第21話 いざこざ・げーみんぐ
コテージの、締め切られた一部屋。鍵がかかっていたその扉を開けると、地下へと続く階段が現れた。
誠に続いて階段を降りていく。かなり広い空間みたいだが、暗くて良く見えない。
「マイシス、電気を付けて」
誠がそう言うと、部屋の電気がついてぱっと明るくなった。
机が四つに椅子が四つ。それぞれにPCがセットされており、二組ずつが向き合って並べてある。椅子はもちろん一般的なものではなく、ゲーミングチェアだ。
――ボイスコマンドで操作できるゲーミングルームを家につくるのが、最近のお嬢様小学生の流行りなのか? ていうかここ別荘だったよな? 別荘にわざわざ……本家にも同じ部屋があったりしないよな?
よく見てみると、四つあるテーブルのうち二つはデザインが違う。急遽運び込んだみたいだ。元々は誠と深湖子、二人で遊ぶためのスペースなのだろう。
「駆音、GoMできる?」
「できるっていうかそれしかできないんだけど、誠こそGoMをやるのか?」
「あれ、言ってなかったっけ。誠と深湖子はランカーよ」
「ランカー⁉」
ランカーとは、一年ごとにリセットされる世界ランキングで五百位以内に名を連ねている猛者のことを指す。世界中のGoMプレイヤー、一億の中の五百だ。割合に直して0.0005パーセント。
GoMをプレイする小学生ってだけで珍しいのに、そのうち二人はランカーって……。確率を想像するだけで、宝くじを当てる方が何倍も簡単に思えてくる。
「ちなみに、プレイヤーネームは?」
「誠が『Dusk』で、深湖子は……何だったっけ。確かじゃーんとか、ばーんみたいな名前だったと思うんだけど……」
「……『Dawn』?」
「そう、それ! って、なんで駆音が知ってるの?」
「そりゃ知ってるさ……。DuskとDawnといえば、界隈をざわつかせて消えた伝説のGoMプレイヤーだぞ」
今まで大会に興味が無かった俺も、蒔奈に教え始めてからいろいろ調べるようになった。
その中で何度も出てきたプレイヤーネーム。それが『Dusk』と『Dawn』だ。両者息の合ったプレイでコンボを繋げていく姿は、まるで一人が二体のキャラを操作しているようで、もはや芸術的ですらあったという。
半年前、突如として大会に現れては誰も寄せ付けない強さで勝ち進み、そのまま優勝したきり一度も大会に顔を出していない謎のプレイヤー。
誰が呼び始めたのか、ついた異名は「
「じゃ、誰からやる?」
「誰からって、二対一組でやるんじゃないのか?」
ぴりっと空気が張り詰める。何か言ってはいけないことを言ってしまったような。
「二対二は、ダメ」
誠が首を振る。深湖子も黙ってはいるが、誠に賛成の様だ。
蒔奈と顔を見合わせる。蒔奈の方もどうして断られたのか分かっていない様で、首を傾げていた。
「どうしてだ?」
「だって」
誠と深湖子の目付きが変わる。小学生に似つかわしくない、瞳の奥を燃やすゲーマーの目に。
「「
二人の声が重なる。
普段はおどおど誠の後ろに隠れている深湖子も、はっきりとその言葉を口にした。
「上等じゃない」
思わず息を呑むと、蒔奈が挑発的にそう返す。
「やりましょう。二人で」
「嫌。蒔奈とは、戦いたくない」
「いつも戦ってるじゃない」
「違う。いつもは、遊んでるだけ」
「私との試合は遊びだったってこと……?」
蒔奈の眉間にしわが寄る。
「ふんふん!」
はっと我に返ったように深湖子が慌てて首を振るが、誠は蒔奈を睨んだままだ。
「準備して。やりましょう、本気で!」
よほど悔しかったのか、叩きつける様に椅子に座る蒔奈。
「どうしても?」
「ええ」
「……分かった。深湖子」
「こ、こくこく」
深湖子が、持っていた袋を差し出してくる。受け取り中身を覗くと、俺と蒔奈のデバイスが入っていた。準備とは、これのことだったらしい。
お互い、向き合ってPCの前に座る。二、三歩分しか離れていなくても、ヘッドセットを付ければお互いの声が聞こえなくなる。
「いいのか?」
ゲーム内VCを利用して、二人には聞こえないように蒔奈に話しかける。
「何が?」
「負けるぞ」
ダン、と蒔奈が机を叩いた。
「戦ってみないと分からないでしょ。決闘だったら私の方が勝ち越してるし、最近は連携もとれるようになってきてるもの」
「いいや、戦わなくても分かるさ。今回ばかりはな」
蒔奈の怒りを冷たく突っぱねるように、端的にそう伝える。
それきり、蒔奈は押し黙った。
届いた二人への招待を受諾すると、俺の忍者アバターの周囲に三人のアバターが転送されてきた。一人はもう見慣れた騎士姫――蒔奈のアバターだ。
他の二人、誠と深湖子のアバターはよく似ている。どちらも女性のアバターで、全身をゴスロリ風のドレスで包み、手足すらロンググローブとストッキングで覆っている。ただし衣装のデザインや色のバランスは対称的だ。Duskは黒く、Dawnは白い。
「嘘……」
ヘッドホンから驚く声が聞こえてくる。誠の声だ。
「『Lie-T』が、駆音……?」
「ああ」
「……そう。だから、遊べなかったんだ」
「どういう意味だ?」
「なんでもない、始める。ただ、蒔奈、いつものルール、適用するね」
誠がゲーム開始のコマンドをクリックし、カウントダウンが始まる。
「ルールって、あれ⁉ ちょ、ちょっと待っ――」
怒りを忘れたように取り乱す蒔奈。
「「グッドラック、ハブファン」」
しかし誠は取り合わず、そのまま試合が始まった。
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