第3話 ナンデェ!?

「はっ!」


気づけば、中世風の街の広場にいた。周りにいるのは他のプレイヤーだろう。チラチラこちらに目を向けてくる。どうしたんだろう。


「よう、嬢ちゃん。戻ってきたか?」


声を掛けてきたのは、三十代くらいのおじさん。戻ってきた?


「あの、戻ってきたってどういうことですか?」

「ああ、嬢ちゃんな、五分くらいそこに突っ立ったままだったんだよ」


え、まじですか。


「まあ、それ自体は寝落ちとかで珍しくはないんだけどな。嬢ちゃんの見目がいいから、みんなで心配してたんだよ」

「それは… ご心配をおかけしました。あと、私は嬢ちゃんと呼ばれるほど幼くありません」


「「「「「ええ!?」」」」」


おじさんだけでなく、周りにいた人も驚いている。どうしたんだろう?


「い、いや嬢ちゃん。それは冗談きついぜ。だってどう見ても小学生ぐらいにしか見えないぞ」

「ふぇ?」

「ホラ」



おじさんがこちらに向けたのは、鏡だった。

そこにいたのは、私の最高傑作であるシエルの妹にも見える、十歳くらいのかわいい女の子。そう。何故か私は…


幼女化していた。


「ナンデェ!?」


***


それからしばらく、茫然自失となる私を見て周囲の人たちはあたふたしていた。


「落ち着いたか?」

「はい… 今日はもうログアウトします…」


もうやだ。げーむこわい。


「ああ、おつかれさん…」


最後に見た、周りの人達の哀れみの目が心に刺さった。


***


夜九時。


ゲームを終わらせてご飯を作っていると、玄関が開く音が聞こえた。


「ただいま〜。つかれだ〜」


音夢だ。私と音夢は、一緒に暮らしている。というより、私が音夢の家に居候している。いろいろあって家がなくなった私を、音夢の家族が拾ってくれたのだ。


お疲れな様子の音夢がソファに寝転がる。よほど補習が厳しかったのだろう。目が死んでいた。


「おかえり。今ご飯作ってるから、先にお風呂入ってきて」

「うーい。ねえ、宙」


だらけた体制のまま、音夢は真剣な顔になった。


「何?」

「楽しかった?」


さっそくEGOをプレイしたのが分かったのだろう。音夢が聞いてきたのはそんな質問だった。


「う〜ん? まだわかんないかな…」

「あれ? 四時間ぐらいやってたんじゃないの?」

「それは…」


何かを察したのか、音夢がニヤリと笑う。


「ははーん? さてはキャラクリに時間使いすぎた?」

「う、うん」


そこから、ゲーム内で何があったのかを途中食事も挟みつつ詳しく話したのだが。


「なんでそんなことになってんの!?」


そう言われましても…


「今日サービス開始で、宙がやったのって四時間だけだよね!?なんでその間に二回もバグに引っかかった挙句、幼女化してるの!?」

「二回? 一回じゃなくて?」


そう聞くと、音夢は首をぶんぶんと横に振る。


「五分くらい意識なかったってやつ。それ間違いなくバグだよ。EGOで何件か確認されてる」


そう言いながら音夢が見せてきたネットニュースには、

『有名プロゲーマーがバグに遭遇! EGOはクソゲーなのか!?」

の文字が。


「あ〜この人、VRMMOでのプレイヤースキルがあまりにも高いって有名になった人?」

「そう。いわゆるフルダイブ適性がとても高い大惨事VR世代の人だよ」


この人もなってるんだ。


「とりあえず、私も明後日には合流できそうだから。そしたら一緒にしようね」

「うん。そのためにも、補習頑張ってね」

「うっ、が、がんばる」


***


翌日、学校が終わった後EGOにログインした私は、昨日できなかったステータスの確認をすることにした。


「ステータスオープン」


ーーーーーーーーーー

【シエル】

 種族:竜姫

 職業:竜姫

 性別:女

 状態:蠑ア菴灘喧

 Lev:1

 

 ATK:90

 AGI:50

 DEF:100

 DEX:5

 MAG:80

 


 所有スキル:竜姫

 所有称号 :竜姫

ーーーーーーーーーー


一つ言っていい?


『竜姫』って何?


なんで種族・職業・スキル・称号全部にあるのかとか、私職業を選んだ覚えないとか、そもそも「りゅうひめ」なのか「りゅうき」なのか一切謎だし。

それに…


「まだバグってる」


とりあえずスクショを撮って運営に送りつつ、スキルの内容を確認した。


『竜姫』

 分類:種族スキル

 効果:竜以外の生物への特効(特大)

    竜からの好感度上昇値に補正(大)

    

強くね? 竜以外の生物への特効ってほぼ全生物じゃん。ステータスも、異様に低いDEX以外はレベル1の人族の平均である50を大きく上回っている。


「これなら下手な装備を買うよりも、レベル上げた方が良さそう」


序盤に買えるような装備のステータス補正よりも、この竜姫という種族のレベルアップによるステータス上昇量の方が期待できそうだ。


「行くか。街の外」


音夢が来るまでは一日ある。たくさんレベル上げてびっくりさせてやろう。


***


そう思っていた時期が私にもありました。


青い空の下、長閑な平原を爆走する私。その後ろからは…



いるわいるわ、数百羽のウサギが津波のように押し寄せてきていた。


***


繝壹リ繝ォ繝?ペナルティぅ縲手?蟾ア迥?迚イ縲『自己犠牲』


効果:その一 モンスターのヘイトを広範囲から異常に買うようになる。

   その二 繧ッ繧ィ繧ケ繝医r譁ュ繧後↑縺上↑繧

   その三 解放されていません

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