ニュージェネレーション その2


「それじゃさっきの話に戻るけど、お飾りっていうのはそういうことね。笑えないっていうのはまー、仕方ないというか、時代の流れっていうか? 私としてもただの宗教家が国を動かすって言われたら困っちゃうしねぇー」


「ふむふむ、政教分離というわけか。ちゃんとしてるな」


「政教分離、流石よく知っていますのぅアルマ様」


「僕は君がその概念を知ってることに今驚愕してるんだが……!?」


 ルビーのようなお目目がかっ開かれながら驚いた。

 カルメンはその視線を受け、大きな体で大きく胸を張り、


「ふふん。これでも3年主席故、当然のことですじゃ」


「補足しておきますが、宗教分離は主に王国発足時、初代陛下が提案した概念ですね。厳密には帝国は元々そういう体制でしたが、王国では厳密化されました。≪七主教≫は王国地域に強く根付いていますが、国家運営に関しては原則乖離するべき、と宣言したわけですね」


 淀みなくトリウィアの解説が挟まる。


「概ね理由はパールさんの話と同じです。ただ、初代陛下は≪七主教≫の顔を立てる為に王家の子女を≪七主教≫のシスターとすることを代々契約しています。今のヴィーテフロア殿下がそれですね」


「…………主、主。理解しきれてる?」


「まぁ、一応」


 聖国に引き続き王国の歴史まで及んで、フォンは眉をしかめているが、ウィルにとって「政教分離」という概念はそれなりに馴染みがある。

 

 そして相変わらず初代陛下は初代陛下が過ぎる。


「失礼、脱線でしたね。パールさん続きをお願いします」


「はいはい。えーと、そうだね、次の話は……そろそろミカちゃんの話にしよっか」


 ニコニコと笑みを浮かべたパールは『教皇』の下に『聖女』と記し、それを線で繋ぐ。

 

「私みたいな聖女っていうのは教皇の候補なわけねー。各部族から保有系統とかで選ばれて、姓も≪トリシラ≫になっちゃうわけ。聖国の方はもう何人かいるんだよ。ちなみに、私が入学した時はその聖女の内、私が一番優秀だったからね! ドヤ!」


 パール・トリシラ。

 火・水系統網羅にさらにいくつかの各系統を加え21系統を保有し、≪究極魔法≫すら持つ彼女の才覚は言うまでもない。3年主席が龍人という生命として隔絶したカルメンであることを考えれば在学生の人種で最も強い者と言っても過言ではない。

 ウィルとしても、やはり正面から戦うと勝率は五分五分、ないし若干劣るかもしれない。

 加えて今代生徒会では唯一、回復・治癒も得意としている。

 

「ふむ。パール先輩が優秀であることに疑いは欠片もないが」


「おっ、ミカちゃんありがとー」


「いえいえ。それで――――私の母が、その聖女だったというわけか?」


「うん、そういうこと」


「……なるほど」


 肯定に対して御影は胸の下で腕を組んだ。

 少し考え、


「私の母が聖国出身であることは知っていた。肌の色がそもそも皇国あたりに住む人とは違うし、私もそれを受け継いでいるからな」


 彼女の浅い褐色は鬼族と聖国の人種のハーフの証である。

 別に聖国の人間が全員褐色なわけでもないが、褐色の肌を持つ人種は概ね聖国のみと言っても良い。皇国は鬼種の国であり、彼らは皆白い肌を持つ。

 力を以て自ら証明する前、その他者との差異故に民から排斥されたこともあった。

 けれど彼女にとって敬愛する母から受け継いだものであり、誇るべきものだ。


「今更、母が聖国の聖女だったと聞いても……その、なんだ。正直反応に困るな。王族は元々だし、このままいけば皇国の次の王は私だ。聖国の教皇の座に手を伸ばせると言われても伸ばす気はない。それを母上と父上が何も言わなかったということは頓着してないのだろう。私の両親はそういう類だしな」


 力強く言い切り、そして数秒の後に体が傾いて、隣のウィルの肩に乗り、


「………………多分? 存外忘れてるだけか、父上がそもそも知らなかったりするのか? ははは」

 

「いや、僕に言われても……」


「そういう所ですよ、鬼種」


 おおらかと言うか、大雑把というか。

 学園にいる皇国出身の鬼種はみな気の良い性格だが、大体そんな感じである。


「まぁいいだろう」


 御影はウィルの肩に頭を預けたまま――片角で耳にちょっかい掛けつつ――、笑みを濃くした。

 ウィルとしては距離が近いはくすぐったいわ良い匂いがして困るのだけれど。


「それで、は?」


 鬼種の姫が砂漠の聖女に問う。


「私の生まれに関して教えてくれるのなら、? ご丁寧に聖国の予備知識まで仕込んでくれて。なぁ、パール先輩。そこの所まで教えてくれると、嬉しいな?」


 琥珀の瞳が真っすぐにアメジストの瞳を見据え、


「――――」


 パールはすぐに答えず、ただシュシュを外した。

 そしてラメ入りのリップが塗られた唇を開く。



「―――

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