アッセンブル・スターズ その1
「―――――ゲェェェェニウゥゥゥスッッッ!!」
「!」
「全く、しつこい上に空気を読まないな」
ウィルがアルマの手を取ろうとした瞬間、結界の端で瓦礫を吹き飛ばしながらゴーティアが叫ぶ。胸に大きな穴が開いているが構っている要素はまるでない。むしろ、叫んでいる間にもすぐに修復が完了していった。
「よもや……貴様が出張ってくるとはのう! その小僧の為に自ら敷いたルールを破るか!?」
「あ、アルマさん? 僕の為にって」
「気にしなくていい」
ふっ、とアルマは柔らかく微笑む。
そして彼の手を取り、ボロボロの服や傷を見て眉を顰める。
「元々、僕がだらけていただけさ。だから、うん。これでよかったのさ」
「……アルマさん」
「ん」
黒と紅の視線が繋がる。
ウィルは首を傾けながら力なく微笑み、アルマは軽く顎を上げながら笑う。
「――――なにを貴様、ラブコメしとるかっ! 1000歳越えのババアが」
二人を見て、ゴーティアが腕を振る。そしてその足に影が広がり―――眷属が溢れ飛び出した。
先ほど虚空から生まれたのとは違い、ゴーティア単体の攻撃の延長として放たれる。
猛禽や肉食獣が多頭蛇のように二人へ殺到した。
「貴様のサーカス団はワシが別のアースで封じておる――貴様ら二人で止められると思うてか!」
「アルマさん!」
「……こほん、大丈夫だよ」
とっさにウィルがアルマを引き寄せ庇うようにし、彼女は咳払いをして動かない。
口端が僅かに緩んでいて、
「思っていない。そこまで舐めてはいないよゴーティア。それからサーカスは抜けて来たんだ」
だが、と手を上げて、
「―――新しくバンドを結成したのさ」
ぱちん、と指を鳴らした。
そして多頭獣たちの前に白い時空の穴が開き、
「――――!」
一頭はエネルギー波で打ち抜かれ。
一頭は元素の塵に帰り。
一頭は固い拳を受けて弾け飛び。
一頭は斬撃の雨が細切れにし。
一頭は赤く光る刃に焼き斬られ。
一頭は打撃の後、内側の衝撃から爆散し。
一頭はひしゃげて潰れ。
一頭は超音波が蹂躙した。
アルマとウィルの前に―――9人が現れた。
近未来的なショットガンのような銃を持つ、精悍な黒髪短髪、軍服の男。
質の良さそうな半ズボンと青い髪、モノクルを付けた少年と彼の背後に控えるメイド服姿の金髪長身の女性。
全身、良く日焼けした筋肉の鎧に身を包み上半身裸の禿頭の男。
黒い長髪をポニーテールに和装と鎧を組み合わせ刀を持つ青年。
厚手のフード付きパーカーにガスマスク。全身を各所が太いチューブで覆われた白髪赤目の青年。
どこかの学園の女性徒の制服らしきものに黒いローブ、長い赤髪の少女。
黒のジャケットとタイトスカ―トに白のブラウス、緑のネクタイは豊満な胸のふくらみに乗り、ピンヒール、黒の眼鏡と仕事ができると言わんばかりに隙のないOL姿。茶髪をシニョンにした女性。
水色と白を基調にした制服とアイドル服を融合させ、近代的な金属パーツやヘッドホンを備え、桃色の髪には猫耳が生えた少女。
「ネクサス――ではないのか?」
「いや、ただの厄介オタクなんだなこれが」
全員が全く同じ動きで右手を頭の後ろにおいて「いやぁ~」という仕草をした。
軽く半目を向けてから、
「……全く本当に忌々しい」
吐き捨てて―――その体ごと影に沈んでこの場から消え去った。
「なっ、どうして……っ」
「この結界、物理的な隔離と隠蔽だからね。主人格を他の眷属と交換できる相手にはあまり意味がないんだ。初見だとそれが厄介すぎるんだが。―――マキナ! 彼の治療を」
「承った」
駆け寄ってきたのは軍服の男だった。
低い声だ。長身で良く鍛えられているのが服の上から見ても良く分かる。軍服のようだが、妙に光沢がありウィルが見たことのない不思議な素材だった。大きな銃のようなのはいつの間にか消えている。
「イッチ……否、ウィル。傷口を見せてくれ。君からすると少し奇妙かもしれないが我慢してくれると助かる」
「え、あ、はい」
マキナと呼ばれた男はグローブに包まれた右手をウィルの傷口に添える。
突端、指先が噴出孔にように変化し、そこから霧状のものが噴出。全身の傷に浸透していき塞いでいった。痛みも消え、体の思う様に動くようになった。
「これは……」
「医療用ナノマシンだ。鎮痛と止血、テーピング効果もある。数日で体外に排出もされるので問題も特にない」
「な、ナノマシン」
この世界に転生して聞くことはまずない概念だ。
前世ではSFとか近未来系のマンガとかでしか碌に見たことがない。
それを用いるということは、
「…………え、えっと。脳髄さんですか?」
「然り」
マキナと呼ばれた男―――掲示板では≪脳髄ニキ≫と名乗っていた男は低く響く声で頷き、
「ウィル、君は今こう思っただろう―――――あれ? こいつ、脳髄じゃないの? 肉体あるの?」
「ま、まぁ」
「全く以て同意なのだが―――――流石に、脳髄が浮かぶのは絵面が最悪と判断した」
「……まぁ」
何も言えない。
確かに絵などでデフォルメされたイラストならともかくリアル脳髄が動いていたら見る人によっては気分を害するだろう。言葉にすれば面白いかもしれないが絵面としては最悪だ。
「でも、その体はどうして?」
「アルマが脳髄から精神だけを抜き出して、ナノマシンで形成した強化人間体にいれてくれてな。まさかこのような形で体を持てるとは思わなかった――――名乗りが遅れた、マキナ。今はそう呼んでくれればいい」
「はい! 僕はウィルです、いつも、それに手当もありがとうございます」
「―――」
ウィルの言葉に数秒止まり、振り返ってご丁寧に待機していた仲間たちに親指を立てた。
半分くらいにしっしっと手を振られ、半分くらいに中指を立てられた。
その光景を横目で見つつ、アルマは右手首の宝石輪に触れ、
「第59番―――」
人差し指と中指を引けばそれに従って虹色の糸のような光が伸びていく。
右の掌の上でそれを何度かクルクルと回し、
「――――― ≪
広げた瞬間―――学園全体に巨大な結界が出現した。
それまでウィルが張っていたものを塗り替え、周囲の音が若干消えている。
「よしっと」
「……い、今のは?」
「アース59の最高位結界術だ。指定範囲内の敵を逃さず、戦えない者を結界の外に転移させた上で、空間位相をズラす。……ま、わりと滅茶苦茶だがこれ以上は被害を気にしなくていいという話だね。同時にゴーティア自体も逃がさない」
「おぉ……流石ですね、アルマさん!」
「ふふん、そうだろう?」
ウィルが目を輝かせ、アルマが薄い胸を張った。
マキナを始め、取り巻きたちは静かに涙を流しながら合掌した。
「さて、準備は整えたが本題はこれからで――――むっ」
「主ぃいぃいいいいいいいいい!!」
「うわっ!?」
黒い風がウィルを横からかっさらった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます