第16話 ふりかえり・はんせい
「じゃ、今の試合を振り返ってみるか」
「今のでいいの⁉」
「いいんだよ」
蒔奈の手の上から手を添えてマウスを操作し、さっきの試合のリプレイを再生する。
一般的に外部ソフトを使わないと試合を録画できないゲームが多いが、GoMには自動で録画してくれる機能が備わっている。
「ん? 何か顔赤いけど大丈夫か?」
「気のせいよ。なんともないわ。それより、本当にさっきの試合でいいの? ……敗けた試合の方が学べることは多いと思うんだけど」
少しだけ辛そうに、蒔奈はそう言った。そりゃそうだ、敗けた試合なんて思い返すだけでも辛い。それを見て研究しようっていうんだから、想像するだけでもう泣けてくる。
「敗けた試合だけ見ても強くはなれない。敗因を知れば自分の弱点が分かるし、勝因を知れば自分の強みが分かる。弱点の克服も大事だが、自分の強みを理解して伸ばすことも重要だ」
GoMに限らず、どこが悪いのか分からずに伸び悩むことは多い。チェスや囲碁、将棋だって対局が終わった後に検討をする。GoMも同じだ。
――まあ、さっきの試合を勝ったと言っていいのかは微妙だが。鮮度の高い試合の方がフィードバックしやすいしな。
「まずは……ココかな」
二倍速で流しながら、ポイントになりそうな場面で一時停止する。
俺の離脱後、蒔奈が鉄さんと一対一になった後の場面だ。
「相手は拳を構えたまま距離をとってるよな。こういうときはどうする?」
「当然、突っ込んで攻撃あるのみよ」
「どうして?」
「だって相手は攻めあぐねてるってことでしょ? だったらこっちが攻めるチャンスじゃない」
「なるほど」
即答できたってことは、一応考えてプレイしてるってことか。
何も考えずにプレイする脳筋と、考えてプレイする脳筋とでは天と地ほどの差がある。
「でも残念ながら違う。この後どうなったか覚えてるか?」
「そんなのいちいち覚えてない。でもきっと、私の剣がこいつをばっさり――」
「違うな。正解は手痛いカウンターを喰らう、だ」
続きを再生すると、鉄さんのキャラ――IRONMAAAAANは姫の攻撃を躱し、右ストレートを放った。攻撃直後のダルク姫は避けきれず、HPを削られる。
「あっ……。なんで⁉」
「相手の動きがカウンター狙いだったからさ。攻めあぐねてるんなら、いろんな攻め方を試すか防御に徹するんだ。でも向こうはどちらでもなく、こちらの攻撃を待っていた。そんなときに無策で突っ込んで行けば、当然こうなる」
しかし細かいミスはあったものの、後のシーンは特に問題がなかった。
問題ない、というと冷たく聞こえるが、点数に直せば八十五点くらいだ。今回は二対一組の試合というよりは一対一の試合に近かったが、それでもこれだけ動ければ希望が見えてくる。動画でもみて勉強したのだろうか?
「攻めたらだめってこと? でも攻めなきゃ勝てないわ」
「攻め方が悪いんだよ。対処法はいくつかあるが、今から実践するには遅いしな……。そうだ」
もう一度マウスを操作し、GoMのウィンドウを閉じると、俺はブラウザを立ち上げた。動画投稿サイトの「Yo!tube」にアクセスすると、検索ウィンドウに「GoM」と打ち込む。
そう、動画だ。便利な時代だ。机に向かって手を動かすだけで、すぐに手本となる動きを見られるのだから。
「ん?」
「あ」
検索候補を見て、手を止める。
Yo!tubeでは検索ウィンドウに単語を打ち込むと、以前に検索した履歴を候補として挙げてくれる機能がある。
そして「GoM」と打って真っ先にでた候補は「GoM Lie-T」だった。
「こ、これは……そう。私の師になるに相応しいプレイヤーを選んでるときに調べただけよ。決していつも調べてたとかじゃ――」
えらく早口で蒔奈はまくし立てる。興味本位でそのまま「GoM Lie-T」と打ってみると、更に検索候補が出て来た。
「GoM Lie-T 技」「GoM Lie-T カッコいい」「GoM Lie-T 神」「GoM Lie-T ペア」「GoM Lie-T 好みの女性」
「調べただけ、ねえ」
思わず笑みがこぼれ、ニヤニヤと笑ってしまう。一方、蒔奈の顔はどんどん赤くなっていく。
操作感の好みが似ていたのも、蒔奈が俺の……なんというか、ファンだったからか。
「何よその顔は! 本当に調べただけだもん! 本当にい!」
――ま、まあこれ以上深く聞くのも悪い、というか俺が照れるからやめておこう。
「それに、たいした情報はなかったわ。ヒットするのは誰かが『Lie-T』と戦っている動画ばかりだし、それ自体の数も少ない。結局ちょっとしか研究できなかったし、分かったことといえば女性の好みくらいね」
まあそうだろうな。俺の女性の好みが分かったのは謎だが。Yo!tube怖い。
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