第26話 しょうり・けつれつ
それから四時間。計五試合を勝ち抜き、俺達は翌日の二次予選への参加が確定した。
「……なんとかなったな」
どっと疲れた。PCの前から動くのもかったるい。
慣れない二対一組の試合、更に初参加となる大会とはいえ、未だ予選。危ない場面もあったが、どうにか俺達は一日目を終えていた。
ここまでは予想通りだ。一か月間のトレーニング期間を経て、このくらいはやれると確信していた。まだ粗は多いが明日の二次予選、明後日の本戦だって勝算がないわけではない。
しかし無事に一日目を終えたというのに、蒔奈は浮かない顔をしていた。
「嬉しくないのか?」
「嬉しいわけ、ないでしょ……」
嬉しくないわけ、の聞き間違いではない。それははっきりしている。
何より、蒔奈の言いたいことが何か、なんとなく想像できてしまったから。
「あんな試合内容で、嬉しいわけがないじゃない……‼」
予想通りの言葉が紡がれ、俺は開きかけた口を閉ざした。
蒔奈の言う通り、勝てたとはいえ試合内容はボロボロだった。
だけど試合を、それも勝利を楽しめないのであれば、この先GoMをプレイしていくことはできない。いつの間にかGoMをやる意味を見失って、GoMの為に捧げた日々を「無駄だった」と切り捨てるようになるのがオチだ。
「でも俺達が自分の力で掴んだ勝利だ。喜んでも――」
あそこでもっとこうしておけばよかったと反省するのはいい。でも、試合自体を否定するのはダメだ。それは、敗者への侮辱でもある。
「おれたちが……?」
気づくと、蒔奈は泣いていた。泣きながら、自嘲する様な笑みを浮かべていた。
――まずい。
何となく、そう思った。
「違うでしょ」
鼻で笑って、蒔奈は話を続ける。
――ダメだ、それ以上は。
これ以上話せば、大切な何かを失う気がする。そう思っていても、この空気を変える術なんて俺は持っていなかった。
「駆音が、でしょ。私は結局、何もできなかった。足を引っ張っていただけ」
――止めてくれ。話すな。それ以上口を動かさないでくれ。
心の中でそう思うのが精一杯で、口からは何も出やしない。どれだけLie-Tが多彩なスキルを操れたとしても、現実の俺はただのコミュ障でしかないから。
「だからもういい。どうせいつか負けるんなら、この手で終わらせたい。明日の予選は棄――」
パリン、と心の中で何かが砕け散った。
「……けるなよ」
「……え?」
「ふざけるなよ‼ お前は何がしたいんだ‼ 勝手に俺を拉致って、勝手に仕事を押し付けて! 挙句、目標を達成できなさそうになったら『もういいです、やめます』って⁉」
壊れた何かは、すぐには戻らない。
「この前だって、誠と深湖子の前であの態度は何だ! いくら悔しいからって、最低限の礼儀ってもんがあるだろ!」
今更過去のことを掘り出しても、何にもならない。分かっていても、その何かがとどめていたものは、濁流のように俺の中からあふれ出てきて。そして、一度溢れでたものをすぐに止めることはできなかった。
「俺は、俺だって理由が、居場所が欲しいんだ。探してたんだ。やっと見つけかけてたのに、ここでもいいと思っていたのに……。なのにお前はそれすら否定するのか。お前は、失うものもないくせに‼」
「私だって……」
顔を上げると、蒔奈は涙を流していた。
「私にだって、失うものくらいある」
声もあげず、驚いた顔のまま戸惑うように。
頬を伝う雫を見ていると、急速に頭が冷えていくのを感じた。いや、頭だけじゃない。全身が、内から冷えていく感覚。
言い過ぎた。何か言わなきゃいけない。謝らなければいけない。
頭では分かっていても、体はいうことを聞かなかった。俺はその場から逃げ出すように自室に戻って鍵をかけ、そのままベッドに横になった。
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