第十八話:何でこうなるんだって……

「だから、何でこうなるんだって……」


 その日の夜遅く。

 俺は再び机に置いた手帳のスケジュールを見ながら、大きなため息をいた。


 理由は手帳のスケジュールに埋まったスケジュールの数々。


 四月二十八日が渚で、四月二十九日は綾乃。

 五月三日はエリーナ。五月四日には沙友理。

 そして、五月五日に詩音。


 ……何だよこの過密スケジュール。

 しかも何がヤバいって、これがすべてって事だ。


 キュンメモで綾乃狙いをしていると、どうしてもヒロイン全員の好感度を維持する必要がある。

 だから二年目にもなると、こういうハードなスケジュールでデートをこなすタイミングもなくはない。

 でも、それはある程度自分で意図して組み込むし、ゲームだからこそイベントだってさらっと終わる。

 だからこそ、あまり抵抗なくスケジュールを組めるだけだ。


 だけど、これはリアル。リアルなんだぞ?

 いや、こうなったのがリアルかつ、相手の好感度が高いからって理由もわからなくはない。

 けどさ。だからって、何でエリーナ以外の全員が、同じ日にここぞとばかりにデートに誘ってくるんだって!

 まだ手帳に整理する前だったから、バッティングしてないかめちゃくちゃ不安だったんだぞ。まったく……。


 まあ、お人好しよろしく全部OKにした、俺の心の弱さもあるけどさぁ……。

 自分の甘い性格を呪い、また大きなため息を漏らした俺は、机を離れベッドに横になると、何となく今日の事を振り返った。


   ◆  ◇  ◆


 朝の登校で綾乃との話をまとめた後、俺は校門前で風紀チェックをしていた沙友理に呼び止められた。

 またヒロインが同時に現れたこの状況に驚きはしたけど、もうこれは割り切っておかないとなぁ。

 とりあえず綾乃には先にクラスに行ってもらい、沙友理に呼び止められた理由を聞こうと思ったんだけど。


「翔君は、その……本日の放課後、時間はおありでしょうか?」


 なんて、逆に問いかけられたんだ。

 まあ、平日は帰宅イベントでもなければ、事前に予定が入る事もない。


「え? あ、はい。ありますけど」

「では、その……わたくしと一緒に、帰りませんか?」


 迷わず返事をした俺に対し、きゅっと眼鏡を直した彼女は、前回同様またも恥じらいながら、周囲に聞こえないよう耳元への囁いてきて、こっちは今日二度目の赤面をさせられ。


「あ、えっと。沙友理先輩が、いいなら」


 完全に頭がふわふわっとしてしまった俺は、思わずそう言ってOKしてしまった。

 あの囁きはほんと、蠱惑的でヤバいって……。


 ただ、まだこの時点じゃ放課後の帰宅イベントが発生したんだなってくらいにしか思っていなかったし。流れでOKしたのは自分だしと諦めがついたんだけど、後々後悔をするとは思わなかったな……。


   ◆  ◇  ◆


 教室に入り、ショートホームルームを終えると、いつも通りに授業を受け、案外さらりと昼休みになったんだけど。綾乃が友達と昼食のため教室を出て行った直後。


「翔っち翔っちー!」


 俺が売店に買い出しに行こうかと席を立ち上がろうとした瞬間、元気良く飛び込んできたのは渚だった。


「ね! ね! ゴールデンウィークに一緒に映画観に行こ?」


 席にバンッと両手を突き、前のめりになった彼女の圧に、俺はまた自分の椅子に戻された。

 って、このアングル、渚がシャツのボタンをいくつか外してるせいで、隙間から胸の谷間が丸見えじゃないか!


 これはヤバい! 絶対ヤバいから!

 慌てて渚の顔を見てごまかそうとしたんだけど、俺の反応を見た彼女の見透かしたようなにんまり顔に、既に遅かったことを悟る。


「もー。翔っちのエッチー」

「う、うるさい! お前がそんな格好で来るからだろって! 少しは気にしろって!」

「えーっ!? こうした方が制服着てても可愛いじゃん。あたしのこだわりだしー、流石に翔っちのお願いでも無理無理!」


 いや、こだわりを悪いとは思わないけど、だったら顔を赤くしてるんじゃないよ!

 こんな会話を教室でしなきゃいけないこっちの身にもなれって……。


「そ、それで。映画って、何で急に?」

「ふふーん。じゃーん! これが目に入らぬかー!」


 ドヤ顔で彼女がブレザーのポケットから取り出したのは……えっと、何々。

 『恋する青空』先行試写会チケット。カップル、限定!?


「お、おい! これって俺達じゃダメだろ?」

「何でー?」

「いや、だって。カ、カップル限定だろ? これ……」


 流石に渚がこの段階で恋人だとか言い出しはしないよな!?

 当たり前だけど、ゲームじゃこんな誘われ方されないけど、リアルでだって勿論こんな経験はない。

 そのせいで頭がテンパってて、ただただ動揺しながら困った顔をしてたんだけど。彼女はそんな俺を見て、くすくすっと笑いながら肩を竦める。


「もー。翔っちって頭固いなー。別にカップルの振りすればいいだけじゃーん。折角お母さんから貰ったチケットだから無駄にしたくないしー、あたしが気になってた映画なんだよねー。だからー、お願い!」


 突然俺に手を合わせて頭を下げる渚。

 今考えてみれば、彼女なら他に男子の友達くらいいるだろって思うんだけど、その時はもう頭が全然回らなくって、仕方なくOKしちゃったんだよな……。

 


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