ガール・ウェイツ・ボーイ その1
燃えている。
燃えている。
燃えている。
人の形をした炎が。
鬼の形をした炎が。
理不尽に対する怒りを燃料とし、大切なものを守るために心を燃やす紅蓮の戦鬼。
「―――」
黒鉄が驚きに揺れる。
魔法の使用により外見が変わることはアース111でも珍しいが存在する。だがここまで明確に外見と衣服まで変貌するものをバルマクでさえ初めて見た。
警戒するように二刀を十字に構える。
全身の『硬化』及び強靭な『鉱物』強度へ、『生命』の強化、自らの肉体の密度を『圧縮』し、『耐熱』を上掛け。双刃にも同じく『硬化』、『鉱物』、『耐熱』、『圧縮』した上で『振動』と『崩壊』の付与。極めて固く、熱に強く、超振動し、斬ったものを崩壊させる刃となる。
土属性を基軸とした肉体・武器強化は速度面での恩恵は薄いが耐久性に極めて優れるが上、その速度面をバルマクは自らの技量で補い、完成度を高めている。
それ故に、男は聖国において最強の一人と称される。
加えてその肉体強度を維持したままで全く逆の円運動を軸として武術も使いこなす。
黒鉄や蛇と称されることは単なる人格的な比喩ではなく、文字通りそれだけの強度の柔軟性を有しているのだ。
「グッ―――!?」
その男が、爆炎を纏った拳にぶっ飛ばされた。
強く握っていた柄に伝わる衝撃と熱。手放しはしなかったが、体ごと後方へ弾かれる。
一瞬で距離を詰められた。
それは加速というにはあまりにも荒々しい。
炎鬼は足裏で炎を爆発させて、そのまま噴出。その推進力を乗せたまま正面から拳を叩きつけ、着弾と同時に爆炎が上がったのだ。
火属性の使い方としてはあまりにもシンプル。
炎にて加速し、一撃を高める、ただそれだけ。
だがそれまでカウンター主体だったウィルが一転して攻勢に出たことに反応が遅れた。
そして、彼は止まらない。
「鬼炎万丈……!」
爆炎と共に飛び出す。
踏み出し共に足裏で爆ぜる炎は真紅の花が咲き―――その加速を乗せた拳がバルマクの剣とぶつかり合うたびに、もう一度花が咲く。
「……!」
双剣が咲き誇りと激突し、しかし確実に押し込まれる。
膂力ではバルマクが勝るが、連続する爆発は彼我の身体能力差を補って余りある。
爆進による加速、着弾時の爆発、生じる爆炎。
三つの炎撃が一つとなって黒鉄を焼き焦がす。
「この、荒ぶり方は……!」
それは凡そ、人種の戦い方ではない。
純粋膂力に炎を纏わせるか炎によって結果的に膂力を生み出すかという違いはあれど、荒ぶる火炎を纏い剛力を怒涛に繰り出すそれは――
●
「おやおや。私たちのようですね」
ころころと、扇子を口元に当てつつ甘楽は笑う。
横目で妹を見ながら。
●
「オオオオオ――――!」
裂帛の咆哮。
赤と黒の双瞳を爛々と輝かせ、燃え盛る隻角はまさしく鬼種のそれだ。
天津院御影をこの一年見続け、彼女の動きを焼き付けたウィルは属性特化によりついに種族特性すらも模倣し再現するに至った。
灼熱と剛力。
戦場にて吠える益荒男。
鬼種において、それは最も尊ばれる姿に他ならない。
「……!」
何度目かの爆炎の花。
ついに完全にバルマクが押し負け、体勢を崩す。
『耐熱』付与しているはずの刀身が焼けこげ、肉体にも火傷を負うほど。直線斬撃による迎撃を繰り返したが、それでも限界があった。
爆発に両腕が弾かれ、体が流れることによって明確な隙が生まれる。
当然、ウィルはその隙を逃さず、追撃の炎拳を叩き込み、
「――――シィィィッ!」
流れた体が、そのままぐるりと回る。
回転中に双剣が揃えられ、遠心力を乗せた斬撃がウィルの拳に叩きつけられた。
「大したものだが―――単調だ」
「っ」
爆発加速が乗り切る直前に横合いから止められた拳が中空に紅蓮を咲かせる。
「人間離れしている。鬼種どころか、高位の魔獣のそれだが―――私の専門はその魔獣狩り故に」
追撃はなかった。
代わりにその体からは想像でできない身軽さでウィルを飛び越え大きく距離を取る。
跳躍中にも体を回し、着地時にも踊る様に回転。
そして、その螺旋の終着点として、
「――――ハァ!!」
石畳を踏みしめ、大地から衝撃がウィルへと迫った。
それは指向性を持った局地的な地震だ。
轟音と共に中庭全体が揺れ、石畳をひっくり返しながら衝撃波の津波となって襲い掛かる。
届くまでほんの数秒。
ウィルが体勢を立て直すのには間に合わず、しかし爆発跳躍を行う頃には到達しているという絶妙な時間管理。
10になるかならないかで第一次魔族侵攻を経験し、己の部族を失いながらも、聖国の魔獣狩りの頂点に立った男の歴戦経験がそこにはある。
それは、ウィルにはないものだ。
この一年で重ねた実戦経験は濃密ではあったが、細やかな所ではバルマクには決して届かない。
故に少年は、
『アッセンブル―――コンバート・エッセンス!』
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