第14話 はじめての・きょうとうさぎょう

 命令通り部屋へ向かうと、蒔奈は一人でGoMをプレイしていた。自分と実力が近い者で戦う「ランクマッチ」をプレイしているようだ。


 画面に「VICTORY」の文字が表示されたのを確認して、蒔奈の肩に手を乗せる。


「よっ」


「ひゃわっ⁉」


「変な声出すなよ」


「駆音がいちいち驚かすからでしょ! で、なに?」


「そんなに怒らなくても……。マネージャーからお前の戦術指南を頼まれたんだよ。ちょっとステータス見せてもらうぞ」


 マウスを操作して、姫のステータス画面を表示する。


 GoMのキャラビルドに使える千のスキルポイントの内、六百から七百はステータス、残りを特殊スキルや最終奥義に割り振るのが良いとされている。


 しかし、予想通り蒔奈のキャラは大部分をステータス、それもSTR(筋力)に突っ込んでいた。


「うわ、想像はしてたがやはりか……」


「うわって何よ」


「良くこの構成でやってこれたな。何を考えて割り振った?」


 不満そうに眉をひそめていた蒔奈が、自慢げに胸を張る。


「どれだけゲームがうまくても、攻撃を当てずに勝つことはできない。逆に言えば、攻撃さえあてれば勝てるってことでしょ? だからとにかくパワーに振ったわ! 最初は振りすぎて全然動けなかったから、これでもだいぶ調整してるつもりなんだけど」


「なるほどな」


 一応蒔奈なりのポリシーはあるようだ。


「スキルにほとんど割り振ってないのはなんでだ?」


「……良く分かんないし覚えてないから。無くても勝てるし」


 蒔奈はばつが悪そうに視線を逸らす。自分でもこれじゃ駄目だと分かってはいるのだろう。


「なるほどな。じゃあいじっていいか?」


「え⁉」


 目を丸くして狼狽える蒔奈。うっすらと頬を赤らめている。


「そ、そんな……ダメよ」


「借りるぞ」


 半ば強制的に、STRに割り振られたポイントを削る。


「あ、ああ。そうよね」


 何かに納得したように頷く蒔奈をよそに、さっとステータスの余分なポイントを分解し、トレーニングモードを起動してからマウスを返す。


「気に入らなければすぐに戻せる。一度これで使ってみてくれ」


 キーボードを返すと、すぐに蒔奈はキーに手を置きキャラを操りだした。


 蒔奈がキーを叩く度、姫は踊り、剣を振り上げ、鮮やかに舞って見せる。


「な、何これ……。軽い!」


「AGIの方に重点的に割り振ってみた。こっちの方が蒔奈好みだと思うんだが……」


 蒔奈の好みというか、俺の好みでもある。蒔奈が選んだデバイスは、俺もむかし使っていたモデルだった。だから、俺の設定に近い値でステータスを設定し直してみたのだ。


「ただ――」


「これならっ!」


 疾駆した姫がトレーニング用に設置されたかかしを斬り抜く。


 しかし、かかしのHPはほとんど削れなかった。


「はあっ⁉」


「大幅にSTR減らしたから、攻撃力はゴミなんだけどな」


「じゃあダメじゃない!」


「これから調整すればいいだけだ。削った分のポイントはかなり余ってるからな」




 そして、あーでもないこーでもないと調整し始めてから一時間。


 まだ完全とは言えないが、とりあえずの形をつくることはできた。


「「で、できた!」」


 新D`Ark姫の完成を、声を重ねて喜びを分かち合う。


「結局STR寄りのビルドにはなったけど、前よりはかなりマシになったはずだ」


「ねえねえ駆音、早速試そ!」


「落ち着け。大方構築は終わったが、まだ少しポイントが余ってるだろ? 余ったポイントは――」


「分かったわ」


 ノータイムで蒔奈は残ったポイントをSTRに振っていく。


「――HPに振れって格言があってだな」


「どうせ余ってる分なんだから、何に入れたって変わらないでしょ?」


 適当なようで的を射ている。確かに余りのポイントはおまけみたいなもの、好きに振るのが一番ではあるが……。


 ――まあ、とりあえずは本人の好きにさせておくか。


「それじゃあ、早速しましょ、駆音!」


「ああ。……そうだな、どうせならやるか?」


 蒔奈の表情が固まる。しかしすぐに硬直は解け、両方の口角が持ち上げられていった。


「それって……!」


 今まではなんだかんだ、一対一の決闘しかしてこなかった。それは、蒔奈の実力を見定めていたからだ。


 しかし本来俺達が出場する大会は二対一組なのだから、二人で戦いながらトレーニングするべきなのだ。キャラビルドまで完成した今、二人でやらない理由はない。


「いいの⁉ あっ……」


 慌ててそっぽを向きながら、蒔奈が腕を組む。


「く、駆音がしたいんなら、別にいいわよ」


 今更なんのツンデレか知らないが、あがっていく口角を抑えきれていない。ニコニコしながらふんぞり返られても、反応に困る。


「俺は別に決闘でもいいが」


「え⁉ そん……え、遠慮しなくていいわよ?」


 冷静を装っているつもりかもしれないが、わなわなと口角が上下している。動揺しているのがバレバレだ。


 このままもう少し戸惑う蒔奈を見ておきたい気もしたが、これ以上はさすがに大人気ないか。


「冗談だよ。そろそろ連携技も試しておきたかったしな」


 再び蒔奈の瞳が輝く。口角どころかもう口まで開いてる。分かりやすい奴だ。


 「早く!」と急かす蒔奈をなだめながら、席についてヘッドセットを装着する。


「じゃ、始めようか。グッドラック、ハブファン」


「ぐっどら……? なにそれ」


幸運をグッドラック楽しもうハブファン。ゲーマー同士の、健闘を讃える挨拶みたいなもんさ」


「へえ……」


「じゃあ、始めるぞ」


「うん。ぐっどらっく、はぶふぁん!」


 言葉を噛み締める蒔奈を横目に、俺は試合開始のコマンドをクリックした。

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