第八話:それはおかしい気がする
……よくよく考えると、それはおかしい気がする。
家に戻って夕食や入浴を済ませた俺は、机に置いた大きめの手帳のメモ欄に、色々と気になる点をなぐり書きしていた。
いや、風呂に入ってたら。ふとある疑問が浮かんでさ。
このキュンメモの世界がおかしいのは、今に始まったことじゃない。
だけど、もしこの世界が誰かの為に作られたとしたら。そんな疑問に対するひとつの仮説が浮かんで、ちょっと整理をしてたんだ。
俺が思っている仮説。
それは、この世界が俺が望んだ結果、作られた世界じゃないっていう事だ。
みんなが開幕から俺を好きっていう状況。
何より、高校時代の俺の外見の方が良いという予想外の展開だけ見たら、俺の願望から生まれたと言われても不思議じゃないだろう。
だけど、例えば俺が死に間際にこういう世界を望むとしたら、俺は絶対に胸キュンメモリアルの世界を思い浮かべなんてしない。
だって、ここに来るまで忘れてたくらいなんだから。
同じ理由だったら、まだラブダブルプラスの世界の方がよっぽど可能性がある。
自分が一番好きなギャルゲーであり、奈々さんという一番好きなキャラがいるし。数年前にソシャゲでシリーズ作品がリリースされて、その時にも触れていたから記憶にも新しいからこそ、思い出すなら絶対こっちなんだ。
しかも、極端にゲーム要素が残っているのもまた微妙だ。
魅力的なヒロイン達に囲まれるなら、絶対に日常と同じ世界にする。
長く一緒にいたいと思うからこそ、日をスキップするような、露骨にゲームの世界を再現したような要素なんて望まない。
こう考えると、中途半端に俺を知る誰かが作ったと考える方が、よっぽど辻褄が合うんだ。
そしてもうひとつ立てた仮説は、俺の高校時代に関係してそうな気がするって事。
これは今日の詩音とのカラオケを思い返して感じた事だ。
いや、中途半端にゲーム的な世界なのはわかる。例えば、神様がそういう世界を用意したと言われればそれまで。
だけどこのゲームは、俺が生まれる前が全盛のゲームだ。
実際にスマホじゃなくて携帯電話だったりと、そういう再現度は高いわけだし、それだったら、ゲームを再現して現実とリンクさせるにしても、ゲームが生まれた時代の曲が使われるべきだろ。
百歩譲って、俺がいた今の時代でもいい。それだったら俺の記憶により強くあるわけだしさ。
でも、結果として存在していたのは、俺がこのゲームにハマっていた高校時代の曲。
そこをわざわざピンポイントに狙い、世界観を用意する必要なんてないはずだ。
だからこそ生まれた仮説。
この信憑性は高いと思う。
とはいえ、一生懸命考えた所で、俺のいるこの世界がどうやって生まれたのかも、誰の願望が盛り込まれたのかも分からないし、ただのパラレルワールドって言われたらそれまで。
大体、もし相手が俺を喜ばせる世界を作ったとして、誰がそれで得をするかって言われたら、誰も得しないだろ。
相変わらず俺がここにいる理由も、どういう目的で行動すべきかも分からないんだし。意味があるかといえば甚だ疑問なんだけど。
正直ヒロイン達との交流の事ばかり考えてても恥ずかしくなるだけだし、この先立ってどうすりゃいいのか混乱し、頭を抱えるばかり。
だったら、意味があるかは別として、こういう事も少しは考えたっていいだろ。
ヒロイン達に囲まれるなんてなれない環境にいて、どうしてもふわふわしがちな気持ちを落ち着けるには丁度いいしな。
◆ ◇ ◆
結局、次の日の日曜は敢えて家から出ず、ステータス強化アイテムも取らずに、家で家事をしたりして一人で過ごした。
別にまだ疲労感はないけど、多分これで休憩した扱いになろうだろうって思ったのがひとつ。
そしてもうひとつは、テレビを見たかったからだ。
いや。カラオケに高校時代の曲が多数あったって事は、実はテレビもそうだったのかって思って見てたんだけど。
知らない番組も多かったけど、確かに俺が知ってるCMだったり、当時見た事のある番組もちょこちょことあった。
この間の時間はたまたま俺が知らない、または俺が覚えてない番組をやってただけって事か。早とちりしたな……。
でも、それはやっぱりそれらの番組は高校時代の物なんだよなぁ。
見た瞬間は、あったあったって、ちょっと懐かしい気持ちにさせられたっけ。
ちなみに、元いた世界のテレビがやってるなら、上京でもしてテレビ局にでも行けないかって考えてみたけど、この間電車に乗った時に見た路線図を限り、無理だと思っている。
この市内しか再現されてないのか。ローカル線ばりに始発駅から終着駅まで数駅しかない路線図で、地図を見てもしっかり市内に収まってたからな。
こう考えると、ゲームで表現されていないエリアには出られなさそうだけど、一応ゲームのバグ探しよろしく、あちこちさまよって山越えしたりなんて事もやれなくないかもしれない。
ただ、それでなくたってゲーム感がある世界。
突然意識を失って翌朝ベッドの上って事もありそうだし、体を張って調査するのだって、絶対大変だろ。
だから、調べる必要が出てくるまで、そういう事は止めておこうと心に決めた。
◆ ◇ ◆
そんな感じで日曜を過ごし、翌朝の月曜日。
今回も以前考えていた通り、再び理系ステータスを上げる選択をして、通学する事にした。
珍しく登校時にイベントはなし。
流石に毎回だと朝から気疲れも凄いから、正直助かったと思ってる。
そのまま学校に到着し、普段通りに授業が始まったし、ある意味ほっとしてはいたんだけど。
ふと思い立って、俺は昼休みの時間、敢えて自分から行動を起こしてみることにした。
教室で颯斗や望と一緒に雑談しながらの昼食。
俺は自分で作ってきたおにぎりをちゃちゃっと食べ終えると、二人に用があるからと告げ、先に一人席を外れて廊下に出た。
さてっと。エリーナはまだ昼食中か?
そういやキュンメモって、ヒロイン達のクラスの情報ってなかったんだよな。
とりあえず現場百遍、足で稼ぐとするか。って、刑事みたいになってるけど……。
隣のクラスから順に、窓から教室を覗きつつ彼女の姿を探し始める。
何でこんな事をしてるかというと、何となくどうしてるか気になっただけ。
いや、一応学校で会いたいって言ってたし、あの時わかったって言ったらめちゃくちゃ嬉しそうだったからさ。
べ、別に向こうから来なくって寂しいとか、あの愛らしい姿を見に行こうと思ってたわけじゃなからな?
とはいえ、学校内での行動も通常イベントは帰宅時以外ないし、普段どうしてるかわからないんだよな。
まあ、中々大きな高校だけど、何とかなるだろ。
そんな楽観的思考を盾に、俺はそのまま各教室を見回ってみることにしたんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます