第5話 シャベッタアアアァァァァ!?
「っ! 逃げろ!」
ドラゴンの襲来で停止した思考が、ガンツの声で復活した。
「バラバラでいい! クロはシロを頼む! 嬢ちゃん、多分…」
「うん、あのドラゴン、ずっと私を見てる」
そう。飛んできた時も今も、ドラゴンは片時も私から目を離していない。
「街まで走れるか?」
「大丈夫」
「よし。走るぞ」
そして、いざ走り出そうとした瞬間。ドラゴンが大きく息を吸い込む。その予備動作は誰もが知るあの攻撃のためのものだ。
「ガンツ! 待っ…
その瞬間。私から少し離れたガンツを、ドラゴンのブレスが的確に撃ち抜いた。
〈ガンツ様が死亡しました〉
そのブレスは周囲を、まるで私を避けるかのように薙ぎ払って。
〈メイ様が死亡しました〉
〈クロ様が死亡しました〉
〈シロ様が死亡しました〉
あっという間にパーティは私以外全滅した。
最後は私だ。ドラゴンが近づいてくる。踏み潰される? 食われる?
そして、
「姫さま。ご機嫌麗しゅうございます」
「へ?」
ドラゴンは私の前に跪いた。
シ、シャベッタアアアァァァァ!?
***
ドラゴンは話してみると案外いい奴だった。パーティを全滅させたのも、どうやら姫さまとやらである私が攫われたと思ったらしい。
「まさか姫さまを手助けしてくださっていたとは。申し訳ありません」
そう頭を下げるドラゴンに、リスポーン後駆けつけた四人も困惑していた。
「ここ十数年行方知れずだった姫さまの気配を感じ、こうして爺が馳せ参じましたが、その間に代替わりされていたのですね」
代替わり? それってつまり、先代の竜姫がいたということ?
「先代がいたんですか?」
「おお、そうですぞ。もしや、記憶が…」
「はい。昨日より前の記憶がなくて」
嘘は言っていない。この世界の昨日より前の記憶はないからね。
「それはそれは。さぞ不安だったことでしょう」
いえ、割と楽しんでました。
「先代様、おそらく姫さまのお母様でしょうが、あの方はとても優しい方です。いつも里を想い、その行く末を心配しておりました」
「里?」
「我ら竜の住まう里でございます。強力な結界により今は隠されておりますが、向かいますか?」
「いえ、今はいいです」
それ絶対、強力なモンスターが大量にいるずっと先のフィールドでしょ!
「そうですか。爺はこの辺りにおりますゆえ、必要ならばお呼びくださいませ。すぐに駆けつけてみせましょうぞ」
「あはは、アリガトウゴザイマス」
こうして、私とドラゴンの初めての出会いは終わった。疲れた…。
***
「色々あったなぁ」
ドラゴンと別れたあと、臨時パーティから抜けた私は、ログアウトしてご飯を食べていた。
「色々ありすぎ… 私がいない間にどれだけ進んでるの」
「やりたくてやってるわけじゃないのに」
音夢の補習はしっかり終わったようだ。帰ってきた時は死んだような顔だったけど。
「忌々しい補習ともおさらば! 明日は土曜日! 一日中ゲー」
「宿題は?」
「はい…」
まったく。まあ、そんなに量は出てないし。
「昼までに終わらせれば昼からはずっとゲームだ!」
そう張り切る音夢を微笑ましく眺め、私は明日の予定にゲームの時間を書き込むのだった。
***
翌日午後三時。
キャラクリエイトにたっぷり時間をかけたのだろう。音夢が始まりの街にやってくるまでしばらくの時間を要した。
「シエル、で合ってる?」
「うん。ってことは、ねm…
「おっと、リアルネームはダメ。私のことはユメって呼んでにゃ」
そう言いながら私の口を塞ぐユメにコクコクと頷く。
ユメは、音夢を小柄にし、ネコ耳と尻尾をくっつけた姿だ。髪と瞳はは明るめの茶髪で、その好奇心旺盛な瞳がキラキラと輝いている。
「早速フレンド登録とパーティ申請にゃ!」
〈ユメ様からフレンド申請が届きました。承諾しますか?〉
→YES(select!)
→NO
〈ユメ様からパーティ申請が届きました。承諾しますか?〉
→YES(select!)
→NO
「それで、ユメ」
「にゃ?」
「その耳と尻尾はどうしたの?」
「あ〜。ステータス見たらわかるにゃ」
そう言って、ユメはステータスウィンドウを見せてくる。
ーーーーーーーーーー
【ユメ】
種族:夢猫
職業:メイド見習い
性別:女
状態:通常
Lev:1
ATK:1
AGI:120
DEF:5
DEX:130
MAG:60
所有スキル:夢遊 猫化
所有称号 :メイド見習い
ーーーーーーーーーー
「…どこからつっこめばいい?」
「どこからでもどうぞにゃ」
じゃあ、先ずは。
「この異常に高いAGIとDEX、異様に低いATKとDEFは?」
「レア種族の夢猫、そしてメイド見習いの効果にゃ。どっちもAGIとDEXに極大補正、ATKとDEFに極大のマイナス補正にゃ」
「なんて扱いにくいんだ」
あれ、これってユメは戦力としてカウントできない感じ? 撹乱はするから火力は私が頑張れと?
「ちなみに説明はこれにゃ」
【夢猫】
妖の一種。獲物を夢へと誘い、その生命力を吸い取る。長く生きた個体や特殊な個体は人に化けることもでき、国一つが夢猫に眠らされた事例もある。
AGIとDEXに極大補正。ATKとDEFに極大のマイナス補正。スキル『夢遊』獲得。
【メイド見習い】
メイド系統、初級職。AGIとDEXに極大補正。ATKとDEFに極大のマイナス補正。
「なんでこの組み合わせにしたの?」
「面白そうだったから」
そうだった… こいつはこういう奴だった。
「この夢遊ってスキルは?」
「状態異常付与系のスキルにゃ。効果はすごいけど、確率低い上に育てるのすっごい大変そうにゃよ」
睡眠、混乱、HP継続吸収が複合された状態位異常付与スキルのようだ。効果だけ聞くと強く感じるが、
「発動確率0.2%って、何十年前のソシャゲのガチャよ」
「にゃはは、まったくだにゃ」
VRが出始めたくらいからソシャゲは衰退していき、名物だったガチャの超絶低確率も一緒に消えていったと、ユメが教えてくれたことがある。
「聞きたいことはもうないにゃ?」
「うん。ユメが戦闘に於いて火力にならないことはよくわかったよ」
「仕方ないにゃ。火力はシエルに任せるにゃ。それじゃあ、レベリング行くにゃ!」
「えっ? 私がいるとレベリングにならないよ?」
私が敵のヘイトを異常に溜めることは、もちろんユメに言ってある。何か当てがあるのだろうか。
「シエル、モンスターがどれだけたくさんいても一気にやってこれず、そのモンスターもたくさんの種類がいて、追加で報酬がもらえる狩場ってどこかわかるかにゃ?」
「そんなところあるわけ…
いや、もしかして
私の表情から答えがわかったことに気づいたのだろう。私たちは息をそろえてこう言った。
「「ダンジョン!」」
***
ダンジョン
古代建造物の一種であり、特にモンスターが住み着く場所を指す。多くの罠や強力なモンスターがあり、生半可な覚悟で挑めば死は免れない。特に二つの型が存在する。
建造物型ダンジョン
古代の遺跡の中でも、地上に造られたもののこと
例:刃砂の塔、竜骸遺跡など
地下型ダンジョン
地下に造られたダンジョンのこと。建造物型よりもトラップが強力でモンスターが凶暴なことが多い。
例:旧アダマンタイト坑道、地神のへそなど
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