも小さいだろう。それでも体のラインは丸みを帯び、まだ幼いながらもこれから絶世の美女として花開く蕾のような、無垢と色気が混在している。

 もう一つの驚きは、彼女自身。

 

「―――ヴィーテフロア殿下」

 

 驚く隣で流れるような所作でディートハリスが跪き、ウィルも慌てて彼に倣った。

 ヴィーテフロア・アクシオス。

 このアクシオス王国の王女でもあり、七主教の聖女として国民から愛される少女だった。

 

「殿下の来訪に気づかずにいたことをお許しください」

 

「お気になさらず。帝国のアンドレイア家の方ですね」

 

「はい。アンドレイア家、ディートハリス・アンドレイアにございます。可憐な殿下にお知り頂いているとは光栄にございます」

 

「知らぬはずがないでしょう? ただ、そうですね」

 

 花のように彼女は微笑む。

 

「今の私は王女である前に、七主教の修道女です。故、過分な敬意は不要ですよ。ほら、周りを見てください。他の信徒の方々も普通にされているでしょう?」

 

 楚々としてヴィーテフロアが大広場にいた他の信徒に手を振る。

 それを受けた誰もかしこまらずに笑顔で手を振り返していた。

 ウィルは、そしてディートハリスもそれを確認し、

 

「かしこまりました。ではそのように」

 

「はい。ウィル先輩も、さぁ立ってください」

 

「そうだぞ、ウィル。そのような姿勢では相手の靴を舐めることもできない」

 

 よく分らないことを言われた。

 新手の皮肉か何かだろうか。

 とりあえず立ち上がり、

 

「えぇと……お久しぶりです、殿下。…………って、先輩?」

 

「はい。叙勲式の後以来ですね。そして、元々決まっていましたが、来年私はアクシオス魔法学園に入学する予定ですから。ウィルさんは私の先輩になります」

 

「流石殿下です」

 

「そうだったんですね。殿下はここで何を……って、ここの聖女でしたもんね」

 

「はい。先輩たちは……私に会いに来てくれた、というわけではなさそうですね?」

 

 ペロリと舌を出しながら、彼女は笑う。

 

「えぇ、まぁ……」

 

 突然の邂逅に戸惑いつつ、そして何よりヴィーテフロアという少女を改めて観察し、どうにも緊張してしまう。

 

 ウィルの知る美少女という概念において頂点にいるのは愛するアルマ・スぺイシアだ。

 

 単純な顔の造形、バランスにおいてその美しさは他の追随を許さない。

 超一流の職人が丹精込めて作った精巧な人形のような、或いは生物や性を超越した美をアルマは持つ。

 

 そしてヴィーテフロア・アクシオスは別方向でありながら、アルマに匹敵する美少女だ。

 人としての、女としての、少女として、そういったものの究極、美の女神ともでも呼ぶような。

 アルマが暗くも優しい月明かりなら、ヴィーテフロアは明るく暖かい太陽の光だろう。

 

 ウィルは普段、アルマ、御影、トリウィア、フォンというタイプの違う美少女に囲まれていて、そのうち二人とは恋人だし、もう二人とも近い関係にある。

 ただ、そんな自分でも思わず見惚れてしまうような可憐さが彼女にはあった。

 

「……あら、何か顔についていますか、ウィル先輩?」

 

「い、いえ、失礼しました」

 

 これは浮気に入るのだろうか。

 ちょっと焦ったが、掲示板を確認する。

 

 

 

 

4591:1年主席天才

僕と同レベルの顔面とか目の保養になりまくるな。

マルチバースでもトップだよ

 

 

 

 

 思った以上に平気だったので一安心。

 ついでディートハリスを見る。

 彼は毅然とした顔で軽く顔を伏せていた。

 流石というべきか高貴な相手とのやり取りは慣れているらしい。

 そこは正直尊敬する。

 

 

 

 

 くっ……おのれ、ウィル・ストレイト……流石だな……王女殿下で聖女に当然のように先輩呼びされるとは……! そういうのから始まる恋、本で読んだ!!!!

 

 

 

 

「……どうかしたか、ウィル?」

 

「いえ、すみません」

 

「ふっ……そうか」

 

 悔しい、というほどでもないが彼の笑みは絵になる。

 

「くすくす……仲がよろしいようですね。流石は従兄弟というところでしょうか」

 

「えぇと……どうでしょう」

 

「ふっ……これから仲を深めようとしていたところです」

 

「なるほど。それは素晴らしきことですね」

 

 ころころと、彼女はよく笑う。

 囁くような声のトーンのせいなのか、ゆったりした丁寧な喋り方のせいなのか、さっきまでの緊張が嘘のように溶けていく。

 初めて王と一緒に会った時もそうだった。

 あの時はウィルのイメージする修道服だったけれど、

 

「あ、そういえば殿下。その恰好は……」

 

「あぁ、これは普段着のようなものです。珍しいですよね、お爺様、初代国王陛下が考えられた学園の制服の候補だったんですよ。私は気に入ったので、公式の場ではなければこちらを着ています」

 

「へぇ……」

 

 初代国王。

 なんというか。

 随分な趣味人である。

 どういう存在なのか推測はできるし、一度話してみたいが、故人であればどうしようもない。

 

「あっ……ごめんなさい、ウィル先輩、ディートハリス様、お二人の歓談を邪魔してしまいましたね。思わず声をかけてしまいましたけれど」

 

「とんでもございません、殿下。そうだろう、ウィル」

 

「はい。お会いできて光栄でした殿下」

 

「まぁ先輩。ディートハリス様には流石に言えませんが、どうぞ気軽にヴィーテとお呼びください。来年はウィル先輩を頼ることになるんですから」

 

「え、えっと……では……ヴィーテ……さん」

 

「はい、ウィル先輩。そう呼んでいただけるようになっただけで、御声掛けした甲斐がありました」

 

 彼女は笑う。

 控えめに、けれど華やかに。

 小さな、けれど良く届く声で。

 無垢な子供のような笑顔で、大人のようにしっかりとした礼節を。

 相反するものを、けれどそのまま持つような少女だった。

 

「お会いできて光栄でしたお二方、それではこの辺で」

 

「はい、殿下」

 

「来年はよろしくお願いします、ヴィーテさん」

 

「はい―――七つの加護があらんことを」

 

 七芒星のペンダントを軽く掲げ、彼女は背を向け去ろうとする。

 しかし、数歩後に止まり、

 

「ウィル先輩」

 

「はい?」

 

「―――アレスは元気ですか?」

 

「えっ……えぇ。いつも美味しい紅茶を淹れてもらっています」

 

「へぇ」

 

 彼女は振り返らない。

 どんな顔をしているか、ウィルにも、ディートハリスにも分らなかった。

 

「幼馴染ですよね。お会いにならないんですか?」

 

「くすっ」

 

 ウィルの言葉に彼女は笑う。

 少なくとも、そう見えた。

 結局彼女は振り返らなかった。

 

「――――いいえ、会いに行く必要なんてありません」

 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る