ザ・フール その2
上がるアレスの唸り声。
「なんなんですかこの人」
「こういう人だからねー」
パールは朗らかに笑い、
「でも、実際ウィルちとトリ先輩なら問題ないんじゃないですか?」
「ふむ……続けて?」
「はぁ。ウィルちもモテモテだけど、アルちゃんが入学時から初々しいいちゃいちゃ見せて横やり入れる余地はなかったし、そもそもずっとミカちゃんが迫ってたからやっぱり付け入る隙もなかったって感じだけど」
ただ、その上で言うのなら、とパールはネイルが塗りたての指を立てる。
「トリ先輩にフォンちだってウィルちといつも一緒だったし? 多分、去年の段階で4人がくっつく、みたいな予想していた子は珍しくないと思うよー?」
「なんと」
「ま、ちゃんと付き合ってみると去年のウィルちはミカちゃんたちにも一線引いてる感じだったので私はどうなんだろ? って思ってたけど。それもこの前の一件でなくなったぽいし」
「なんと……」
「つまり、トリ先輩も推せばイケる!!」
「なんと……!」
そんな光景を、怪しい魔道具を詐欺で売りつけるみたいだなぁとアレスは見ていた。
いや、流石に失礼だろうか。
パールというウィルを先輩として、トリウィアを後輩として見て来た彼女が言うのだから。
「アレちはどー?」
「……僕はトリシラ先輩ほど、ストレイト先輩方を知っているわけではないので何とも言えませんが」
ただ、
「聖国の一件、ストレイト先輩は言いました。自らの幸福のためなら何も厭わない、と。実際、あの人は聖国よりも天津院先輩を重視し、行動しました。一国よりも、一国の姫よりも、ただ1人の女性の為に」
紅茶に視線を落とす。
赤黒い水面に―――誰かの顔が浮かぶ。
「……っ」
それを振り払い、
「そしてそれはトリウィア先輩だとしても、あの人は同じことをするのではないでしょうか」
「…………」
アレスの言葉にトリウィアは黒と青の瞳を何度か瞬かせた。
彼の赤い目と視線が数秒交わり、
「君は、私が思ったよりも後輩君を見ているのですね」
「…………いえ、別にそういうわけでは」
居心地が悪くなり、ティーカップに口を付け、
「そうですか……そうだったんですか――――――後輩君がそんなに私のことを好きだったなんて……!」
「ぶはっ」
戯けた言葉に思わず吹き出してしまった。
何言ってるんだこの女は。
「感謝しますよアレス君……自信が持てました……!」
「いや、あの、個人的な見解なんで真に受けられても困るんですが……フロネシス先輩、なんか人格変じゃないですか? ねぇ? 知能指数下がってませんか? というか……今すぐ告白すればいいのでは」
「それは……ほら、風情がないでしょう。折角なら劇的に告白は受けたいです。面白くないじゃないですか。お見合いの相手は私です。そうですか。じゃあ……とか。まぁもうプロポーズはされましたけど」
「じゃあいいじゃないですか」
「後輩君は自覚してないんですが」
「ダメじゃないですか」
「とにかく私は後輩君はから凄く浪漫に溢れるプロポーズをされたいんです」
「なんなんですかこの人」
「ふっ……良く見ておくといいよアレち」
「なんですか」
「初恋は……人格を歪める……!」
「………………」
最早唸り声すら出なかった。
嫌すぎる格言だった。
「……トリシラ先輩はそういう経験は……この前聖国に残って色々あったとか……そういうところから助言とか……」
「あはは――――残ってる間ずっとムカつくおじさんとあれやれこれやしてたからそういうのマジでない。ない。絶対ない」
鋼鉄の如き笑顔の断言だった。
ちょっと怖い。
どうして自分は今こんな所にいるんだろう。
手にしているティーカップ含め一式のせいか。
これ持ち帰れないだろうか。
ダメか。
「ここはアルマさんを見習って……いえ、反面教師にして受け入れ態勢を整えなければいけませんね……! 聞くところによれば散々大好き言動しつつ、土壇場で自分から身を引いて、追いかけられた後輩君に押し倒されて問答してやっと想いを吐露したとか。私はそんなことにはならない……!」
あの二人、そんな付き合い方だったのかと、少年は遠い目になった。
できれば聞きたくなかったし、ここにアルマがいたらブチギレていたのではないだろうか。
いつまでこの会話に付き合えばいいのだろうかと思い、
「……はっ!」
お茶も淹れたのだから今日はもう帰ればいいとアレス・オリンフォスは気づく。
勢いよく紅茶を飲み切って―――本来こんな飲み方はしたくない―――立ち上がる。
「それでは一区切りもついたようなので僕はこれで……」
「みんなー! よかったやっぱここにいたー!!!」
腰を上げた瞬間、フォンが部屋に飛び込んできて、中腰の体勢で停止した。
「……ん? アレス何してるの? 筋トレ?」
「………………………………うぅぅ」
タイミングを失った彼は答えず座り直してしまった。
隣のパールがここで強引に帰れないあたり損だなと思ったが口には出さなかった。
「ふっ……どうしたんですかフォンさん?」
「うわトリウィアノリがいつもよりうざいね」
「ふふっ、今の私はフォンさんの辛辣な言葉にもへこたれない私ですよ……!」
「最悪じゃん……」
フォンは露骨に顔をしかめたが、すぐに気を取り直し、
「主がさー」
「ほう」
「お見合いどうにか回避する方法をあの手この手で考えてるか皆の意見も聞きたいってー」
「もうダメです……」
「なんなんですかこの人ほんと」
「ウケるー」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます