第19話 おふろ・あげいん
日も暮れてきた中、俺はビーチであと片づけをしていた。ビーチボールや浮輪を萎ませたり、のびたままのロリコンロリをコテージに運んだりと、遊ぶよりもこっちの方で体力を持っていかれている気がする。
蒔奈たちは先にコテージに戻った。今頃風呂から上がってくつろいでいるだろうか。俺も早くごろごろしたいが、芽吹に後片付けを命じられてしまったから仕方ない。執事の人たちは手伝ってくれないのか、なんて甘い考えはもう捨てた。
まあ実際に遊んだのは俺達だしな。片付けだけさせるのは悪い。
黙々と手を動かし続け、ようやく全てを終えてコテージに戻ると、しんとしていた。
「あれ……?」
――まさか、先に帰った?
いや、いくら芽吹が鬼畜とはいえ、そこまでするとは思えな……思いたくない。
冷静になって辺りを見回すと、荷物はまだリビングにあった。疲れて眠っているだけかもしれない。どこか別の部屋に集まっているという可能性もある。
そういえば芽吹は、この後のBBQに備えて買い出しに行ってくるとか言っていたっけ。メイドさん達がいないのも、買い出しの方について行っているからだろう。
ここから部屋をまわる気力はもうない。とにかくシャワーを浴びさせてもらうとしよう。
浴室へ向かい、脱衣所の扉を開ける――前にノックする。
一応ね、一応。ドアに窓なんかついているはずもなく、中の様子は分からない。仮に誰かいたとしても、ノックしたんだから俺に非はない。
少し待って返事がないことを確認して、俺は脱衣所に入った。これで完璧だ。
「ふんふーん、ふふブファ⁉」
気分が良くなって歌い始めた鼻歌は、浴室の扉を開けた瞬間すぐに途切れた。
詰めが甘かったというべきか。いや、この状況を誰が予想できただろうか。
蒔奈の家に負けず劣らず立派な浴室。やはりここもいくつかの浴槽がおいてあるが、最も目を引くのは浴室中央の木製の浴槽。何となく高級そうだし、檜風呂ってやつかもしれない。
問題なのは、その浴槽の中で三人の少女が肩を並べて眠っていることだ。
気付かれていない内にここを出るべきか? でもこのまま風呂で寝ていると絶対に風邪をひく。というか既に風邪をひいていてもおかしくはない。
――そうだ、委員長にさりげなくこのことを伝えれば……!
違う、ダメだ。あいつは今いないんだった!
攻めるも地獄、逃げるも地獄。こうなればもう攻めるしかない。GoMでもそうだ。攻めても退いても負けそうなら、僅かな望みに賭けて攻めるしかないんだ……‼
そーっと蒔奈に近付く。できるだけ見ないようにはしているが、その柔肌がどうしても目に入ってきてしまう。今日一日真夏の日差しに照らされて、水着を着ていたところ以外が薄赤く焼けている。三人ともそれぞれ違う水着を着ていたので、日焼けの模様も三者三様……っていかん、見るな、考えるな‼
蒔奈だけ起こせば、後は何とかしてくれるだろう。あとは退散して、事態が収拾したあとにゆっくり浸かればいい。
なんとか蒔奈に近付いて、肩をそっとつつく。
「んにゃ痛っ! って、駆音?」
「ん……何?」
ビクッと反応して、蒔奈が目を覚ました……のは良かったのだが、蒔奈の声に反応して誠も目を覚ましてしまったようだ。日焼けした部分をつついてしまったのは
ちなみに深湖子ちゃんは未だスヤスヤ寝息を立てて眠っている。寝顔は可愛いんだけど、格好が格好だからまじまじと見れない。
「ふわぁ……。全く、駆音は私を驚かさないと気が済まないのね」
「駆音……?」
まずい。イカンぞ。今度こそ通報される。
「の、ノックはしたぞ。俺は悪くない!」
「はあ……? なに、照れてる? 一緒に入りたいんなら素直にそう言えばいいのに。ね、誠」
「うん」
あれ……? たす、かっ、た……のか?
「ほら、早く入らないと風邪引くわよ」
蒔奈に手を引かれ湯船に浸かると、深湖子ちゃんが俺の右肩に頭を乗せてきた。むにゃむにゃ言っているところを見ると寝ぼけているだけのようだ。
それを見た蒔奈は不満そうに頬を膨らませると、ぎゅいっと左腕に抱き着いて来る。満面のドヤ顔だ。
行き場を無くした誠は迷うそぶりをみせた後、伸ばしていた俺の足に乗っかって頭を俺の胸に預けてきた。椅子が出来た誠は心地よさそうな笑みを浮かべているが、蒔奈はまた不機嫌そうに頬を膨らませる。
完成したのは、俺を取り囲む不落の城だった。幼女でできているから、幼城ってところか。はは、笑えるな。
いや、笑っている場合じゃない。この体勢は色々とまずい。指一本動かせないし、体のどこに神経を集中させても柔肌の感触が伝わって来る。本気でまずい。
「ま、蒔奈、体を洗うからどいてくれないか?」
「あら、まだ入ったばかりじゃない」
「上がるのは、十数えてから」
「そうよ、一緒に数えましょ。じゅーう、きゅーう」
「はーち……ダメ、駆音もちゃんと数えて」
最早説得にさく気力も脳のスペースも無く、俺は無心で数を数えることしかできなかった。人生で一番長い十秒。むしろ無心で数えられたことを褒めたい。俺、偉い。
「ぜーろ! それじゃ、私達は先にあがるわね」
「深湖子、起きて。風邪引く」
「むにゃ? むにゃ……」
誠に体を揺すられ体を起こしても、深湖子はまだ眠そうに目を擦っている。寝ぼけていたおかげか、俺に気付かずそのまま風呂場を出ていってしまった。
助かった。男性恐怖症らしい深湖子がこの状況を見るとどうなるか分かったもんじゃない。
それにしても、毎度疲れる風呂だ……。
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