オールスターズ・アタック その1
≪魔法学園≫の中央、そこにあるのは敷地内で最も高い塔がある。
特別校務的に施設があるわけではないシンプルな、されど象徴的な時計塔だ。
元々、20年前の大戦において全ての国家の友好と発展を願って設立された≪魔法学園≫においては国家間の友好のシンボルでもある。
地上部には記念碑と広場があり、その後ろに約100メートルの高さの時計塔がある。
学園生徒からすれば憩いの場、教師陣からすればかつての大戦の終了の証。
いくつかの学園行事はこの場で行われることもある、特別な場所だ。
しかし――――その場所は今、瘴気が蠢く魔窟と化していた。
時計塔に瘴気が纏わりつくように集まっており、これまで学園各地で出現したもののどれよりも濃く禍々しい。
全方位から転生者たちが総力を挙げて押し込めたが故に。
「―――――ゲニウス……!」
時計塔の頂点、全ての瘴気の中心地にゴーティアはいた。
下半身は瘴気に沈み、上半身だけが前学園の姿のまま。
アルマの狙いは分かっている。
これまで幾度となく繰り返した展開だ。
ある時はアルマ一人で、あるいはネクサスたちによって同じ展開になってきた。
それらと違うのはゴーティアはそもそも顕現自体が不完全であること。
そして戦っているのはネクサスではなく、戦力的には劣っている謎の集団であるということだ。
互いに十全ではなく、故に五分ないし僅かに不利だとゴーティアは判断する。
「――――まぁ、よい」
嘆息し、腕を広げる。
年を重ね、全盛期に比べれば聊か細く、されど一度はこの世界を守った腕。
世界を守った腕に世界を食らう瘴気が纏わりつく。
時計塔広場に蔓延っていたものも、学園各地に残滓としてこびり付いていたもの全てが。
それは天に落ちる漆黒の流星雨のように。
時計塔を中心として巻き起こる邪悪な竜巻。
そしてそれは1つの巨大な塊となり、広場に降り立つ。
生まれたのは人の形をした巨大な瘴気の塊だった。
全高約50メートルの巨人。四肢があり、頭があり人を模しているがそれ以外は瘴気に包まれた超大型魔族。
黒紫の瘴気、人型のシルエット。目と口に当たるところだけが尚黒く、がらんどうのように輝いている。
それはかつての大戦末期に出現した最大規模の魔族だった。
膨大な人的被害を生み、災害とすら称される超大型魔族。
されど前学園長が撃ち滅ぼし―――実際には相打ちとなったアース111における最大規模の災厄である。
既存生物の形を模した魔族においてほんの数体確認された人の形をした瘴気が時計塔の前に降り立つ。
そしてそれはゴーティアが≪D・E≫として顕現するための準備段階。
ゴーティア・ラルヴァとでも言うべきものである。
『――――む』
ゴーティア・ラルヴァがふと視線をずらす。
その先は時計塔の4分3あたりにある大時計板だ。
ガコンと、長身が時を刻む。
だがそれは止まらず、先端から白い光の軌跡を生みながら一周し、
「―――随分と品のない姿になったね」
門からアルマとウィルが現れた。
銀髪赤目の少女と黒髪黒目。同じ意匠、色違いの装束を纏い、丈や形は違えど同じ真紅のマントを靡かせる。
中空に踏み出しそのまま少し浮遊と共にゴーティアの顔当たりまで降下し、アルマが軽く指を振る。二人の足元に魔法陣が浮かび、着地した。
「君の羽化体も真体顕現も色々見て来たが、今までもっともダサいな。もうちょっとどうにかならなかったのか」
『そういう貴様こそ。めかしこんだな。主がではなく、少年が、だが。ん? 態々揃いとはなぁ』
「ははは、いいだろう。ウィル、着心地はどうかな」
「最高です!」
「だってさ」
『……』
少女のドヤ顔に思わずゴーティアも黙る。
400年の付き合いながら、かつてないレベルだった。
地獄の氷河のような冷たい瞳で鼬ごっこのような闘争を繰り返してきた宿敵が色ぼけしていた時の気持ちはゴーティアにとっても筆舌にしがたいものがあった。
なんだかなぁ、という気持ちである。
地元の地味だったクラスメイトが、数年後再会したらものすごいギャルになっていた時のような筆舌にしがたい気持ちがある。
自分で考えてちょっと違うな、ゴーティアは思った。
『……きっつ』
「お互い様だなぁ子供向けアニメ映画のラスボスみたいな見た目してさぁ」
『ははは』
「はっはっは」
少女と巨人は笑い、
『死ね!!』
剛腕が突き出される。
それ自体がビルのような腕であり、巌のような右拳。ただ純粋に大きい。それだけの暴力がアルマとウィルへ牙を剥く。
「―――アルマさん!」
中空の魔法陣を踏みしめながら、ウィルの右腕のダイヤル陣が起動する。
五層からなる魔法陣がゴーティア・ラルヴァの拳を受け止めた。二枚砕かれ、三枚目以降も震え押されるが、
「ありがとう、ウィル!」
ウィンクを彼へと飛ばしたアルマもまた動いている。
指を虚空に突き出し、手首を返せば、
「さぁ――――やろうか、諸君!」
ゴーティア・ラルヴァの上下、あらゆる方向に――――光の門が開いた。
●
「クライマックスにゃあああああああ!!!!」
時計塔の最上部、ポールに片手で捕まりながらマイクをナギサは構えた。
最終決戦、最後の闘い。ならばテンションから盛り上げていくのがアイドルの役目。
『――――♪』
歌うのはアイドルらしいポップソングではなく、アップなテンポでロックなテイストに。
ナギサはラストバトルでOPが流れる類のアニメが好きだ。
みんなバラバラで別の道を歩ていても、今この瞬間に一緒に戦うならなんでもできる。
そんな歌を歌い、そしてそれは単なる雰囲気だけではなく実際に味方全員への強化として行き渡る。
それに押されるように空から加速と共に落下する二つの影。
腰だめの構えを取るソウジとウィングスーツを広げる景だ。
「―――大剣豪、奥義」
「ギブソン、フルリロード!」
『LOAD FULL CARTRIDGE』
ソウジは静かに、景はネオンブレードから残っていたネオニウムカートリッジを連続で吐き出しながら。
「斬魔、竜王斬――――!」
「シィィッ―――!」
居合から放たれ、龍の形を取る大斬撃。
刀身に亀裂を淹れながらも真紅に大発光する炎熱斬撃。
二つの刃は突き出していたラルヴァの右腕へ叩き込まれた。
『――――!』
切断するには至らない。
だが、ラルヴァは大きく体勢を崩し、そのタイミングで新たな門を開けてウィルとアルマは姿を消した。
ふら付き、しかし巨体故にゆっくりとだが姿勢を戻そうとし――――超加重により両腕両膝が地面にめり込んだ。
『ぐ、ぬぅぅ……!』
空間ではなく、ラルヴァ単体へとかけられた重力不可。地上、広場の入り口に門から現れた巴による大地への貼り付け。
巻き起こる土煙に構うことなく、彼女は両手を突き出しラルヴァを大地に縫い付ける。
『――舐めるなよ、転生者……!』
だが、その巨体から生じる膂力も尋常ではない。
超加重に身を軋ませながら右腕の瘴気が蠢いた。元々千切れかけていた腕を振り上げきれずとも、瘴気で構成されたそれが伸縮し、暴走する特級のように巴へと伸び、
「ンンンンンンマッソォオオオオオオオオオ!!!!」
筋肉が瘴気を受け止めた。
筋肉とは、即ちロックに他ならない。
膨大な物理エネルギーを生むはずの激突だが、しかしその弾けんばかりの筋肉は揺らがない。
隆起した大胸筋と三角筋が、むしろ負けるかと受け止め、
「そのままですわ!」
ロックの背後でマリエルが掌を振りかぶる。
「フッゥ……!」
震脚。岩塊の如きロックの脊柱起立筋に掌を添え、接触状態から再度震脚。
足元から生じるエネルギーを全身の関節部で連動伝達。掌底を捻りながら打ち込み、ロックの体を通してラルヴァの腕へとぶち込むそれは、
「マッスルコラボレェェェェエエ―――ションッッッッ!!!」
「いや、私はどっちかっていうとテクニカルタイプですわ!! 乙女ですので!!」
「っっっ―――だぁっ!! うるさいであります! 神経使うんでありますよ今のは! 割と限界であ、拘束解けた」
喚き声と共に、伝達した螺旋衝撃波が瘴気の腕を爆散させる。
だが、流石に巴も巨人への超加重による拘束は無理があったようで、ラルヴァは重力の軛から解き放たれた。
姿勢を持ち上げようとし、
『ぐぅ!?』
脳天の一部が吹っ飛んだ。
物理衝撃だけではなく、瘴気自体が消滅するかのように。
「―――命中。されど急所ではないようです」
「いえいえ、お見事」
広場の最寄りの建物の屋上。伏せた姿勢で狙撃を行うアルカとそれに寄り添うクロノ。
ヘッドショットを決めたが人体の形を模しているだけで急所ではない。腕もそうだが、瘴気が蠢いて再生を開始している。
それでも動きを止めた超加重と違い、視覚を一時的に潰した。
故に、最も大きな機体を持つものが空から降下する。
「ダイレクトエントリー……!」
5メートルの機人、マキナ。
再生途中の頭部に直接取りつき、そして放つものは、
「――――――ZI☆BA☆KU!!」
「!?」
巨体を織りなす数兆のナノマシン一つ一つが連鎖自爆し、大爆発を引き起こす。
これまでで最大の衝撃波が生まれ―――明けた噴煙から首元から抉れたラルヴァの姿が残る。
『―――――』
だが、それでも倒れない。
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