第12話 おかいもの・おわり
目を覚ますと、俺は見知らぬ部屋で寝ていた。
いや、見覚えがある。ここは――。
「駆音?」
蒔奈が俺の顔を覗きこんでくる。
「うわぁっ! ったぁ!」
いきなり視界に現れたので思わず飛び起きてしまい、盛大に額をぶつけあった。
「っつぅ~……。何するのよぉ……」
「すまん。それで、俺はどうしてここに? 記憶が曖昧なんだが」
俺の記憶が正しければ、ここは多良見電気店の三階、つまり明日波さんが住んでいる家だ。俺はそのリビングで、ソファに寝かされていたようだった。
「駆音が倒れたから、部屋を貸してもらったの。買い物は終わったわよ」
レジ袋から蒔奈はキーボードとマウスを取り出した。キーボードは蒔奈が最初に見ていたGolden Bunny、マウスは同くSimple社製のFuzzy Lop。小型軽量なのに動作の遅延が少ない、優秀な人気のモデルだ。
「お、起きたか?」
明日波さんがレジ袋を持って部屋に入ってくる。こちらは多良見電気店のものではなく、コンビニのレジ袋だ。
明日波さんは遠慮なく俺の隣に座り込むと、袋から缶ビールを取り出した。
「お前も飲むか?」
「ふざけないでください、まだ未成年ですよ」
「んだよ真面目だなー。ほれ」
缶ビールのかわりに、清涼飲料水を取り出し、投げ渡してくれる。
「蒔奈も飲むか? ビールとジュース、どっちがいい?」
「いらない。駆音が起きたから、帰るわ」
素っ気なく断るが、前ほどの敵意は感じない。寝ている間に何かあったのだろうか。
ハッとして時計を見ると、もう昼だった。寝ていた時間は三十分ってところか。
よかった、思ったよりもロスタイムは少ない。ただでさえ少ない貴重な時間を、こんな馬鹿馬鹿しいことで無駄にするわけにはいかないからな。
「蒔奈もこう言ってるし、帰ります。いろいろありがとうございました」
「おう、また買いに来いよ。ところでそいつ、そんなに強いのか」
「ええ、才能はありますよ。昨日の試合では俺と互角でした」
「へえ」
明日波さんの舌が蛇のように唇を這う。死んでいたはずの瞳には、
「そいつはいい。今度
ゾクッと背中に冷たいものが走る。
明日波さん自身も腕の立つGoMプレイヤーだ。エンジョイ勢を自称し、ランクに関係ない試合しかしないせいでランキングにはのっていないが、充分に大会で通用する実力がある。
「……今はダメです。次の大会に向けて、調整中ですので」
「な……! 大会に出るのか⁉ お前が⁉」
「そうよ。駆音は私のペアなんだから」
蒔奈が腰に手を当て、自慢げに胸を張って見せる。誇ってくれるのは嬉しいが、少し気恥ずかしい。
「その子の為にそこまで……。そうか、なかなかこのオレに告白してこないと思ったら、やっぱりお前ロリk」
「ロリコンじゃないです。それじゃ、お世話になりました」
これ以上いじられると俺の体も心ももたない。蒔奈の手を握って、店をあとにする。
「ちょっと待ちな。おい、幼女」
「蒔奈! ……何?」
明日波さんは手で「こっちにこい」と蒔奈を近づけると、耳元で何かささやいた。ニヤニヤ笑う明日波さんの目は、いつもの死んだような瞳に戻っている。さっきの気迫はもうどこにもない。
蒔奈の顔がまた不機嫌そうになっていっているのを見ると、またロクでもないことを言ってそうだ。
「じゃ、そういう訳だから。いつでもここに来ていいぞ」
明日波さんから解放された蒔奈が、俺の元に駆け寄って来る。
「…………やっぱりあの
独り言のようにボソっと呟かれた声は、聞かなかったことにしておこう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます