アッセンブル・スターズ その2
「主! 主っ、主! 大丈夫!? 生きてる!? うわあああぼろぼろだ!!」
「あ、ちょ、フォン。フォン、大丈夫だから」
背から翼を生やした状態で文字通り飛んできたフォンを無理やり引きはがして立ち上がる。
見れば冬用に長袖と前世でいうスポーツウェアのような足首まで張り付くタイプのズボン。首元には少し前にウィルが送ったマフラーが。
その服や顔はところどころ汚れ、血が滲んでいた。
彼女もまたこの学園の中で次元喰らいの眷属と戦っていたのだろう。
「よかった……よかったよぅ……!」
鳶色の瞳には――涙が滲み、ウィルに再び縋りつく。
「私、戦いながら、一杯探して……ひっく……うぅ……! 主が、見つからなくて、もしかしたら……もしかしたらって思って……!」
「……ごめんね、心配かけた」
泣きながら震える彼女の頭を撫で、軽く抱き返す。
彼女の翼と同じくらい柔らかな濡れ羽色の髪。
フォンの頬に手を添え、顔を上げさせる。
真っすぐに見つめ、
「もう大丈夫」
「っ…………うん」
鼻を啜り、目をこすりながらフォンは離れた。
「―――後輩君!」
次いで走ってきたのはトリウィアだった。彼女も所々血が滲み、白衣が汚れている。彼女も秋冬仕様で足元まであるレザーパンツだ。
「先輩」
「っ……先輩、ではなく―――!」
いつも無表情な彼女だが、しかし端から見てわかりやすいほどに焦りを浮かべていた。
カツカツとロングブーツを鳴らしながら駆け寄り、
「この……馬鹿ですか!」
ぱしん、と思い切り平手をウィルの頬に打ち込んだ。
うわぁとフォンは口を開け、マキナ始め外野たちはアルマを見て、アルマはただ息を吐いて眺めていた。
「何か、隠蔽術式を使っていたでしょう!」
「っ……流石ですね」
「学園内のどこを探しても見つからないし、探知魔法の反応はないし! 記録に残っている魔族でそんな力を使うものはいなかったのは分かっていたから、ということはっ! 貴方が何かを引き付けているということで、そうじゃなかったら……!」
ぽろぽろと。
眼鏡の下の黒と青の瞳から透明の雫が零れ落ちる。
息を呑み、頭を振り、肩から力が抜けて、
「貴方が……貴方が死んでしまったということになる……っ」
「……ごめんなさい」
ウィルは静かにトリウィアを抱き寄せて、涙を拭う。体を屈めて、額を重ね合わす。
至近距離で彼女の震える息を聞きながら、
「少し、自棄になっていました。でも、もうしません。約束します」
「っ……約束して。私は、貴方を失った気持ちを……「知りたい」なんて思わないから」
「はい。絶対に」
何かも「知りたい」と願い、知識に呪われたとさえ自嘲する彼女はそう言った。
その意味をしっかりと認識してウィルは頷いた。
身体を離して、顔を上げた彼女はいつも通りのトリウィアだ。
首をかしげなら小さく微笑み、振り返れば。
「……」
「よう、婿殿」
大戦斧を肩に担いだ天津院御影。
朱の戦闘装束から真っ黒な羽織に袖を通しているが、その羽織の破れや汚れは3人では一番だった。
彼女はまだ目元の赤いフォンとトリウィアを見て、少し考え。
「それで?」
「……えぇと」
「言いたいことがあるなら聞こう」
彼女は片目を閉じて笑い、ウィルの言葉を待つだけだった。
「………………ご心配をお掛けしました」
「あぁ」
ニヤリと彼女は笑い、
「ま、フォンと先輩殿がこうだし、私から言うまでもないだろうし、私がどう思っているかを分からないほど鈍感ではないだろうしな」
くくくと彼女は笑う。
そんな彼女の様子にウィルが困ったように首を傾げる様を眺めていた。まるで楽しんでいるかのように。実際御影は彼のそういう所も好きだった。
「詫びは後で体で返してもらうとして」
「えっ」
「あの連中はなんだ? 敵ではなさそうだが……けったいな恰好をしているな。知り合いか?」
顎で指した先、アルマやマキナと掲示板勢がいる。
特にマキナ以外はまだウィルに名乗りもしておらず、アルマとの絡みを楽しみ、三人とのやり取りも空気を読んでいた。今がチャンスか、とそれぞれがそれぞれに視線を配り、出し抜こうとして、
「――はい。僕をずっと助けてくれていた人たちです」
全員が両手で顔を覆いながら天を仰いだ。
アルマは半目でそれを眺めていたし、御影たちも良く分からなかった。
「それと、たまに話しますよね。こちらアルマさんが僕の「師匠」です」
「ん」
1人名指しで紹介されたアルマは腕を組みながら顎を軽く上げ、
「――――ほう」
「なんと」
「えぇ?!」
御影は笑みを濃くし、トリウィアは目を細め、フォンは軽く飛び上がりながら驚いた。
三者三様の反応をした後、三人は顔を合わせて、
「…………ふむ」
「…………あれが」
「…………そっかぁ」
「…………んんっ」
何とも言えない反応にアルマは咳払い。
「なんにしても、だ。そろそろ動くぞ―――あぁ、自己紹介は後だ」
そんにゃーとかえぇーとかいう声が上がるがアルマは構わずに手を掲げる。
「やつを倒すには手順がある。ゴーティアは結界に閉じ込めた。次は手下狩りだ」
その手を広げれば六角形が浮かぶ。それは学園全体に張った隔離結界の縮小版。端の方に赤い点がありそれがゴーティアの位置を示しているものだ。
「やつは自身を無限と嘯くが実際の所生産スピードには限界があり、一度に産める量もある程度は制限がある。眷属を潰せば潰すほどそれらの効率は下がり、眷属を媒介にした転移の選択肢も下がる」
故に、
「全員で虱潰しに結界内の眷属を潰す―――そして、奴を仕留める」
「失礼、天才殿質問よろしいか」
「ん」
手を上げたのは褐色上半身裸体の男。
「―――コテハンでは暗殺王と名乗っていたロック・アルカイオス3世である」
質問の体を取りつつ、さらっと名乗りを上げた筋肉男に名乗りがまだのメンツが、その手があったかと目を見開いた。
御影たちは暗殺王ってなんだ……? と首を傾げた。
王族というにはズボンだけというあまりにも軽装な、王というにはあまりにも巨大すぎる大胸筋をぴくぴくさせながらバリトンボイスで問いかけを続ける。
「眷属を潰し、アレの逃げ場を無くすということだが。その滅殺は我ら誰でも可能なのか?」
「良い質問だ筋肉達磨くん」
「照れるッ!」
むきぃ! と胸を張り、緩く腕を広げ拳を握りながらも全身を力む―――現代のボディビル競技ではフロントリラックスポーズと呼ばれるもので答えた。
ニカッ! と真っ白な歯が輝いた。
取り戻したはずのアルマのハイライトが一瞬消えた。
嘆息し、首を振りながら彼の質問に答える。
「――――ウィル」
「はい」
「君が鍵だ」
告げる。
≪全ての鍵≫を持つ少年に。
「僕単体だけでは殺せるが―――殺しきれない。眷属の総数と生産スピードを落としたら僕と君でヤツの本体を直接叩く。―――いいね?」
「―――はい!」
どうやってとか。
できるのかとか。
そういうことをウィルは問わない。
アルマができると、やろうと言ったのだ。
だったらそれでいい。
これまでずっと、彼女はウィルの未来の扉を開けてくれたのだから。
アルマ・スぺイシアはウィル・ストレイトの希望だから。
希望を、真っすぐに信じるのだ。
「―――」
アルマは彼の瞳に思わず頬が緩みかけ、抑えようとするが全員にバレバレだった。
「こほん」
仕切り直しに咳ばらいを一つ。
「さぁ諸君。改めて言おう、クリスマスだ。――――パーティーの時間だよ」
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