ガール・ウェイツ・ボーイ その3
「―――――」
その動きを、ウィル・ストレイトは目視の紙一重にて回避する。
刃が頬を通り過ぎ、文字通り紙一重のみ首を傾けたギリギリの回避。
雷属性により肉体駆動を思考を加速していたというのもある。
だが―――何より、ウィルは目が良いのだ。
ここにきて、ついにその瞳が黒鉄の剣撃を掌握し、最小動作の回避を可能としていた。
そして、
『アッセンブル―――コンバート・エッセンス』
炎が巻き起こる。
意志が燃えて、怒りが滾って。
国の為に手段を選ばずに力を借りた男へ。
女の為に希望をくれた相手から託され、高めた力を握りしめて。
鬼の角を宿し、灼熱を解き放つ。
『――――――ルビーッッッ!!』
紅玉の如き拳が、黒鉄をぶち抜いた。
●
「……はぁっ……はぁっ……っ……」
誰も、何も言わなかった。
倒れて動かなくなったバルマク。
ふら付きながら荒い息を吐くウィル。
ただ、二人を見ている。
信じらないと目を見開く者も、安堵の息を吐く者も、信じていたと笑う者もいた。
けれど、まず言葉を交わすのが誰であるべきなのかは、誰もが理解していた。
「ふぅっ……ふぅっ……………ふぅ」
注目を浴びながら、構わずにウィルはしばらく息を整える。
そして、真っすぐに向かう。
彼女の下へ。
中庭の最奥、噴水の前に彼女はいる。
隣にいた甘楽が――既に罅が入っていたとはいえ――素手で鎖を握りつぶして彼女を開放し、去っていく。
彼女は動かなかった。
薄い笑みを浮かべて、ウィルを待っている。
「……はは」
そんな姿を見て、思わず笑ってしまった。
出会ってからずっと、ウィルは彼女を待たせ続けて来た。
しばらくは自分自身の過去のせいで目をそらし続けて。
最近は――やっぱり、アルマに悪いかなと思って先送りにしていた。
でもやっぱり。
ずるいとは思うけれど。
ウィルの求める幸福に、どうしたって彼女は必要なのだ。
見惚れるような綺麗な琥珀の瞳。
艶やかな浅い褐色の肌。
ついつい視線を向けてしまう豊満な肢体。
強く、優しく、美しく。
囚われていたしても、やっぱり彼女は天津院御影だ。
「…………」
彼女は笑みと共に待っている。
多分、ウィルが最初になんて言うか楽しみにしているのだろう。
息を吐きながら、どうしようかなと少し思った。
首を傾げて考えて、すぐに答えは出る。
「――――御影さん」
「婿ど――――!?」
名前を呼んで。
彼女が何か言う前に抱きしめて。
――――半ば無理やりに唇を奪った。
腕の中で彼女の体が跳ねる。
一瞬硬直した後、すぐに力は抜かれてウィルを抱きしめ返した。
この1年と少し、耳元で囁かれたり、体を押し付けられたり、舐められたり、胸とか太ももとか触られたり、触らされたりしたけれど。
自分からこうして彼女に触れて、抱きしめるなんて初めてだ。
柔らかい唇に触れていたのはほんの数秒。
もう一度彼女を抱きしめれば、当然ウィルの顔の横に彼女の耳が。
小さな声で、はっきりと、世界中の誰にも聞こえないように、けれど彼女にだけは届くように。
ありったけの想いを込めて、囁いた。
「――――お待たせ、しました」
―――≪ウィル・ストレイト&天津院御影―――ボーイ・アンサーズ・ガール―――≫―――
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