第8話 ステータスはバグだらけ
次の日。
日曜日の昼過ぎからログインした私たちは、あらためて昨日のレベリングの成果を確認しあっていた。
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【シエル】
種族:竜姫
職業:竜姫
性別:女
状態:蠑ア菴灘喧
Lev:15
ATK:390
AGI:200
DEF:475
DEX:20
MAG:305
所有スキル:竜姫 回避 剣術 剛化 竜鱗具現 遶憺ュ疲ウ
所有称号 :竜姫 赤竜の主
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【ユメ】
種族:夢猫
職業:メイド見習い
性別:女
状態:通常
Lev:14
ATK:1
AGI:540
DEF:19
DEX:550
MAG:200
所有スキル:夢遊 猫化 回避 挑発 夢喰
所有称号 :竜姫のメイド見習い 竜姫の親友
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とりあえず、未だにバグってる私の状態欄は置いておいて。
「なんというか…」
「バランスがおかしくにゃい?」
相変わらず低すぎる私のDEXとユメのATK・DEF。あまりにも偏ったステータスに、私たちは絶句した。
「しかもこれ、高いステータスはレベル二十から三十のプレイヤーと変わらないにゃよ…」
「そうですか…」
「それでシエル、その剛化と竜鱗具現のスキルはどういう効果にゃ?」
《剛化》
一時的に身体を硬質化させる。効果中、DEFが上昇、AGIが低下。
《竜鱗具現》
竜の力を纏い、魔力で鱗を創り出す。効果中、DEF及びATKが上昇。継続的に魔力を消費する。
「どっちも防御バフだね。剛化は速度減少、竜鱗具現は発動中に魔力を消費するみたい」
「魔力って何にゃ?」
「さあ? MAGじゃないの?」
魔法を使う力だから魔力じゃない?
「いや、MAGは魔法力だにゃ。そもそもMPみたいな項目ってステータスになくにゃい?」
「そうだね」
MPもHPもステータスには項目がない。…あれ?
ガンツやメイはMPって言葉使ってなかった?
思わず、フレンドリストを見る。
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ユメ オンライン
ガンツ オフライン
メイ オンライン
クロ オフライン
シロ オフライン
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「ねえ、一人呼んでいい?」
***
「シエルちゃん、おとといぶりねぇ。元気してた?」
「うん。メイも久しぶり」
暫くして現れたのは、一緒に狩りをした赤い髪の魔法士だった。
「はじめまして。ユメですにゃ」
「あら〜。こっちの子も可愛いわね。はじめまして。メイよ。それで、二人は私に何を聞きたいの?」
「えっと、かくかくしかじかで」
「なるほどね。私のステータスを見せて欲しいのね。いいわよ」
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【メイ】
種族:魔族
職業:魔法士
性別:女
状態:通常
Lev:23
HP:215/215
MP:545/545
ATK:290
AGI:280
DEF:145
DEX:155
MAG:425
所有スキル:火魔法 魔法解除
所有称号 :なし
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「見ての通り、私にはHPやMPの項目がある。それはガンツやクロ、シロも同じよ。むしろ、それがないあなたたちは、どうやってスキルを発動してるの?」
「え? スキルの発動にもMPが必要なんですか?」
「そりゃそうよ。そうじゃないと無限にスキル打ち続けられちゃうじゃない」
「「…」」
「まさか…」
私たちは《回避》スキルや《挑発》スキルしか使っていなかったから、気づかなかった。攻撃系のスキルなどは無限に撃てるとゲームバランスを崩しかねない。
「二人とも。それは絶対に他の人に言っちゃダメよ」
「うん。わかってる」
「当たり前にゃ」
「運営には報告した?」
「あ〜。私はおとといに別件で。ユメは…」
「まだにゃ」
「今のうちにしておきなさい」
「はいにゃ」
***
二日後…
神代VR EGO管理対策室
そこは、Everlasting Garden Onlineのバグの対策、対応、予防を行う部屋だ。
そこでは、目の下に深いクマを作った数人の男女が必死にキーボードを叩いていた。
「おわんなぁーーーい! なによ、あのクソ開発員ども! 事前のデバックくらいしときなさいっての。私たちはお前らの召使じゃないのよ! 今度あったらそのちっちぇえ✖️✖️✖️を切り落として再起不能にしてやる!」
「室長、流石にそれはマズイです」
室長と呼ばれた女性は、艶など微塵もなくなりボサボサのまま放置された髪を掻きむしり、悪態を吐く。
それを諌めた副室長だったが、あまりにも気持ちが分かるので否定できなかった。
何せ、EGOがサービスを開始してから七日で報告されたバグの数は千に及び、それを十に満たない人数で捌いているのだ。広いとは言えない部屋の中はゴミが散らばり、さらに手狭に感じる。
エナドリをがぶ飲みし、ディスプレイの光でしょぼしょぼになった目を目薬で誤魔化す。終電どころかこの七日で帰路についた者は一人もおらず、なんなら寝た者すらいない。急速にやつれていく彼らを見て、近くのコンビニの店員が本気で心配し、警察に電話しかけたとか。
それでもかろうじてこのゲームが運営されているのは、彼女たちが非常に優秀で非凡だからに他ならない。
「室長! 緊急案件です」
「今度は何!? 大体は直したはずよ!」
「それが、通常のバグ報告に埋もれていたらしくて…」
緊急案件とは、ゲームの進行に直接的に作用するバグのことだ。それだけは室長である彼女が精査し、対策を行う。
「HP・MPの非表示バグ? て言うかこの子、他でもバグ報告してなかった?」
プレイヤーIDからステータスを閲覧すると…
「なにこれ!?」
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【シエル】 ID 666666
種族:遶懷ァォ
職業:遶懷ァォ
性別:女
状態:弱体化
Lev:20
ATK:490
AGI:250
DEF:600
DEX:25
MAG:380
所有スキル:遶懷ァォ 蝗樣∩ 蜑」陦 蜑帛喧 遶憺ア怜?迴セ ◼️◼️◼️
所有称号 :遶懷ァォ 襍、遶懊?荳サ
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【ユメ】 ID 7777777
種族:螟「迪ォ
職業:メイド見習い
性別:女
状態:通常
Lev:23
ATK:1
AGI:810
DEF:28
DEX:820
MAG:290
所有スキル:螟「驕 迪ォ蛹 回避 挑発 螟「蝟ー
所有称号 :遶懷ァォのメイド見習い 遶懷ァォの親友
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おかしい。ステータスの文字化けだけではない。HP・MPの表示がないこと。レベルに対してステータスが高すぎること。一瞬チートを疑ったが、なら報告するわけがないと思い返す。
文字化けしたステータスを食い入るように見つめ、これを引き起こした原因を探ったが、不具合は見つからない。
あれでもないこれでもないと悩んでいると、再び別の社員の声が聞こえた。
「室長! 緊急事態です!」
「案件はそこに…」
「ちがいます。案件じゃないです。社長がここに来るそうです」
「ふーん、社長がねぇ…。は!?」
理解に少々時間がかかったが、ことの重大性を理解したのか、彼女は大声で叫んだ。
「全員!!! 全力で片付けて!!!」
***
「皆さん、こんにちは」
「お、お久しぶりです、社長」
おっとりとした優しげな雰囲気を纏う女性がそこにはいた。この神代VRという会社を作った創業者、神代 光だ。
「あらあら、そんなに畏まらないくてもいいんですよ」
「そ、そういうわけには」
この会社は、縦の力がとても強い。そのため、社長はその神々しさや美しさもあってか、神のように崇められていた。
「ここ最近、不眠不休で頑張ってくださっているそうですね。本当にありがとうございます」
「いえ、私達はそれが仕事ですし」
「それでも、感謝しているのですよ。皆さんがいなければ、EGOは回りません。開発も管理もそこに優劣など無いのです。みんなでEGOの世界を美しくしていきましょうね」
「はい!」
続いて、部屋を見渡した社長はあるものを見つける。
「おや、これは…」
「あっ?」
それは室長が対応していた、二人分のステータスが表示されたパソコンだった。
「今やっているバグの内容です。ステータスの表示に不具合が…」
必死で説明しようとした室長が言葉を止める。
彼女は見た。その画面を熱心に見る社長の姿を。そしてわずかに彼女が微笑んだのを。
「これはバグでは無いですね。突き返しておきましょう」
「はえ?」
目にも止まらぬ速度で彼女はキーボードを打ち、画面にはこんな言葉が表示される。
『此方では不具合は確認されませんでした』
短い、本当に短い一文。室長が我に返ったのはそれがもう送信された後だった。
「それでは、次はもう少し片付けて使ってくださいね〜」
その言葉と共に彼女が部屋を出た、その瞬間。部屋の至る所からゴミというゴミが飛び出し、一瞬で彼らは埋もれる。
その中で、ただ室長は立ち尽くすのみだった。
***
「見つかった♪ 見つかった♪」
ひとりの女性が小躍りしながら通りを歩いていく。雨が降る中、傘も刺さずに。街ゆく人はそんな彼女を気にも留めない。まるでその女性だけ住んでいる世界がずれているようだ。その髪と肌は純白で、神々しく輝いている。
やがて、女性は一軒の家にたどり着いた。
「お母さん、お帰りなさいデス」
「ただいま♪」
中から出てきたのは、同じく純白の少女。女性の娘のようだ。
「何か良いことでもあったデスか?」
「ええ♪ ついに、見つけたわ」
「!?」
女性の言葉に驚く少女。それを気にせずに、女性はパソコンを立ち上げる。
ID 666666 シエル
本名:東雲 宙
年齢:十七歳
所属:百花高校
「ラス。引越しするわよ」
「またデスか。今度はどこに?」
「姫様を…覚醒させるの」
その日、誰にも気づかれぬまま、一つの家が忽然と消えた。その家の表札は、
《神代》と書いてあった。
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