転生した私は聖女の生まれ変わりらしいけれど、主人公の為に死ぬつもりはありません!

ハムスターだんご

0-1

「よく聞いて欲しい。セリ、お前はな。……この世界とは違う世界に存在した聖女様の生まれ変わりなんだ」




「──……あ。」






ぱちん、と頭の中でシャボン玉が弾ける様な、些細な音が響く。


その瞬間私の頭の中へ膨大な量の記憶が流れこんできて。






「……だから、16になったら本当に、本当に残念だがリ・リヴァースの大司祭様の元へ…………?どうした、大丈夫か?」




「セリちゃん?」




「………、………だいじょうぶじゃ……ない…………うぇっ……」






霞む視界の中で景色が黒く染まる。吐きそう。気持ち悪い。


胃から混み上がってくる異物感を無理やり押し込む。


そして大好きな両親の声をBGMに私はトイレへと駆け出し、鍵を閉め、その場に蹲った。ああ、最悪。最悪……最悪、だ。


何故って?ふふ、私はどうやら1行で死亡するあの同人ゲームの中に登場する聖女様の生まれ変わりらしいから!








【可能性勇者と七人の仲間達】






それは男女主人公選択式の恋愛を主軸に置いた同人ゲームで。


平凡な主人公の【有希(名前変換可能)】は高校から帰る途中、後々仲間になる魔術師カンナによって勇者の力に目覚める。そして異世界の魔王を倒して欲しい。勇者の生まれ変わりである君だけにしか魔王は倒せない、と告げられる所から始まる物語だ。




舞台は元々私が住んでいた日本なのだが、一部の転生者だけが使える力で異世界【リ・リヴァース】 へ行く事も出来る。つまり普通の学園生活も楽しめて、異世界生活や冒険も楽しめるという内容である。現実世界と異世界で起こるイベントも複数あり、私も良くスチル回収のために沢山周回したものだ。


同人ゲームではあるが、やり込み性や世界観、刺さる人には刺さるキャラ設定によりユーザー人気も高く、……勿論前世の私もドハマりしていた作品だった。でも前世は前世で今は今。それに、私は作中で主人公が大怪我した際自分の命と引き換えに‘‘確定で’’死ぬ聖女の生まれ変わり。

尚そのキャラに関して詳しい描写はなく、立ち絵も無しで仲間キャラにより1行で死亡が宣告されるだけのキャラクターだ。本編上の聖女は清らかな心を持って、進んで主人公に自らの命を捧げられたとしても、記憶が蘇った今の私にやれるわけが無い。


うん。主人公辺りには近付かない。後、両親を説得して別れたくないと告げよう。お母さんもお父さんも俗に言う親バカだから、娘が抵抗の意思を見せれば少しは考えてくれるかもしれない。


そうと決まれば早速交渉しに行こう。深呼吸を1つして、私はトイレの扉を開け──…………た。のだが。






「セリちゃん大丈夫!?救急車を呼んだから、安心しなさい!!!」




「セ、セリ……大丈夫か?ママが救急車を呼んでくれたから大人しくしてなさい。びょ、病気だったらどうしよう……!」




「パパ!セリちゃんが病気になるなんてそんな事言わないで!風邪でもただでさえ心配なのにそんな、不吉な、そんな……ううっ……」






そうだ。こういう両親だった……!新たに発生した頭痛にこめかみを抑える。目の前で泣き崩れるお母さん、そしてそんなお母さんを見てパニックを起こすお父さんを尻目に思わず空を仰ぐ。






……当然暫く経ってやってきた救急車には丁重にお帰りいただいたのであった。

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