ウィル・ストレイト――我がままの証明 その3――
『アッセンブル―――ギャザリング・エッセンス!』
バルマクは昇る炎を見た。
そして聞いた。
大気を焦がす音が耳を支配し、
『――――ルビーッ!!』
灼熱が収まると同時、聞こえた名前は簡潔に。
そして、彼は炎を見た。
炎を纏う彼は、姿を変えていた。
皇国風の黒の和装、真紅の羽織。
黒かったはずの両目は右だけ赤く、その額の左側には身体から溢れる炎が一つの形を持っている。
角だ。
鬼のような。
天に自らが此処にあると告げるような片角。
天津院御影とは左右対称に。
それは鬼であり―――人の形をした炎だった。
威圧を開放したカルメンのような圧力があるわけではない。だが、彼女よりも純粋に炎という概念に純化しているというのを、本能に近い領域で理解させられる。
『加熱』、『燃焼』、『爆発』、『焼却』、『耐熱』。
この世界に基づく火の属性法則を全て凝縮した灼熱。
己の幸福を守るために、ウィル・ストレイトは意志の証明を開始した。
●
「―――特定属性の特化自乗理論!」
ウィルの行ったものを一目で理解したのはこの場にたった二人。
その一人、トリウィアは思わず叫んだ。
各系統を足し合わせるか、掛け合わせて魔法を使うのがアース111の原則ではあるが、限られた系統を自乗し特定系統の効果を極限化するというもの。
理論としては単純だ。
難易度が極めて難しいということを置いておけば。
自乗というのはあくまで比喩であり、特定の系統に特化し魔力を消費し、結果を求めるのは煩雑な術式構築が必要になる上、コストパフォーマンス的に普通に使ったほうがよっぽどいい。
トリウィア自身、数度試してそう結論付けた。
けれど。
7属性35系統を保有しながらその同時使用が難しい彼ならば。
頭の出来はむしろ良いのに、選択肢が多すぎるせいでまとめ切れていない彼であれば。
無限に等しい全属性適正ではなく、1属性5系統の深化にのみ集中したのであれば。
その結果が―――『火』という概念を体現したウィルの姿だ。
もしかしてと、トリウィアは思う。
なぜなら、今しがたトリウィアが叫んだ理論は―――
●
「いやはや、全く偶然なんだよなこれが」
どこかでウィルの変貌を見ていたアルマは苦笑をこぼした。
ウィルが体現した単一属性の特化による肉体・装備変化。
それは概ね、アルマが入学の際に学園に提出した理論の具体例だ。
ただし、ウィルがそれを考えていたのは『建国祭』の後からのようだし、アルマだって別に彼に合わせて理論を生み出したわけではない。
だからこれは本当に偶然。
勿論、後から完成させるためにアルマの論文をウィルは読み込んだし、ウィルの考えを察していたアルマも進めてはいたけれど、彼が目指したものと彼女が完成させたものは同じものだった。
それは―――純粋に嬉しいなと思う。
そんなつもりはなかったけど、彼を導くことができたから。
ただ、少し気になるのは、
「………………流石にあの小学生ネームは変えさせるか」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます