アラビアン・デート その2



 心配事がないわけではない。 

 御影とパールのことだ。

 今朝から二人は聖国の王宮へと向かった。

 今後の動き、そしてクーデターへの対処の前準備を行うため。

 無論それは今回の敵であるザハル・アル・バルマクの膝元へ向かうということであり、危険性が高いことを意味する。

 不安ではある。

 正直ウィルは止めたかった。

 だが、結局のところいつかは行かなければならないし、聖女であるパールにとってもホームであるし、聖女の娘であり、皇国第六皇女である御影は立場的に賓客となる。

 行ってすぐ手荒な真似をされることはないという判断。


 加えて、生徒会一行が到着した翌日であるのはむしろ有利となるもの。


 というのも学園における遠征、その往復は全て個人手配だ。

 行き方、旅行日程、単独か複数か、個人で行くか、民間のキャラバンに同行するか。道中の身の危険が不安ならば護衛を雇うのも良い。そういった手配も含めて学校行事としての≪遠征≫である。

 当然、この中世相当の世界に置いて正確な日程を予定することは難しい。

 ザハル側も正確な準備と対処は難しいという予想である。加えて時間を調整して、街の活動が減る夜に街に入り、パールや御影は顔と身分を隠していた。

 故に、いきなり王宮に向かったとしても何かすぐに起きるわけではないと判断した。


 だからウィルも、御影とパールを信じることにした。


 だから――――ウィルとアルマはアグラニアの街を二人で楽しんでいるのである。


「デーツっていうのはアースゼロでいう中東やエジプトじゃあ遥か古代から重宝されていてね。味も良いし栄養価も高いし。乾燥させたものが地方や時代によってはお金の代わりに使われてたりする」


「へぇ……この黒い粒が……」


「というか、アース65じゃあ実際に貨幣として現役だね。陸地の大半が砂漠で、それこそまるごとアラビアンナイトみたいな世界だけど、大きさや重さ、色艶で価値が変わったりしてたな。品種も大量にあったし。普通に食べてたりもしたが」


「それは……お金としてどうなんです?」


「思うよね。貨幣とはどこにその価値を担保するかって話なんだけど。アース65じゃあデーツという果実自体に担保があるってわけさ。ふふふ……やはりアラビアンナイトといえばデーツだね……!」


 数あるアラビアン風文化の中でも、アルマのお気に入りはこのデーツという果実らしい。

 ケバブサンドもそこそこに、彼女はデーツを色々な角度で眺めたり、少しづつ齧っていたりする。

 ドライフルーツでねっとりした触感、甘みはかなり強い。 

 わりと甘いものは好きなウィルとしても好印象ではある。

 ただ、なんというか。


「干し芋みたいな味ですね」


「干し芋かー」


 ウィルのコメントに首をかしげながらアルマが最後に残った欠片を口に放り込む。

 味わいつつ、赤い瞳が上を向く。


「んー……んん、まぁ確かに? 言われてみれば……僕は黒糖思い出すけどね」


「あぁ……確かに? 黒糖、連合で採れるみたいですしね」


「植生や家畜がアース・ゼロとほとんど一緒なのがこの世界の住みやすい所だね。魔法のおかげか品質も良い―――ごちそうさま」


「ごちそうさまです」


 シナモンの香りのミルクティーで一服しつつ、周りを見回す。

 少し遅めの昼、マーケットは賑やかだ。

 四方は多くの店があり、さらに店同士が並んで通路を作り出すのはまるで迷路のよう。どこか煩雑としていながら、法則性のようなものがある。この飲食広場を中心に食材や料理、小物や衣類等、商品で区間わけされているようだ。


「上手くできている」


 アルマもまた周囲を眺めながら言う。


「このマーケットが……というか、都市自体が。同心円状に区間がかなり厳密だ。中央に聖湖を置いて、その外縁に王宮、中心域に国の政府機関や大型の治療院、銀行等。そこから高級な商店や宿泊施設、さらに外には大衆向けの店……と言う風に広がっている。各所に礼拝所、霊廟やこういうマーケットも置いてあったり」


 クルクルと細い指で渦を描き、


「厳密な区画別けを行っている……というよりも、結果的にこうなったものを整理した感じかな? 確かこの聖都は聖湖によって大昔から部族同士の奪い合いがあったという。奪った部族が生活区間を付けたしを繰り返した結果―――」


「素晴らしい、見事な推測です」

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