第6話 ダンジョン攻略は余裕?

「ここが見つかったって言うダンジョン?」

「そうそう。怨嗟の地下祭壇。最前線組が昨日見つけて、自分たちでその日のうちに攻略。情報公開したのにゃ」

「へぇ〜」

「興味なさそうにゃね」


今私たちがいるのは、始まりの街から走って一時間ほどにあるダンジョンの中。

入口から入ってすぐのところだ。


「にしても、どうする?入口塞がっちゃったよ? …大量のモンスターで」

「にゃはは… シエルの能力を舐めてたにゃ」


私たちが目を向ける方向には、ダンジョンの入口。そのモンスターの侵入を阻む透明な壁に大量のモンスターが群がっている。その目は外からは見えないはず

の私を凝視しており、正直ちょっと怖い。


「とりあえず、進むしかないにゃ。ラスボス部屋に街までの転送魔法もあるって攻略サイトに載ってたにゃ」

「ちなみに適正レベルは?」

「二十五。ボスは三十」


…死に戻りを覚悟しておこう。


「大丈夫。なんとかなるにゃ!」

「その自信はどこからくるの…」


不安を感じながら、私たちはダンジョンに潜っていくのだった。


***


ーーーーーーーーーーー


パーティメンバー


・シエル lev10

・ユメ  lev8


ーーーーーーーーーーー



「順調だにゃあ」

「そうだね」


入口からそこそこの距離を進み、一度に二、三体のモンスターしかやって来ないことに感動を覚えつつもレベリングに精を出す。


「この松明、酸素不足で消えたりしないの?」

「しないだろうにゃあ。多分このゲーム特有の魔法的な何かにゃ」

「魔法の火ってこと?」

「そう言うことにゃ。酸素の代わりに魔力で燃えてるとか、そういう設定になってると思うにゃ。おっと、敵さんにゃよ」


目の前には、額から水晶が生えた狼が二匹。


クリスタルウルフ lev20

クリスタルウルフ lev18


「「グルルルル…」」


低い唸り声で威嚇してくる二匹のうち、一匹が飛びかかってくる。


ガンッという音がして、私の持つ初心者用の剣とクリスタルウルフの爪が火花を散らした。一瞬の膠着状態。それは果たして私の勝利に終わる。


「はあ!」

「ギャイン!?」


年端もいかない少女に力負けするとは思っていなかったのか、綺麗に吹き飛ばされたクリスタルウルフはダンジョンの壁に激突し、首が変な方向に曲がってチリとなって消滅した。それを見たもう一匹はこちらへの警戒を強めたのか、近寄って来ない。


「ユメ、お願い」

「がってんにゃ! 挑発!」


後ろに控えていたユメが挑発のスキルを使ったその瞬間、クリスタルウルフの瞳が見開かれ、ユメへと突進した。


「回避!」


それをひらりと躱し、すれ違いざまに短刀を一閃。ほとんどダメージにはなっていないが、これがあるだけで勝利時にユメに入る経験値が倍は違う。


「後は任せて! はあ!」


一度攻撃すれば、今度はこちらに突進してきた。ターゲットが私に向いたようだ。突貫してくるクリスタルウルフの首を振り上げた私の剣が捉えた。


ザシュッと現実離れした音と共にクリスタルウルフの首が落ちる。


「周囲に敵の気配なし。お疲れにゃあ」

「お疲れ」


なんでレベルが倍も違う相手にここまで戦えているかというと…


「まさか、現実で死ぬレベルの身体欠損になったら即死だなんてね」

「HPの表示がないのはこのためなんだろうにゃあ」


そう。この世界、思ったよりプレイヤーもモンスターも死にやすく、首の骨が折れただけで大半の生物は死ぬ。もちろんモンスターにもステータスがあり、向こうのDEFをこちらのATKが超えなければいけない。が、超えてしまえば先ほどのように強く壁にぶつけて即死させることもできる。


「もしかしてユメ、このこと知ってた?」

「知ってたにゃ。というか、このダンジョンを攻略したパーティはその手法でモンスター蹴散らしてたにゃ」

「なるほどね」


そりゃあ、簡単にできるならそうするか。


「この調子でダンジョンクリアにゃ!」

「おー!」


そう思っていた時期が、私にもありました。


「やばいやばいやばいやばいやばい!」

「これはちょっと予想外にゃ!」


必死に走る私たちの後ろからは大岩が転がってきている。


「なんでいかにも危険なボタンを押すかなぁ!」

「その方が面白そうだからにゃ!」


その結果がこれだけどね!


「だいたい、ボス部屋へのルート覚えてないの!?」

「このダンジョン、ルートが変化してるにゃ! どれだけ覚えても意味なしってことにゃ! にゃっ、シエル、あそこ!」


ユメが指差す方を見ると、横穴がある。大岩は入って来れない大きさだ。


「飛び込むよ!」

「にゃ!」


そして大岩が過ぎ去るのを待ち。


「よかったぁ」

「危なかったにゃ…。さて、ここはどこにゃ」


そこは、書斎のような場所だった。本棚にはずらりと分厚い本が並べられ、壁にかかった松明が朽ちかけた机を煌々と照らしている。


「ちょっと調べてみるにゃ?」

「うん」


いつもなら、ユメの行動を止めようとしただろう。何が出るかわからないと。危険だと。でもなんだか「調べなければならない」そんな気がして、私は目の前にある一冊の本を手に取った。


***


「なんなんにゃ、これ…。全然読めにゃい」


そう言いながら、ユメは本をパラパラとめくり、後ろにポンと投げる。


何かがわかるか、クエストのフラグかと本を手に取ったはいいものの、その内容は文字化けしてしまっていて、一切確認できなかった。


「シエルー。これ多分全部読めなくなってるにゃよ」

「うん。そうだよね」

「私は諦めたにゃ。ちょっと寝るにゃ」

「おやすみ」


本を捲る私の手は止まらない。なんだか、続けなくてはいけないような気がして、止められなかった。


そして、見つける。


「なんだろ、これ」


それは一冊の日記だった。皮表紙はぼろぼろで途中で破れて真っ二つになったようだ。書いた本人、リーヴィスさんに申し訳なく思いながらも、開く。


「っ! 読める…」


文字化けしていない。それどころか、これは…


「日本語?」


日本人の作ったゲームだから、日本語になるのは至極当然だ。でもこの文字化けした本棚の中で、それだけが異常で、混ざり物のような気がした。


「…」


ユメは眠っている。疲れたのだろう。

その寝顔を横目に数瞬考えた後、


私はそれを、こっそりとアイテムを入れるストレージに仕舞った。


***


リーヴィスの日記


一二月二〇日 姫に呼び出される。何の用事だろうか? 我々が会うのは情勢的にはとても不味いのに。


十二月二十六日 姫に久しぶりに会った。相変わらず美しかったが、想像以上に窶れている。会議を明日行うらしい。私と爺、それに知らない奴もいた。あいつは何だ?


十二月二十七日 《汚く書き殴られていて読めない》



一月一日 地獄が始まった。こんなことをさせたくない。姫を止める力が、知識が私の記憶にないのがもどかしい。日の本の国の者よ。もし、この日記を読んだのならば、






彼女を止めてくれ。


《ここから先は破れている》

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