第2話 チュートリアル
「今の時代にゲームチェアって…」
家に届いていたEGOのゲームチェアを見ながら、私は呟く。
ゲームチェアと呼ばれる媒体がゲームにおいて主流だったのは、十年以上も前である。VRMMO初期に使われ、その使いにくさからすぐにヘルメット型に取って代わられた。
それはさておき。
諸々の初期設定を行い、さっそくゲームを立ち上げるとオープニングが流れ出す。
〈Everlasting garden Onlineへようこそ〉
〈ここは、神の箱庭〉
〈未来へと続く永遠の世界〉
〈この世界で、そしてあなたの世界で、あなただけの物語を紡ぎましょう〉
〈まずは、あなたの分身を作りましょう〉
→ゼロから作る
→身体情報をスキャン(select!)
今座っている椅子から情報が送られてきたのだろう。私の前に現実の姿と瓜二つな私が現れる。
「えーっと、髪は金髪、いや、銀髪かな? 瞳の色も変えて… えっ? 体型こんなに変えられるの!?」
その後、私はしばらくの間、キャラクリに勤しむのだった。
***
「出来ること多すぎでしょ…」
疲れ切った私の前にいるのは、一人の女性だ。
歳は十代後半あたりだろうか。流れる銀髪を腰まで伸ばし、その空色の瞳は、星が輝くかのように煌めいている。可憐から妖美へと変わりつつある怪しげな身体つきからは、少女特有の儚さと大人の女性の包容力が感じられ、製作者である私も魅入ってしまいそうだ。
制作時間は三時間。原型である私から、様々な部分を少しずつ弄り、完成したのがこの少女。名前はシエルと言う。
間違いなく、今まで音夢に勧められて始めたゲームの中で一番の力作だ。
〈分身は出来ましたか?〉
→YES(select!)
→NO
〈それでは、分身の能力を決めましょう〉
そう表示され、目の前に出現したのは、ガチャだった。
〈種族決定の儀を行います〉
〈種族決定の儀は今この間だけ、好きな回数やり直すことができます〉
〈一度決定した種族は基本的に変わることはありません〉
〈選択した種族によっては、分身の容姿に若干の影響があります〉
流石に、力作に変更を与えるような種族はちょっと…
「まあ、引いてみないと始まらないか」
いいの出てこい、と念じながらガチャのハンドルを回す。
「おっ、金色だ」
これは当たりを引いたか?
【鬼人】
小鬼種の進化系統の一つ。高い闘争本能を持ち、額のツノを起点にして神通力を使う。
…悪くはない。特に戦闘に関しては高いパフォーマンスが期待できそうだ。ただ…
「ツノかぁ」
あんまりシエルの姿を変えたくないんだよね。それに、シエルはいかにも外国人である。そんな子が頭からツノ生やして和服着て刀振ってる姿とかギャップがありすぎて想像できない。
「よし、次!」
今度は銀だった。
【ゾンビ】
腐った死体でできたモンスター。動きは遅く、力も弱い。が、放置していると無限に増えて手がつけられなくなる。かつて万を超えるゾンビに滅ぼされた国があったらしい… 全ステータスに微量なマイナス補正。特殊スキル『不死』を獲得。全身が腐る。
「ないな。次」
ドワーフ
スライム
ゴブリン
オーガ
ダークエルフ
ヴァンパイア
どれもこれも癖が強く、シエルの容姿が変わってしまう。もうこの際、人間でもいいや…
「三十二回目… へ?」
それは、突然のことだった。今までと同じく、金か銀の光が出てくるのだろうと思っていた私の視界を、虹色が覆い尽くした。
【竜姫】
竜縺ョ蜉帙r菴ソ縺?ォ懊r狩る一譌上?蟾ォ螂ウ姫。遶懷鴨縺ク縺ョ驕ゥ諤ァを持ち、他閠?∈縺ョ諷域?を持つ蟆大・ウ縺?縺代′縺ェ繧後k繝ヲ繝九?繧ッ種族。
〈遞ョ譌上?守ォ懷ァォ縲上′蠑キ蛻カ驕ク謚槭&繧後∪縺励〉
〈閨キ讌ュ縲守ォ懷ァォ縲上′蠑キ蛻カ驕ク謚槭&繧後∪縺励〉
〈遞ョ譌冗音諤ァ縺ォ繧医j螳ケ蟋ソ縺悟ケシ縺上↑繧翫∪縺吶?〉
〈遘ー蜿キ縲寂両?鞘両?鞘両?鞘両?鞘両?上?冗佐蠕励?〉
〈繝壹リ繝ォ繝?ぅ縲守イセ逾櫁劒蠑ア縲上′莉倅ク弱&繧後∪縺励〉
〈繝壹リ繝ォ繝?ぅ縲手?蟾ア迥?迚イ縲上′莉倅ク弱&繧後∪縺励〉
〈繝壹リ繝ォ繝?ぅ縲手?蜉帛宛髯舌?上′莉倅ク弱&繧後∪縺励〉
読めない。エラーなのか、種族の紹介文は文字化けし、書いてある内容を判別することはできない。
虹色の光は少しずつ収まり、最終的には私の体に入っていった。
「なんだったの?」
〈チュートリアルが終了しました〉
〈これより始まりの街バースに向かいます〉
「えっ!? ちょっとまっ…
こうして、私は何も分からないままチュートリアルの部屋から追い出されたのだった。
***
昔々
竜を狩る一族の元に、竜の力を持つ少女が生まれた。
少女は強かった。その剣は空を切り裂き、その魔法は大地を焼いた。人々はやがて、少女を崇め、祀るようになった。竜たちはその力が自分に向けられるのを恐れた。
ある日、神々の計らいにより、少女と竜たちは出会った。共に試練を乗り越えた
少女と竜たちは絆を深め、少女は竜たちの住む里を、自身の『家』と定めた。
しかし、幸せな日々は長くは続かない。
一族の人間が竜の赤子を攫ったことで、人と竜の血で血を洗う戦争が始まった。人と竜の間で揺れる少女は、その力を…《ここから先は擦り切れて読めなくなっている》[王立図書館蔵『邪竜大戦(原本)』より抜粋]
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