第35話 そうていがいの・とらぶる

「さて、どう動くか……」


「手っ取り早く分断するとか? 戦いながら誘導すれば……」


「ダメだ。あいつらがそう簡単に挑発に乗って来るとは思えない。むしろ俺達の距離が開けば、相手に連携させる隙を与えることになる」


「じゃあやっぱり、連携を止めることが先決ってことね」


「ああ、でもあの二人を止めるには生半可な力じゃ意味がない。何かもっと、大きな力がいる。それこそ、最終奥義のような」


「前の二人みたいに攻撃してみる?」


「貯めるにはそれが一番だが、アレはあの時、あの二人だからこそ成功した芸当だ。俺達がやっても、発動前に体力を削りきられて終わるのがオチだ。それに俺の最終奥義は――」


 話の途中にも関わらず、D`Arkがいきなり俺を蹴飛ばした。


 瞬間、さきほどまで俺がいた地点にメイスを振り下ろしながらDawnが来る。


 大きな衝撃音とともに地面がひび割れ、抉れた。蒔奈の攻撃で俺も僅かにHPが削られたが、ナイス判断だ。


「助かった」


「ぼさっとしないで、次がくるわよ」


「わかってる!」


 上を警戒した途端、D`Ark姫の懐に忍ぶ陰。


「D`Ark!」


「くっ」


 至近距離で下から上に振り上げられたDuskのメイスが、D`Ark姫に迫る。間に合わないと理解しながらも、俺は走り出した。


 持ち前の反射神経で、声をかけたときには既に剣を抜いていた蒔奈が、メイスを剣で受ける。再び響く金属音の中、間髪入れずDawnがDuskを飛び越え、姫に向け《インパクト・ファング》を発動した。


 力強く振り下ろされたメイスが姫を叩きつけ、二割程HPを削る。


 追撃しようとメイスを振りかざしたDawnに向け、走りながら《苦無》を発動する。三本の苦無が命中し、僅かにDawnのHPを減らすが敵の攻撃は止まない。


 想定済みだ。動揺して攻撃を中断してくれれば助かったが、相手はそんな小手先のハッタリが通用する相手じゃない。


 でも、これで照準エイムは整った。


 《灼撃》を発動し、Lie-Tが拳を構える。炎を纏う拳を打ち出す瞬間、続けて《縮地》を発動。メイスがD`Ark姫の体に食い込む寸前で、瞬時に距離を詰めたLie-Tの拳がDawnを穿つ。


一割程HPを削りながら、Dawnの体が吹き飛ばされた。


「……今の間合いを詰めますか。さすがですね、駆音さん」


 ゆらりと立ち上がりながら、Dawnが話しかけて来る。


「褒めて頂き、光栄だッ」


 Dawnとの距離を詰め、ナイフを振りかざす。メイスで弾かれ、俺は一度退いて間合いをとった。


「後ろ!」


 D`Ark姫が叫ぶと同時に、俺はすぐにステップで横に回避した。


 いつの間にかD`Arkとの鍔迫り合いから逃れたDuskが、俺の背後からメイスを振りかざしたのだ。


 しかし、ステップした方向には透明の――Dawnが発動した《リメイン・サドゥン》の刃があった。


 前後からの挟み撃ち。ステップ直後の攻撃をよけられるはずもなく、俺のHPが一割程減る。


 ――今のはたまたまだった、と思いたいな。


 だがもし今のが俺の行動を読んでのものだとしたら。海での一戦と今までの数十分で俺が回避する方向の癖を見抜いていたとしたら。


――そんな相手に、本当に勝てるのか……?


 すかさずD`ArkがDuskに向かって突っ込んでいくが、Duskはひらりと身をかわし、逆にカウンターの技を叩き込んだ。


 技を食らった直後。カバーに行こうにも、体が動かせない。


 吹っ飛んでいくD`Arkを、さらにDawnが追う。宙に舞ったままのD`Arkに追いつくと、空中でスキルを発動。Dawnの振り上げたメイスは完璧にD`Arkの体を捉え、吹っ飛ぶ速度を加速させる。


 かなりの距離を飛ばされたようだ。マップはかなり遠くの位置を示している。こうなってしまえば合流できるまでには時間がかかる。


「Lie-T!」


 追い込まれ、脳を全力で回転させていたとき。


「このままじゃ――だわ。Lie-T、――に」


 ふと、蒔奈の声にノイズが混じった。


「Lie-T、――に――」


「どうしたD`Ark! 聞こえるか⁉」


 叫ぶが、声が届いている様子はない。システム的にミュートになっているわけではない。


「D`Ark!」


もう一度名前を呼ぶが、やはりこちらの声は届いておらず向こうの声も届いてこない。


 まさか。


 脳裏に、最悪の場合パターンがちらつく。


 ――故障エラー

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