0-2
私の前世は良くある平凡な物だった。
普通の家庭に産まれ、恋をして、その人と付き合い、浮気され別れを告げられて……。その後家に泥酔しながら帰ってお風呂に入ってそこからの記憶が無い。
普通に考えればそのまま死んでしまったのかもしれない。
最後に思い出すのはでろでろに酔った勢いで電話を掛けた母親の『× ×には他に素敵な人がいるから神様が別れさせたのかもしれない』という言葉。私はその言葉を聞いてなんて返したのだろうか。
……もしそのまま死んでしまったのなら、本当に両親には辛い思いをさせてしまった。
だから……という訳でもないけど、本やゲームで見るような転生をしてしまったのならこの世界の両親に対しては、与えてくれた分の感謝を返したいと考えている。
現状前世の記憶を思い出しはしたものの、それまでの記憶が無くなった訳でもないらしい。私の身体は14年間本当に幸せだったのだろう。幸せで優しい思い出しか出てこないのだから。
でも聖女として祭り上げられるのは心底避けたい。
だってどのルートでも確定で死ぬ役目だし。
そもそも共通ルートの最後に覚醒する主人公の身代わりで力を使い果たして死ぬわけだし。
そんな二度目の人生は真っ平御免である。
「……セリ。つまり、そういう事だ。この世界とは違う世界……リ・リヴァースの聖女になってくれるか?」
落ち着いた私【菅野 セリ】へと、父親が聖女に関しての説明を終える。簡単に言うと聖女は世界に蔓延る瘴気、つまり人の過ぎた七つの欲を解消させる為の力を持つ人間だ。その場にいるだけで瘴気を薄める事が出来る……空気清浄機みたいな存在。
七つの欲というのは良く七つの大罪として挙げられるもので、リ・リヴァースの住人達はその欲を力として魔物と戦う……のだが、力を使いすぎるとその人は自身の欲に飲み込まれ徐々に魔物へと変化していく。完全に魔物になってしまうと人間に戻す事は難しくなり、やがて言葉も直に通じなくなって……最後には暴走し力を限界まで放出して死んでしまうのだ。
ちなみに魔物化が始まると欲深くなったり、身体に異変が生じたりと様々な症状が出始める。ゲーム中に態とその状態を放置すると、裏エンディングというメリーバッドエンド直行なルートへ入る事が出来るのだ。
怠惰の力を持つ仲間が暴走してリ・リヴァースの住民を纏めて眠りにつかせたり……1番記憶に残るのは嫉妬の力を持つ仲間が主人公を愛する余り、主人公に触れた物、見た物全てを破壊し尽くすエンディングだ。
......主人公にはそのルートには行って欲しく無いな……切実に。
勿論勇者にも瘴気を解消させる力がある訳で。それは一緒に戦闘をする事……と、身体的触れ合い。つまりは手を繋いだりハグをしたりする事。
1日が終わる度誰の瘴気を解消させるか選ぶんだけど、好感度や何回目かによって相手の受け答えが変わるのでプレイヤーとしても台詞集めがとても捗った。
尚聖女や勇者は家系だけではなく1000年に1度の割合で魔力の高い血筋を持つ家系からランダムで選ばれる。つまり聖女の力を持つ私の両親は魔力が高い……。うん、何か誇らしいな。
無表情でそんな事を考えている私の顔を両親は心配そうな顔で見つめている。流石に申し訳なくなった私は口を開き
「……なっても、良い……けど。落ち着くまで時間が欲しい……かな。その……まだ現実を受け入れられてなくて」
と目を伏せ、呟いた。
そう!とりあえず少し時間が欲しい作戦!
主人公が危機を脱した後に名乗り出ればきっと死ぬ運命を回避出来る!
先程トイレへ駆け込んだのが功を奏したのか両親は何かを言いかけ、そして小さく頷いた。
「急にそんな事を言われても信じられないものな……。分かった。神殿への報告はセリが落ち着いてからにしよう」
「……そうね。私がセリちゃんの立場ならきっと混乱するもの」
何処か寂しそうに微笑む両親に私の心が傷む。
その心を察したのか母親は寂しそうな笑顔から嬉しそうな笑顔に表情を切りかえパンと手を叩いた。
「ほら、私達がこの話をしたんだもの!明日は丁度日曜日だし早速セリちゃんの守護獣を決めに行かなきゃ!」
「そ……そうだな。うん。守護獣決めは大事だ。それに久々にアイツにも会いたいしな」
「……守護獣、………守護獣!?」
もしかして本編のプロローグにあった守護獣イベも体験出来るって事!?
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