ウィル・ストレイト――我がままの証明 その3――




『アッセンブル―――ギャザリング・エッセンス!』


 バルマクは昇る炎を見た。

 そして聞いた。

 大気を焦がす音が耳を支配し、

 

『――――ッ!!』


 灼熱が収まると同時、聞こえた名前は簡潔に。


 そして、彼は炎を見た。

 炎を纏う彼は、姿を変えていた。

 皇国風の黒の和装、真紅の羽織。

 黒かったはずの両目は右だけ赤く、その額の左側には身体から溢れる炎が一つの形を持っている。

 角だ。

 鬼のような。

 天に自らが此処にあると告げるような片角。

 天津院御影とは左右対称に。


 それは鬼であり―――人の形をした炎だった。

 威圧を開放したカルメンのような圧力があるわけではない。だが、彼女よりも純粋に炎という概念に純化しているというのを、本能に近い領域で理解させられる。

 『加熱』、『燃焼』、『爆発』、『焼却』、『耐熱』。

 この世界に基づく火の属性法則を全て凝縮した灼熱。


 己の幸福を守るために、ウィル・ストレイトは意志の証明を開始した。







「―――!」


 ウィルの行ったものを一目で理解したのはこの場にたった二人。

 その一人、トリウィアは思わず叫んだ。

 各系統を足し合わせるか、掛け合わせて魔法を使うのがアース111の原則ではあるが、限られた系統を自乗し特定系統の効果を極限化するというもの。

 理論としては単純だ。

 難易度が極めて難しいということを置いておけば。

 自乗というのはあくまで比喩であり、特定の系統に特化し魔力を消費し、結果を求めるのは煩雑な術式構築が必要になる上、コストパフォーマンス的に普通に使ったほうがよっぽどいい。

 トリウィア自身、数度試してそう結論付けた。

 けれど。

 7属性35系統を保有しながらその同時使用が難しい彼ならば。

 頭の出来はむしろ良いのに、選択肢が多すぎるせいでまとめ切れていない彼であれば。

 無限に等しい全属性適正ではなく、1属性5系統の深化にのみ集中したのであれば。


 その結果が―――『火』という概念を体現したウィルの姿だ。

 

 もしかしてと、トリウィアは思う。

 なぜなら、今しがたトリウィアが叫んだ理論は―――







「いやはや、全く偶然なんだよなこれが」


 どこかでウィルの変貌を見ていたアルマは苦笑をこぼした。

 ウィルが体現した単一属性の特化による肉体・装備変化。

 それは概ね、アルマが入学の際に学園に提出した理論の具体例だ。

 ただし、ウィルがそれを考えていたのは『建国祭』の後からのようだし、アルマだって別に彼に合わせて理論を生み出したわけではない。

 

 だからこれは本当に偶然。

 

 勿論、後から完成させるためにアルマの論文をウィルは読み込んだし、ウィルの考えを察していたアルマも進めてはいたけれど、彼が目指したものと彼女が完成させたものは同じものだった。


 それは―――純粋に嬉しいなと思う。


 そんなつもりはなかったけど、彼を導くことができたから。

 ただ、少し気になるのは、


「………………流石にあの小学生ネームは変えさせるか」

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る