カム・フロム・マルチバース その3
その生物をフォンは初めて見た。
魔法学園上空、様々な鳥型魔族が舞う中でなお異彩を放つものを。
それはシルエットだけなら鳥人族のそれに似ている。
だが実際の姿はまるで違った。
羽毛と骨格で構成されているのではない。
金属質のフレームと――光の膜でできた翼だった。
「はえー、綺麗」
自身も空を舞い、翼で魔族を叩き落し、蹴り落としながら加速しつつ、その飛翔を見る。
鳥人族の飛び方とは違う。
風の流れを読み、その流れに乗って飛ぶのではない。
どういうわけかそのフレームウィング自体に浮力が発生し、加速を行い、風を切り裂くように飛んでいる。
例えばフォンが空中で戦うのならば敵との戦いも飛行に利用する。
或いは
それぞれ攻撃手段は異なるが一つ一つの動きと加速させるのがフォンの闘い方であり、鳥人族の闘い方である。
「とりゃっ」
軽い掛け声ながら、猛禽類型の魔族に翼を叩き込み両断する。
体重は軽い鳥人族であるが加速を乗せた彼ら彼女らは、魔法により風の刃を纏う。加速を重ねることによってあらゆる行為を音速超過で行い、重さではなく鋭さで敵を倒す。
そのまま魔族を裂いた抵抗を体を回転させることで加速。
さらに真っすぐに伸び、別の魔族に体に趾を引っかける様において加速任せに引き裂く。引き裂いた瞬間、残った体をさらに蹴りつけてまた加速。
真上にいた魔族に両趾で着地。その握力任せに体を握りつぶし、潰れた身体を足場にして真下へとさらに加速。
加速に加速を重ね、その上でさらに加速を。
鳥人族は魔法に適した体ではなく、二桁の系統適正を持つことは極めて稀。
だが、だからこそ飛行に特化している。
飛ぶために翼を羽搏き、飛ぶために敵を切り裂き、飛ぶために敵を穿つ。
アース111最速の翼。
地上から見れば白と黒の影が一瞬で視界一杯に軌跡を引いたと思えば消えたかのようにしか見えないだろう。
「……とんでもねぇな」
超音速、どころか音速の数倍まで加速するフォンを見てガスマスクにフレームウィングの男―――
空における生物としての格が違う。
景の飛行はネオニウムという地球外物質によるドーピングによって体を強化し、フレームウィングの起動もネオニウムよって行われている。
精製の方法によっては体内に取り込むことも、燃料としても、あらゆる科学文明の動力源として運用できるのだ。
彼の戦闘能力の大半はこのネオニウムが根幹にあるために、世界が変わったから使えないなんてことがなくて幸いだった。
ネオニウムを取り込むために景の体は諸々人体改造されまくっているのでネオニウムが効果を失うと全く使えなくなってしまう。
脊髄にはフレームウィングや両手両足のネオンガントレットを意思で操作するために脳波制御チップが埋め込まれているし、アンダースーツにはシールタイプの身体強化ネオニウムが仕込まれてもいる。ガスマスクから伸びるチューブは腰のネオニウムストックと繋がっているために、ネオニウムがなければやはりただ息苦しいだけだ。
思わず口の端が歪む。
ガスマスクの奥で皮肉げな笑みを浮かべながら―――フレームウィングを加速させた。
呼吸はガスマスクで、眼球はゴーグルで保護されているが空気抵抗や加重に対しては無抵抗だ。ネオニウム粒子で強化された肉体任せで強引に耐えながら、飛ぶ。
フォンの流れるような加速とは違う。
無限加速による飛翔ではなく、加速と減速、停止のサイクルだ。
ネオンブレードの柄に付属するトリガーを引き、カートリッジが排出。高熱を発するレッドネオニウムが充填され、ブレードに装填。ネオンレッドに輝き、1500度の刃が発生する。
「――だっラ!」
梟型の眷属を叩き切る。
抵抗はほぼ無いに等しい。
故にそのまま真っすぐ飛ぶ。
「―――ギブソン、右腕・ブレード固定!」
『copy』
ガスマスク内臓イヤホンから機械音声から返答がある。
クロノにとってのアルカのような魂すら溶け合ったパートナーではない、純粋なガジェットサポート人工知能だ。
脊髄に脳幹チップ埋め込めばガジェット操作簡単と思ったけど、戦闘中の思考とごちゃって逆に面倒になるので友人に作ってもらったのは懐かしい話である。
右腕をブレードごと固定したままに空を飛び、超高温ブレードの威力任せに眷属を焼き切りながら空を突っ切る。
最高速度でやっと音速に到達するという具合。
フォンの加速度や空中での自由度には大きく劣る。
そもそも種族として飛行に特化した彼女に、その分野で叶うはずもない。
「自分で言って、悲しくなるなァ!」
空を突っ切り十数体倒した所で反転。
「ンぎぎぎぎぎギッッッ……!」
フレームウィングを大きく広げ、加重に耐えながらも急制動。直進突撃では倒しきれなかった取りこぼしたちが殺到してくるが、停止の勢いのままにネオンブレードを振り上げ、
「ガンモード……!」
振り下ろした柄が直角に折れて銃形態へと移行。それと共にカートリッジを排出し、新たに装填。赤ではなく黄色。
トリガー。
銃口から放射線上にネオンイエローの雷撃が中空に迸る。
射程範囲約30メートル、カートリッジ内ネオニウム全消費の大技だ。
ネオニウムはその色と精製に応じて万能に近い反応をもたらす。
自らネオニウムを精製し、ネオニウムによる汚染耐性が極めて高い景だからこそそれらを十全に使いこなせるのだ。
「ふぅぅゥ――」
「凄いね今の!」
「――――まぁナ」
振り返ったらフォンが真後ろに滞空していた。
強化した感覚器官ではそこにいることには直前には気づいていたが、しかし接近するまでが分からなかった。速すぎる。完全に景のアースの速度上限を完全に超過しているだろう。
「んー、貴方私と同じ鳥人族? その割にはヘンな飛び方するけど」
「違う違う、アンタの主と同じ人間だヨ。ちょいと弄ってるが――まぁ、人間ダ」
「へぇ――主は交友範囲が広いんだね!」
「……お、おウ」
影も曇りもない明るい笑顔に思わず圧倒される。
今の自分はフードにガスマスク、ゴーグル。体のあちこちがネオンライトに光るわりと怪しい人物なのだが。
景の知り合いは大体何かしら過去に影やら傷やらがあるので滅多似合うことのない人種だ。
いや、それを言うならそもそもウィルこそ出会ったことのなかった人種なのだけど。
「にしても、魔族って思ったより大したことないかな。私と貴方だったら、大体空はカバーできそうじゃないかな」
「おイ鳥ちゃン。そういうこと言ってると―――」
『■■■■――――!!!』
轟いた咆哮は眷属たちが集合して生まれた―――ワイバーン型だった。
約15メートル近い大型眷属。学園内で生まれたものでは現在最大級だ。
「………………」
「…………ほら、大体こうなるんだよなァ」
嘆息しつつ、
「ギブソン、アレやるゼ」
『
「…………こほん」
「何か言った?」
「………………いや」
ちょっと格好つけたら言葉足らずだった。
帰ったらAIのアップデートをしたい。マキナあたりが上手いことしてくれないだろうか。
気を取り直して、
「―――ギブソン、オーバドーズ」
『Copy. Overdose』
指示と共に、ガスマスク内部から通常の摂取量をはるかに超える純粋ネオニウムが噴出され、呼吸器からそれら全てを吸い込む。
通常の人間であれば一吸いで中毒死するレベルを、転生特権の状態異常無効任せに取り込むのだ。
「―――フッゥゥ……!」
過剰摂取によりゴーグルとフードの奥で、真紅の瞳が輝いた。
「ハイでイクゼ……!」
Fromm earth 984 サイバーヤクザい師/黒鉄製薬事務所所長―――――≪オーバドーズ≫景・フォード・黒鉄。
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